天使の羽をあなたに

のう

天使の羽をあなたに

 ちいさい頃から天使に、天使の羽に憧れていた。

 汚れなき純白に、きめ細やかな質感。しおらしくか弱そうに見えるのに、ひとたび羽ばたけば大空を悠々と進んでいく。

 そんな天使の羽に、触れてみたいと心から願って。そのために沢山沢山頑張ってきた。そして、私は今――……




「やっと見つけた、私の天使!」

 日曜日のミサの帰り道、私は一人の少女に飛びついていた。

「……え?」

 相手の少女が戸惑った顔で目を見開く。そしてその次の瞬間。

「う、うわあああ!?」

 飛びついた弾みにバランスを崩した私たちは、石畳の上へと転がっていった。

 い、痛い……。なんか色んなとこ打ったぁ……。

「い、いつつ……、って、あんた、大丈夫?」

 相手の少女が頭を押さえて起き上がる。でも視界がちかちかして顔がよく見えない。私は頭を押さえながら、へろへろと返事をする。

「は、はひ……なんかお星さまが見えますけど、大丈夫です~」

 おかしいな、今、真昼間のはずなのに~。

「……それ大丈夫じゃないやつだから」

 相手の少女が、仕方なさそうに手を掴んで起こしてくれる。優しいな、と思いながらなんとか立ち上がった私は、相手の顔を見て思わず息をのんだ。

(わ、よく見たら凄い可愛い子……)

 柔らかそうな栗色のセミロングヘアに、同じく栗色の大きな瞳。すっと通った鼻筋の、端正な美少女がそこにいた。

 本当に凄い美形だ。まるでスター女優みたい。

「よし、怪我はなさそう……って聞いてる?」

「は、ひゃい!」

 声をかけられて、意識が現実に引き戻される。いけない、見とれてしまっていた。

 私がぺちぺち頬を叩くのを、あきれ顔で見てくる少女。はーっ、と溜息を吐いてから、彼女は口を開いた。

「で、さっきの話に戻るけど、天使様っていったい何なの?」

 ……あ、そうだった、本題をすっかり忘れていた。

 当初の目的を思い出し、私は勢いよく彼女の手を握る。引き気味にのけぞる彼女。細い指先は、ひんやりとした感触がした。

「どうか、どうかっ、私の天使様になっていただけませんか!?」

 彼女の目をまっすぐ見つめて、私は叫んだ。うるうるとした視線を必死に送ってみる。

「いや、だから、いやいやいや……」

 眉をひそめて、彼女は頭をかく。しばらく私をちらちらと見たあと、諦めたように彼女は口を開いた。

「天使様って……あの天使様?」

「はいっ! 神の御心のもと、空を飛び、人々に加護を与える、立派な立派な天使様です!」

 私はポケットから聖書を取り出し、彼女の眼前に突き出す。

 その頁には、天使が空を飛ぶ絵と、説明文が載っていた。

――10~20才の少年少女のうち、神官の血を持つ者に背中の羽を認められ、聖なる修行を積んだものだけがなる。神から愛されし者達。天空のエルム神殿に入ることができ、そこで加護を受け取り、人々に与えることが責務である――

 いつか天使に出会える日を夢見て、何度も何度も読み返したページ。何も見なくてもそらで言うことができる。

 しかし彼女は、眉をひそめたまま聖書を私に突き返した。

「……いや、天使はわかるんだけどさぁ」

 目を閉じて、指をくるくると回す。

「天使様ってあれでしょ。千人に一人くらいしかいないんでしょ?私めっちゃ庶民の生まれだし、……たいして信心深くもないし。絶対なにかの間違いだって」

「そんなことは――」

「だいたいさ」

 口を開きかけたところを、素早く制止される。

「羽が完全に生える前の天使を見つけられるのって、神官だけだよね? あなた、神官の家の生まれだっていうの?」

 なんだ、そんなことか。

 訝し気に睨んでくる彼女の前で、私は首にかかっているロザリオを外して見せる。

「そうですよぉ。私はこの地方の神官を務めるクラルテ家の次女の、セリュールと申します。セリとお呼びになってくださいね。ほら、証拠にこのロザリオ、ご覧になります?」

 国民が一人に一つ持っているロザリオだが、神官の家のロザリオには特別にその家の家紋が記されている。ちなみにうちの家紋は、オダマキの花がモチーフの、シンプルなデザインのものだ。

