第5話 木村の野望

  浅田の背筋が凍りついた。


「確かに、木村さんの仰る事は全てその通りです! ですから、私共としましては出来る限りの事を……」


「『出来る限り』がコレかよ!」


木村は、先程浅田がしたように三本の指を立てる真似をして喚いた。


浅田の額に滝のような汗が噴き出す。


(なんだよ……この展開はよぉ……)


三百で丸く収めようなんて、とんだ甘い考えだった。


「……では、コレではどうでしょうか?」


浅田は仕方なく、あと二本の指を付け足し、慰謝料を五百万円に釣り上げた。


(頼む!これ以上は絶対無理!)




しかし……それを見ても、なおかつ木村が納得する事は無かった。


「ふざけんなっ! アンタ全然わかってね~な!」


テーブルを荒っぽく掌で叩いて、木村が勢いよく立ち上がった!


(ひえぇぇ~~っ! 殴られるぅぅ~~っ!)


てっきり木村に殴られるものだと思った浅田は、目を強く瞑り歯を食いしばった!













「………………………

…………………ん?」








「センセイ~~!! どうか俺に心臓の診断書を書いてはいただけないでしょうかっ!」


「ハイ~~ッ!! 喜んでぇぇえ~~~」   



翌日の木村が勤務する会社では……


木村に渡された『診断書』を受け取って、わなわなと持つ手を震わす丸山課長の姿があった。


「……本当だったんだ!……しかもこんな難病とは……」





    ―――――――――――診断書―――――――――――――――

  

               病名

            後天性心臓心筋肥大症



   十万人に一人の低い確率で発症する超難度の心臓疾患である為、自然治癒は不

   可能。 バチスタ術式による、心臓心筋切除手術が有効である。



名林大学総合病院

心臓外科担当医師

浅田 大輔


――おわり――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メディカル・パニック 夏目 漱一郎 @minoru_3930

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