第2話 TSした友人は胃袋を掴みに来る

 

 女子として学校に通うようになった甘野は注目の的だった。

 例えばそれは好奇の目。

 どれ程に性転換手術がありふれた物となっていても、色々と気になってしまうのだ。

 

「伊永、昼食べよ」

 

 告白から数日。

 俺は誰かから真っ直ぐに告白されたこともなかったから、何と答えた物かと迷っていると甘野は「返事なら十八歳まで待ってるよ」と彼、いや今は彼女か……が猶予を設けてきた。

 正直、義務化された十八歳までの結婚を俺は出来るとも思えない。甘野が居なければ。

 ただ、それで良いのかとも思う。

 

「甘野、告白の事なんだけどな」

「プロポーズだよ」

「……まあ、その事なんだが。恋愛結婚なんじゃないのか?」

 

 甘野がしたいのは。

 

「伊永の事、好きだよ……僕」

「友達としてじゃないのか?」

「……だったら性転換手術なんてしてない」

 

 ずっと前から好きだったのだと。

 男の時からずっと。

 甘野は男の時とは違う、高く細い声で言う。初めて会う人間には元々、甘野が男だったなんて信じられないだろう。

 

「俺は……まだ甘野の事を恋愛相手として好きって言える自信がない」

 

 甘野の事は嫌いじゃないし、好きだ。

 でも、それは恋愛かどうかわからない。俺は誰かに好かれた事がないし、好かれた事もないから好きになろうとも思えなかった。

 甘野が初めてだったから。

 

「だから十八歳まで待つんだ……! 僕を、伊永が好きになってくれるように頑張るから」

 

 俺を潤んだ目で甘野が見つめてくる。

 

「伊永はそのままでいい。そのままが良いんだ。変わらない君で、僕を好きになって欲しいんだ」

 

 甘野は深く頷いてから。

 

「好きにさせてみせるから!」

 

 俺に与えられた猶予は二年。

 この二年で俺は答えを出さなければならない。甘野のためにも。

 

「はい、伊永……ううん、た、瀧雄」

「な、え……お、おう。甘野」

「雪平って、呼んでほしいな?」

 

 上目遣いを向けられる。

 元々友人だった身としてどうかと自分でも思うけど、今まで好意を向けられた事のない俺には凄まじい威力を発揮する。

 しかも、美少女だ。

 元々の顔も整っていたからか、性転換しても面影は残しながらもとんでもない美少女になってる。

 

「ゆ、雪平……?」

「うんっ」

 

 俺が名前を呼ぶと甘野……じゃなかった、雪平は花の咲いた様な笑顔を見せる。

 

「そ、それで何だよ?」

 

 さっき俺に呼びかけたのは、何のためだったのか。

 

「そうだ、ほらお弁当。分けてあげるね」

 

 弁当の蓋におかずを乗せていく。

 卵焼き、ひじき、それとハンバーグ。家庭的なおかずだ。

 

「それとおにぎり」

 

 自分の弁当の中身が無くなっていくのに、雪平はどこか嬉しそうだ。

 

「ほら、食べて食べて」

 

 促されるままに卵焼きを。

 

「うまっ……!」


 甘野ってこんなに料理出来たのか。


「ふへへ。でしょ? 自信作。ほら、他のも」

 

 俺はハンバーグやひじきにも箸を伸ばす。ずっと幸せそうな顔で俺を見つめてる。

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