第3話 想

セミのもがく声が聞こえる。

そして、一生懸命に走る小さな彼女。

おでこには汗。少しメイクがくずれている。


「ちょ、ちょっと足がる!!!」


「体力ないなぁ。あと少しだから頑張って!」


どこに向かっているかは分からないけどこの時間は少し幸せだった。

そしてどこに連れていかれてるかはわからないまま、歩いて間もなく。


「着いたよ!ここ私の家!」


「え…?な、なんで…?」


彼女が向かう先は彼女自身の家だった。

少しふるびたアパート。外には子供たちが遊んでいた。


初手しょてから家誘うか…普通…」


彼女に聞こえないようにささやいた。

玄関に入り、ドアの鍵を閉めた。


「お邪魔します。」


小さい声で客人きゃくじんとして最低限の礼儀れいぎをする。


「あのさ…。今日親帰ってこないから…。」


「え…?そ、それってつまり…。」


かわいた喉がさらにかわいて、俺の頭はハテナだらけだった。

そのセリフは、漫画とかアニメでしか聞いたことがなかった。もちろんエッチな漫画とかじゃない。


「ま、すぐ出かけるんだけどね!」


「ど、どこに…。」


「んーーー…。海とか…?」


「何も考えてなかったんだ…。まぁいいけど。」


期待は少しあった。童貞どうてい根暗ねくらな俺が卒業できると。少しな。すこし。ほんとに少しだからな!ばか!…ちょっと悔しい。チキショーーー(涙)


俺は先に玄関に出て、彼女が出やすいようにドアを開けて待っている。彼氏になってもこのくらいは出来ないとね。と自分の心の中で微笑ほほえみながら出てくるのを待つ。


彼女が出てきて、自転車を準備する。


「私が学校まで行くのに使ってる自転車だー!これでゆくぞー!」


「お、おー!」


急に昔の人みたいな口調くちょうで戸惑った。でも少しずつ打ち解けあえてるかな。


もちろんぐのは俺。

良くは無いけれど、彼女を後ろに乗せ重たいペダルをこぐ。彼女が重いとかじゃない。これでお子さんがいる主婦しゅふかたの気持ちが少しわかったような気がした。


そして2人を乗せた自転車は徐々じょじょに動き出した。


「うぉおおおお!」


「お!頑張れ頑張れ〜!」


服からは、柔軟剤じゅうなんざい香水こうすいが混ざった匂い。髪の毛はサラサラだけど、少し汗でれている髪。


必死に頑張る俺と、呑気のんきに笑いながら応援してくれる彼女。


照りつける日差しと交通違反をしてる俺たち。

つらい坂道も、この暑さも忘れるくらい他愛たあいもない話をして、徐々に打ち解けあえた


モノクロだった街並みが君と出会ってからカラフルに色付いた。


きっと俺はこの景色を忘れられないんだろうな。



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るか @siya33

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