第3話
もう休み時間は、一緒に話すのが当たり前になっていた。
「へぇー、ドラマの脚本家目指してるんだ」
「そう。だから、帰ったらドラマ見て、学校で原作読んでるの」
「すごいな。ちゃんと将来やりたいこと決まってて」
「そんなことないよ」
「やりたいことから逆算して、就職活動したり、大学に進学したりするけど、将来を決めるのを18歳までにやるって、あまりにも短すぎると思う」
5限の5分前の予鈴がなり、周りの生徒は教室移動を始めた。
「私たちも、移動しよ」
「あれ?なんで移動するんだっけ」
「次の授業は、修学旅行についての説明会だからだよ」
この学校は、高校3年生になっても修学旅行がある。高3となると卒業旅行があったり、受験があるため修学旅行がない学校のほうがよく聞くが、少し田舎の大した学校ではないからあるのかもしれない。それはともかく今日は、その修学旅行についての説明を受ける日だった。
高3の修学旅行は2つの行き先があり、各自で選択した場所に行くことができる。2つの場所は、広島と名古屋で、さくと幸は広島のグループで一緒だった。周りは4人カップルや6人カップル、仲の良い男子たちで固まっていた。さくは入学してからずっとボッチだったし、幸も湯沢が名古屋側であるため話し相手がおらず、2人で孤立していた。
「3泊4日でこのクラスにいる人たちは、広島に行きます。間違ってないな?持ち物はしおりに書いてあるので各自で確認するように。それじゃ、注意事項読んでいくぞ......」
注意事項の内容は、遅刻や行けなくなった場合の連絡や現地で体調が悪くなったときの対応についてなどの話だった。読んでいるときの先生の声は、修学旅行を楽しみにしていると感じられるような明るい声だった。
「それでは、残り25分くらいで一緒に泊まる部屋のメンバー決めてくれ。後、それが行動班のメンバーになる。俺は、職員室いるからなんかあったら言ってくれ」
「ねえ、東くん......」
宮下は東の肩を叩きながら小さく声をかけた。
「どうした?」
「持ち物のところの服......」
「服?服がどうした?」
「はーい、広島行く人が全員で36人でホテルが4人部屋を9個なんで一緒の班になりたい人で4人になるように作って、前の紙にメンバーの名前を書きに来て」
集団をまとめるリーダータイプの人が指示を出した。教室にいた全員が動き出した。
「じゃあ、また後で、さっきの話の続き」
「うん」
「それで、部屋はどうすんの?」
「まだ、何も考えてない」
「一緒の部屋にしない?」
東はいつもより明るい声で、「いいよ」と返した。誘われて嬉しいという気持ちが声に出てしまっていた。東も宮下と一緒の部屋になりたいという気持ちは一緒だった。
「2人さぁ、私たちと一緒の部屋にしない?」
名前は知らなかったが、6人カップルのうちの2人の女子が話しかけてきた。
「私たち、6人で付き合ってるからさ、2、4で別れないといけないんだよね」
「それで、2人の人探してて」
「わかった。じゃあここの4人でいこう。宮下さんもいいよね?」
「うん」
こうして班はあっさりと決まった。授業の時間は、まだ余っていたが、先生が戻ってくるまで雑談をしていて良い雰囲気だった。
「そういえば、班決め始まる前の話って何?」
「私、服を3泊4日分も持ってない。」
「そうなの?まぁ、ずっと制服だし持ってなくてもおかしくないか」
「うん。それで......よかったら一緒に近くのショッピングモールにいかない?近くの大きなところあるじゃん」
「いいよ。俺もちょうど大きいリュックとかほしかったから。一緒に行こう」
「本当?じゃあ、日にちとかラインで決めよ」
チャイムがなったと同時に先生が戻ってきた。
「はい、それじゃ各自元の場所に戻って下校の準備してください」
その後は、一斉に教室へ戻った。この後、さくとは何も話さなかった。
夕方のオレンジ色の空が今日は淡い桃色に見えた。知らない感情だった。宮下さくのことをずっと考えていた。一緒にショッピングモールに行こうと誘われた。これはデートなのか、それとも友人としての付き合いなのかをずっと考えていた。宮下さんはどういう心境で自分を誘ったのだろうか。
東は学校の最寄り駅の近くにあるファミレスに向かっていた。宮下さんと出かけることについて相談するためではなく、1週間前から一緒にどこかでご飯を食べたいという約束をしていた。
湯沢は先に席に座ってスマホで注文を済ませていた。
「今日は、湯沢が付き合えた記念の食事会っていう解釈で良いのか?」
「まぁ、最近話す機会少なかったし、こんな日があっていいだろ」
「ちょくちょく渡辺さんのとこ行ってるから話せてないんだろ」
「いいだろ、お前は宮下さんと話してるんだから」
宮下さんの名前が出てきて“あの話”をするチャンスだと思った。
「あのさ、相談があるんだけど」
「どうした?」
「宮下さんとショッピングモールに行くことになった」
「えっ、まじか。お前らってまだ付き合ってないんだよな」
「うん。その日どうすればいいかわからなくて」
「まず、はっきりさせないといけないのが、お前は宮下さんのことが好きなのか」
その質問は、今まで自分が目をそらしていた壁だった。好きとかよくわからなかったからだ。
「どうなんだろう?」
「なんで、今回の誘いを受けた?」
「一緒にいて楽しいから。お出かけとかもしてみたいなと思った」
「それだよ。その一緒にいたいっていうのそれだけでいいの」
その言葉で心のモヤが晴れた。好きってそんな単純なことなのかという衝撃を受けた。
「好きだってことでいいんだな。なら、お前がすることは、帰り際に告白することだ。」
「その前までの会話はどうすればいいんだよ」
「そんなの、普段から会話してるんだろ、そんな感じでいいんだよ」
「そっか。でも、告白するのはちょっと怖いかな」
「少しだけ勇気を出すだけだ。自分の気持ち言えないままでいいのか」
その言葉が恋愛を知らない自分の心を奥の方まで刺した。誰かに取られたくないという気持ちがあったなんて知らなかった。
湯沢と話してはっきりした。俺は、宮下さくのことが好きだ。
「俺、決めたよ。一緒に出かけた日、告白する。」
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