第3話 TSした友人はトイレにも付いてくる

 

 伊永瀧雄はクラスメイトに毛嫌いされている。


 俺の認識はそんな物で、甘野が男子であろうが女子であろうが変わらない気がする。むしろ、甘野が女子になってから少しばかり悪化した様に思う。

 

「…………はあ」

 

 嫌がらせが増えた。

 前々から無視されると言うのはあった。手伝ってほしいと言っても、手伝ってもらえないのは当然だった。だから、そう言うのは気にしてなかった。

 ただ、ここ最近はやけに攻撃的になってる気がする。

 

「靴がない」

 

 わざわざ犯人探しなんてしようとも思えない。別に気にするほどじゃない。そう言うのはありふれていて、一々反応するのも疲れるほどだ。

 

「瀧雄、どうしたの?」

「……あー、靴がなくてな」

 

 甘野……雪平には誤魔化しておこうかとも迷ったが、素直に伝える事にした。下校時間、下手に誤魔化しても意味がないと思ったから。

 

「隠されたみたいなんだよ」

 

 それを聞いて雪平は「探してくる」と居なくなってしまう。なんかアテはあるのか、と聞く間もなく。

 

「────あったよ!」

 

 雪平は笑顔で俺の靴を持って駆け寄ってくる。

 

「どこに?」

「同じクラスの男子に言ったら直ぐ持ってきてくれたよ。どこにあったかは分かんないや」

 

 雪平が持ってきてくれた靴を履く。

 

「意味分かんないよね。瀧雄の靴を隠して何になるのかな」

「……俺がお前と仲良いのが気に入らないとか、じゃないか?」

 

 だとしてもだよ、と雪平は不満そうな顔をした。

 

「瀧雄に落ち度はないし。僕が瀧雄以外を好きになるって訳でもないのに」

 

 雪平も靴を履き替えて、俺の手を取る。

 

「こう言うのは『これ以上甘野と居たら、これからも続ける』って感じだと思うけど」

「……どうしよっかな」

「気にしなくて良いんだよ。どうせ直ぐに飽きるだろ」

「僕が許せないのっ」

 

 怒ってます、と言う様に頰を膨らませる雪平に「俺は、別にそんな困ってないから」と宥める。

 

「僕は、自分の好きな人がそう言う事されたら嫌だよ……」

「そう言われても」

 

 俺が止めてほしいと言っても意味はないだろうし。雪平が注意した所で、より陰湿な事をされる可能性もある。

 

「そうだ。僕が見張ってればいいんだ」

「ん?」

「僕が瀧雄と一緒にいれば直ぐ気がつくもん!」

 

 名案を思いついた、と嬉しそうな顔で彼女は鼻歌を歌う。


「別に良いけど」


 それで俺の生活が極端に困窮する訳でもないだろうし。

 

「────トイレにも付いてくんの!?」


 後日。

 トイレに向かう俺に雪平が当たり前の様に付いてきたから、思わずツッコミを入れてしまった。


「良いじゃん。僕、元男なんだし」

 

 俺への嫌がらせは減ったけど、どうにも敵意を孕んだ視線が増えた気がする。

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竿役オークみたいな俺に、TSした友人が迫ってくる ヘイ @Hei767

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