 彼女はしばらく、私のロザリオと自分のロザリオを険しい顔で見比べていたが、突然観念したかのようにぷはっと息を吐いた。

「……どうやら本当に神官の家のものらしいね。……でもなぁ」

 ロザリオを私に返しながら、不信感たっぷりに彼女は腕を組む。

「やっぱまだ信じられないんだけど。自分が天使なんてそんな、突然言われてもさぁ。天使になりたいなんて思ったこともないし」

……困ったな。物心ついたときから探し始めて、やっと見つけた天使様だ。優れた力を持つ神官は、不思議な力で天使を見つけることができるっていうけど、私にはそんなことできないし。

……もしここで逃したら、もう一生見つけられない気すらする。

 よし、覚悟を決めよう。

「あれ、やってみるか」

 失敗しませんように。私は胸の前でぎゅっとロザリオを握りしめる。

 教科書で見た呪文を何度も頭の中で繰り返して。……よし、いける。

 私は大きく息を吸い込んで、呪文を唱え始めた。

「ルベニス・ヴィーツス・オヴィ・アンゲリキ。エゴ・アウクシリア

ツス・ス・チビ・ヌン。ルベニス・ヴィーツス・オヴィ……」

 全身にぎゅっと力を込めて、神に祈りながら何度も呪文を唱える。

舌を嚙まないように注意しながら、私は効果が表れるのをじっと待ち

続けた。

――過去にも、自分が天使だと信じられなかった方達は、一定数いたらしい。今私が唱えているのはそのような方々に信じてもらうために編み出された魔法である。あまりにも長いし、言いにくい単語の連続で、私は仮実習では一度も成功判定が出なかったけれど。それでも。

 お願い、今は上手くいって……!

 力を込めながら私がおそるおそる目を開けると。

「わ、わわ、何、これ……!?」

 あたりは金色の光に包まれ、彼女がふわふわと空に浮いていた。そ

してその背中には、小さいながら力強く羽ばたく純白の羽。

「よ、よかった……成功です……っ」

 ほっとしたら力が抜けて。私はへなへなと地べたに座り込んだ。

――この魔法は、まだ幼くて飛ぶ力のない天使の羽に、一時的に力を

付与する魔法である。あたりに広がるこの金色の光が、羽ばたきを補

佐しているらしい。……まあ、原理はどうでもよくて。

「どうですか。信じていただけましたか?」

 魔法が解け、ゆっくりと地上におりてくる彼女に、私はそう問いか

けた。

 彼女の背中の羽も、しゅるしゅると縮んでいき、半透明になってい

く。先ほどの魔法がかかった状態なら他の人にも見えただろうが、本

来、未熟な天使の羽は一般人には見えない。だからこそ、神官が天使

を発見し、育てていかねばならないのだが……。

「や、やっぱり、いや……ですか?」

 返事のない彼女に、私は不安になってきた。

 そうだよな、もともと天使になりたいなんて思ってなかったって言

ってたしな。迷惑、だったかな。……でも、私は、どうしても天使様

を……。

「あっ、ごめん、少しぼーっとしてた」

 突然彼女が声を発し、肩がびくっと上がる。

 な、なんだ、ぼーっとしてただけか……。

 ほっとして胸をなでおろす。よ、よかった……。

「で、天使の話だけどさ」

 安心したのもつかの間。彼女がいきなりぐっと距離を詰める。

 なになになに。こ、これはどっちの反応……!?

