第4話

 一緒に出かける日当日、空は雲一つない青空だった。駅の14時に待ち合わせた。10分前についてしまい。待っている時間がもどかしかった。

 「おまたせ」といいながら走ってくるさくの姿が見えた。白いシャツに黒のパンツのおしゃれな感じが可愛かった。

 会ってからは、最近見たドラマの話をしたり、されたりしながら服屋さんへ向かった。

「何が良いと思う?」

「今着てる服みたいなのもう一枚買って、上にこれが良いんじゃない」

 東が指さしたものは、動画やテレビなどでよく見る服だ。上下でつながっていて、肩に紐をかける服。

「あぁ、エプロンワンピースね。こういうの好きなんだ」

「別にいいだろ」

「じゃあ、これ買うね。修学旅行の日楽しみにしてて」

 

「修学旅行楽しみだね」

「そうだね。当日さぁ、一緒に行動しない?」

 さくは、まだ当日のことについて話していないことに気づいていなかった。

 一方幸は女子との会話経験が乏しい故に、「一緒に」と言う言葉に勇気が必要だったが、2人でこうして服を買いに服を買いに行くということをしたのだから、そこまで緊張するものでもなかった。

「うん、いいよ」

 さくは明るく頷いた。

 しかし、さくの中には色々な感情が渦巻いていた。東くんが好きだという気持ちだった。「一緒に行動しよう」と言ってくれたのが嬉しかった。もっと一緒にいたいという気持ちが強くなっているのがよくわかり、抑えられない。その気持ちに膜をかけるように彼とは付き合えないという悲しい気持ちがつきまとう。

 しばらく沈黙が続いた。これ以上一緒にいると自分はおかしくなってしまうと思った。このままだと、好きになってしまう。

 駅から少し離れたバス停でさくは止まった。

「今日はありがとう。私、今日はやっぱりバスで帰る」

本当は電車で帰るほうが早いが、早く別れるための決断だった。

「そっか……」

「うん、またね!」

 なにか言いかけていたが、食い気味に別れの言葉を告げた。

「あのさ、なんか俺悪いことしたかな?」

「いや、全然そんなことはないよ……」

さくの目から涙がこぼれた。東くんに好きだと言えないことへの涙か、東くんを困らせた自分への涙かよくわからない。

「どうした?」

 東は心配すると同時にバスの時刻表と腕時計で今の時間を確認した。バスが来るまでの残り時間は3分だった。

「ごめん、なんでもない、大丈夫。」

 もう涙は止まっていた。

「伝えたいことがあるんだ……」

 東は息を呑み、胸に手を当てた。

「さくのことが好きだ、俺と付き合ってくれ。」

「えっと、ごめん……私も東……くんのことは好きだよ。でも、……」

 何度も言葉が詰まる。それだけ彼が告白してくれたことが心の底から嬉しかった。だからこそ、伝えなければいけなかった。彼女は覚悟を決めた。

「でも、私、ずっと言わないといけないって思ってたんだけど、ノンセクシャルなの。だから幸くんはもっと……なんていうの?、もっと、......なんていうのかな?普通?の人と付き合ってほしい」

「ノンセクシャルって何だ?」

「あぁ、ノンセクシャルっていうのは、恋愛感情はあるんだけど、性的なことは無理って人のこと」

「そうか、1つ聞かせてくれ。さくは俺のこと好きか?」

「えっ?」

「恋愛感情はあるんだろ。だから聞いてるんだ。さくは俺のことをどう思ってるんだ?」

「私だって、、、私だって幸くんのこと好きだよ。私も名前で呼びたいくらい好きだよ。先に名前で呼んで告白してきて、バカ。好きなんだけど、私が普通じゃないから、しょうがないじゃない、でも.......」

 怒りが混じった大きな声で言ってしまった。何に怒っているのだろう。無理やり言うならば、好きではないというウソをつけなかった自分だろうか。好きではないって言えたなら、東くんもすぐに諦めただろう。お互いが好きなのに付き合えないという最悪な展開をせずに済んだだろう。なのに......やっぱり

「好きっていう感情には、私、ウソはつけない......」

 また、泣いていた。私は最低だ。自分をつらいように見せている、同情してほしいといっているようなものだ。自分が嫌になる。

「なら、もう一度聞く、俺もさくのことが好きだ。だから付き合ってほしい」

「だから、私はノンセクシャルなの。性行為っていう愛情表現ができないの。私にはわからないけど、みんなしたいって思ってるんでしょ。その証拠に一夫多妻制になって、女の人は全員結婚するってなったら子供増えたじゃん。だから、私みたいな女の子だと愛せないしょ」

「性行為ができないから愛せないなんて、そんなこと思うな」

 幸くんは、怒っていた。大きな声は出さないけど、腹からだしているその声はものすごく黒い。

「どうして、私なんかに……」

「話してて楽しいから。好きなことを楽しそうにずっと笑って話してくれることがくれるところが可愛くて好きだった。ずっと一緒にいたいんだ。それだけで、愛せる理由になるだろ」

 今度はひどく泣いた。自分がどんな顔をしているのか想像もつかなかった。想いが溢れぎて彼の胸元に飛び込んだ。

「こっち向かないでね」

「うん、わかった」

「そっか、なんで『好きだったら愛せる』なんて簡単なことわかんなかったんだろ」

「簡単に見えて、難しいことだからじゃないかな、愛についてなんて」

「ありがとう、すごく嬉しかった。ずっと、救われてたの。初めて話せる人ができて、学校生活が楽しくなった。いじめから救ってくれたのもそうだし、今もノンセクシャルの私を受け入れて、好きって言ってもらえた。だから私も幸くんのこと、ずっと大好きでした。私と付き合ってください」

「あれ?告白された?先に告白しなかったっけ?」

「そうだった。もう泣きに泣いてなにがなんだか分かんない」

「っていうか、いつまで抱きついてないてんだよ」

「別にいいでしょ」

 さくの頬が少し膨れた。

「......って、おい!バス来たぞ」

 さくは何も言わず、幸の胸に顔をくっつけて抱きしめたまま動かなかった。

 バスは入口を開けはしたが、降りる人が降りたらすぐに閉めて行ってしまった。 

「あぁ、バス行っちゃった。しょうがないから、一緒に電車で帰ろう!」

「なんだよ、結局電車かよ。わざとらしいな」

 2人は改札に向かって歩き始めた。お互いに何も言わなかったが、自然と手を繋いでいた。

「本当にこんな私で大丈夫?」

「いいんだよ。性行為しないけど、愛はあるっていうカップルがいたっていい。生物としてだとおかしいかもしれないけど、人間だから。恋の種類は人の数だけあっていい。“こうさく”は、“こうさく”でいいんだ」

「なにそれ?」

「幸とさくでってこと。言わせるなよ」

「いや、分かってたけど言わせたくなっちゃった」

 さくの悪魔的な笑いとセリフに、幸も微笑んだ。

「これからもよろしくね。幸くん」


 私にあった欠点を受け入れてなお、好きだと言ってくれた幸くん。彼は、私が私だから好きでいてくれる。だから私は、確信した。彼とならうまくやっていける。

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カップル工作 高橋 しょうゆ @takahashishoyu

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