第60話
和音にそう言われて、飛鳥は来客の待つ店頭に足を向けた。
店頭に降りた飛鳥は、そこにいた青年の顔を見るなり大いに驚いた。
「ま、政忠さん!?」
「飛鳥くん……久しぶりだね」
「どうしてここに?」
飛鳥がそう尋ねると、政忠は「あなたに会いたくて」と答えた。
なぜこの場所が分かったのかという点については、和音に告げたように、和音の故郷であると聞き自ら探し当てたという。
飛鳥も、一体誰が和音の故郷について話したのか疑念が湧いた。
しかし、政忠がここまで来て目の前にいるのだから、無下にはできまい。
それに、彼が大金を出してくれたおかげで香煌楼を去ることができたのだ。
その礼もろくにできていないのだから、今がその時なのだろうと飛鳥は思った。
「わざわざ、遠くまでありがとうございます。きっと、この場所を見つけるのにも苦労なさったでしょう」
飛鳥は、元客である政忠に礼を尽くして微笑んだ。
「苦労など、とんでもない。君にまた会えて、とても嬉しいよ。あの時は、顔も見せずに去ってしまい、申し訳なかったね」
「いいえ、こちらこそ……私のためにお金を用立てていただいたと聞きました。あの時はお礼の言葉もお伝えすることができず、申し訳ありませんでした」
「謝る必要はないよ。私も、お金の工面に手こずってしまい、もう少しで間に合わないところだったようだし……」
それでも、政忠が金を用意してくれたから、飛鳥は今ここにいられるのだ。
「今の私があるのは、あなたのおかげだと思っています。感謝してもしきれません」
飛鳥の言葉に、政忠は照れ臭そうな笑みを浮かべた。
「いやぁ、君のために私にできることは、これくらいだと思ったから……」
政忠は、一刻も早くあの場所を離れて、和音といることが飛鳥の幸せになるのであれば、と思ったようだ。
「君は幸せなのかな?」
「はい。幸せです」
それは、揺るぎない答えだった。
和音がいなかった時期もあるが、今は商売も安定しているし和音との仲も順調だ。
だから、飛鳥としては躊躇うことなく幸せだと言えるだろう。
「そうか……それなら良かった」
そう答えた政忠の顔は、爽やかでありながらどこか寂しそうに見えた。
「君が幸せなのであれば、私も本望だ」
「あの、あの場から出るために払っていただいたお金は、必ずお返ししますから」
「あぁ……それなら、焦らなくてもいいよ」
政忠は、飛鳥に捧げた金だから気にしなくても良いと言う。
どの様にしてお金を用意したのかは分からないが、きっと大変な思いをしたに違いないと飛鳥は思った。
また、飛鳥が政忠の居所を訪ねたところ、今の彼は飛鳥たちの居住地の割と近くにいるらしい。
「君に会えた時間は、とても楽しかったよ。これからも、あの人と幸せに……」
そう告げると、政忠は店から出て行ってしまった。
飛鳥が帳場に戻ったところ、和音は荷物の整理をしていた。
その表情は、にわかに苛立っているように見える。
「話は、もう終わったのか?」
和音の言葉には、やはり剣があるようだ。
「うん……もう帰ったよ」
「そうか……それで?何の用だったんだ?」
恋人である和音としては、政忠との会話の内容が気になるのだろう。
それは飛鳥にも分かる。
「僕に、会いたかったと言っていました。それと、黙って姿を消して済まなかったと……」
「へぇ……それだけ?」
そう言って、和音は眉をひそめた。
「それと……和音さんと幸せにと言ってくれましたよ」
「そうか……でもあの人、どうやってここを突き止めたんだろうか……」
「僕もそれは気にかかったけど、詳しくは聞けなかった……」
飛鳥がそう言うと、和音は「もう良いよ」と言い頭を二回軽く叩いた。
「あいつにお前への未練がまだあるなら、俺は見過ごせないが……」
「たぶん、それはないんじゃないかと思うけれど……」
飛鳥の言葉に、和音がふっと軽く笑う。
「分かってるよ。今さらあいつに妬いたって、どうしようもないからな」
言い終わった和音は、飛鳥を抱きしめた。
「お前には、俺がいる。それは死ぬまで変わらない……俺の愛は永遠だ」
「和音さん……」
飛鳥の胸は高鳴り、和音の目を見つめた。
「生まれ変わったとしても、きっとお前を見つけ出す。そして愛する」
「僕も、永遠にあなただけを愛しています。あなたがいれば、それでいい」
そう言うと、飛鳥は和音に柔らかく抱き締めた。
すると、和音もそれに応えるように、飛鳥の体を包んだ。
飛鳥との永遠を誓うように……。
【BL】遊郭☆香煌楼(こうこうろう)の恋人 実果子 @mikako1004
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