 私がぎゅっと目をつむると。

「やるよ、私、天使になる!」

 ……へ?

 予想外の反応が返ってきた。

「い、いいんですか……!?」

 思わず肩から力が抜ける。

よ、よかったぁ……! ほんとに、よかった!

「うん、よろしくね、セリ!」

 まだ夢見心地の私の手を力強く握る彼女。

 私の、念願の目標が叶った瞬間だった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「いやぁ、まさか、同級生だったとはっ」

 放課後、私と彼女は中庭に続く廊下を歩いていた。

 彼女の名前はシエル・フェリオンというらしい。栗色の大きな瞳が特徴的な美少女で、この学園の近くの農家の娘さんだそうだ。

「そうだね。違うクラスだから気が付かなかった」

 私の方を見てシエルさんがほほ笑む。桃色の頬がなんとも麗しい。本当は様付けがしたかったのだが、シエルさんに却下されて今にいたる。

「……で、天使になるって、具体的にどうしたらいいの?」

 歩きながら、ふと思い出したようにシエルさんが問いかける。そういやまだちゃんと説明していなかったな。

「そーですねぇ。修行とは言っても、そんなに難しくないですよ。基本的には聖書の句を唱えたりして、羽に力を集めていく感じです~」

 安心させようと私は右手をひらひら振る。

「そっか、ならよかった」

 シエルさんはほっとした顔になったので、私たちはまた廊下を歩き続けた。

 しかし、会ったばかりなのでいかんせん話すことがない。会話が止まり、訪れる沈黙。開けた廊下に、私たちの歩く音だけが響く。

「……あの、シエルさん」

「? なあに?」

 私だけに見えるシエルさんの背中の羽が、ふるっと揺れる。

 このまま黙っていても仕方がないので、私は気になっていたことを聞かせてもらうことにした。

「その……どうして天使になると決めてくれたのですか?途中まで乗り気ではなさそうだったのに……」

「……ああ」

 シエルさんが少し固まる。しばらく空を見上げて考えている様子だったが、やがて薄い唇を開いた。

「……私飛行士のお兄ちゃんがいてね。昔から私お兄ちゃんっこだったから、当然のように私も飛行士を目指してたんだけど」

 そこでシエルさんはふっと息を吐いた。

「落ちちゃったんだよね、試験に。適正がないんだってさ」

 シエルさんの目が陰る。下を向いた長いまつげが、日の光を受けてちらちらときらめいた。

「、ああ……」

 なんにも言えずにうつむく私。アンニュイな雰囲気があたりを満たす。何か言葉をかけるべきだと思うのだが、いい言葉が見当たらない。

 私がおろおろしていると。

「……でもねっ、天使になれば空を飛べるって気づいたの」

 シエルさんが突然前を向き、大きな瞳が私をとらえた。

吸い込まれるような繊細な瞳に、思わず私の心臓がどくんと跳ねる。え、……なに、これ。

「ありがとね、セリ。私の羽を見つけてくれて。私、絶対天使になって、空を飛んで見せる!」

 やばい。なにこれ、顔が熱い。心臓の音がうるさくて、シエルさんの話が頭に入ってこない。どうしよ、なんて言おう。えっと。

「は、はい……」

 美しい天使様に、私はそれしか返すことができなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 夢を見た。天使の羽に触れる夢だ。

 その夢で私は、羽におそるおそる手を伸ばし、優しく撫で始める。羽はビロードのようになめらかで、手が吸い込まれるようであった。

私が無心で撫で続けていると、次第に大きな羽が私を包み始める。私は初めからそれを求めていたかのように羽に身をゆだね、目を閉じる。金色の光が、空を漂う。それはとても美しくて、心地よくて……。

――コケ、コケッコッコー

「……夢?」

 鶏の声で、夢から覚めた。

 まだほんのり残っている羽の感触を思い出し、私は小さく呟く。

「……いい夢みたな」



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「う、うう……」

 シエルさんと出会って数か月。毎日放課後、私たちは羽の育成を続けていた。羽も順調に大きくなり、私とシエルさんもだんだんと仲良くなってきている。

 今日も中庭に集まり、他愛ない話をする予定だったのだが……。

「そんな気にすることないって、試験の点数なんて」

 別に追試なわけじゃないんでしょ? と軽く言うシエルさんに、私は嚙みついた。

「でもっ、でもっ! たくさん勉強しましたのに……!」

 なんで及第点ぎりぎりなんですかぁ……。私は回答用紙にぐしゃっと顔をうずめる。うううう。

「まあまあまあ……。それよりさ、最近うちの前に雑貨の出店が来るんだけど……」

「何点なんですか」

「へ?」

 突然話を遮られて面食らうシエルさん。面食らった顔も相変わらずお美しい。そんなシエルさんに私はすかさず畳みかけた。

「試験。シエルさんは、何点だったんですか」

 答えないと許さないぞ、の面持ちを作る。

 さあ言ってください。いったい何点なんですか。

 シエルさんはしばらく困ったように頭をかいたあと、しぶしぶ用紙を渡してくれた。すばやく受け取り、点数の欄を覗き込む。

 こ、これは……!

「余裕で平均点超えてるじゃないですかぁ……」

 おかしい、シエルさん勉強してないって言ってたのに。酷い。裏切りだ。羨ましい~!

 私が唸り声をあげていると、シエルさんが口を開いた。

「いや、本当にたいしてしてないんだけどさ……。……でもやっぱりセリはちょっと心配かも。神官って学力けっこう学力必要でしょ?」

「……そうなんですよぉ」

 私はまたがっくりと肩を落とす。

 神官を目指して日々努力をしているのだが、決して成果が出てるとは言えない。学業の成績は悪いし、聖魔法はへたくそ。話下手で、友達も少ない。

……このままだと本当に神官になれないかも。急に恐怖がわいてきて、ぶるっと体が震える。

ど、どうしよう。私もお父様お母様みたいな立派な神官になって、人々の幸せのお手伝いをしたいのに。しなくちゃいけないのに。そうしないと……。

 膝を抱えてうずくまる。な、なにかないか。なにか……。

 ……いや、待てよ。

 ぐるっと首をシエルさんの方に向ける。

そうだ。私にはいるじゃないか、天使様が!

「シエルさん!」

「……なに?」

「始めますよ! 天使修行を!」

 シエルさんを立派な天使に育て上げれば、いい功績になるはず!そうだ、そうに違いない!

 私はこぶしを強く握りしめる。

 おし! 頑張るぞ!

「……いいけどさぁ」

 あきれ顔をしながら、シエルさんが私に背中を向ける。

やっぱりシエルさんは優しい。さすが天使様だと思う。だいぶ大きくなってきた羽が、ゆったりと揺れるのを見てそう思った。

「……うん、順調に成長していますね! この調子なら、あと少しで教会に天使と認めてもらえそうです」

「そう、なら良かった」

 その後は二人で聖句をぶつぶつと唱え、聖水で湿らせたハンカチでシエルさんのロザリオを拭う。

一連の動作が終わったあと、日が暮れ始めた中庭で私たちはほっと一息をついた。

「今日もお疲れ様でしたぁ」

「そっちもお疲れ」

 購買で買ったレモネードを口に含む。うん、酸味が効いていてとても美味しい。

「でもそっか、あと少しで空が飛べるのかぁ……」

 空に白い腕を伸ばすシエルさん。夕焼けで、羽がほんのりオレンジ色に染まる。

「ええ、そうですね……」

 時間が経つにつれどんどん色濃いオレンジになっていく羽を、私は無心で見つめていた。いつか見た夢を思い出す。

 ……きっと触れたら、さぞかし気持ちいんだろうな。

 ごくっと唾を飲む。……触れて、みたい。

日がだんだん落ちていく。そろそろ帰らなきゃなんて頭ではわかっていても、欲は次第に強くなってきて。

「……あの、シエルさん」

「ん? なあに?」

「その……、触れてみてもいいですか、羽に」

 ついに、言ってしまった。頬がぼっと熱くなるのがわかる。

 どうしよう、キモイかな、私。でも、このくらい……。

 私がドキドキしながら返答を待っていると、シエルさんは少しだけ驚いた顔になって、すぐ元通りになった。

「なんだそんなこと? いいよ全然、好きなように触って」

 くすぐったいのかなぁ、なんて言いながら私が触りやすいように近づいてくれる。

……や、やったぁ!

鼓動がどくどくと早くなる。頬がさっきよりも熱くなる。私ははその欲望のままに、シエルさんの羽にそっと手を伸ばした。

 もう少し、少しで……。

――その時。

「!?」

 全身にばちばちっと激痛が走った。痛い。なにこれ。まだ羽には触れていないんだけど。何が起こったの。

思わずつぶってしまった目をおそるおそる開けると。

 私は目にしたものに驚いた。

「なに、これ……」

 私の右腕に、黒い紋章が浮かんでいる。どこかで見たような、見ていないような。だけど確実に強い禍々しさを感じる。

「うっ……」

 徐々に倦怠感が表れて、私は腕を下した。

 この紋章が何かはわからないけれど、これだけは本能的にわかる。……この腕で羽を触ったら、絶対にまずいことになる。

「? セリ、どうかしたの?」

 不思議そうな顔で私を覗くシエルさんに、つい体がこわばる。まずい、この紋章を見られるわけにはいかない。

「……っ、す、すみません急用を思い出しました!」

 咄嗟に口から出たのはとても陳腐な嘘。でもそんなことにかまっていられなくて、私は後ろも振り返らずに家に帰った。


「ただいま!」

 家に帰ってすぐに、私は書庫に直行した。聖書がずらっと並べられている棚に向かい、かたっぱしから開いていく。

 紋章、紋章、黒い紋章……。ページをめくってもめくっても、なかなか私の腕の紋章は出てこない。

「ない、ない。……ないっ」

私が不安でどうしようもなくなったころ。

「あっ、あった……!」

 我が家でも1,2を争う古い聖書に、私の腕の紋章と同じものが描いてあった。急いで説明に目を通す。

 その文章を読んで、私は愕然とした。

――天使の妨害を任された悪魔の紋章。取りつかれた人間の利き腕に現れる。しかし悪魔の個体数は少なく、取りつかれた人はごくわずかしか発見されていない。予防はできない模様。

 この紋章が表れたものが天使の羽に触れると、天使の羽の発育段階もしくは持つ力の力にかかわらず、その羽は崩れ、消滅する。天使の持つ力も消える。

 なお、この悪魔を祓う方法は発見されておらず、取りつかれたものは一生紋章が消えない。しかし、洗脳等の力はかなり弱――

「うそ、でしょ……?」

 読んだ内容を受け入れられずに、私はその頁を広げたまま固まった。

うそ、うそ、そんなの嘘に決まってる。だってそしたら私は。

「……他の聖書はっ」

他の記述がないかと、書棚から更に本を引っ張り出す。……ない、ない。どこにも書いていない。じゃあ、やっぱり。

「私、悪魔に取りつかれちゃったってこと……?」

 口から出た言葉は、ぶるぶると震えていた。

 なんで、なんで。神官になるために、天使様に出会うために。清く正しく生きてきたつもりだった。なのに、なんで。

「天使の羽、一生触れないってことじゃん……」

 ぽた、ぽた、と涙が滑り落ちる。なんで。どうしてよ。私、正しく生きてきたじゃん。ようやく、ようやく天使様と出会えたのに。

「私の夢、叶うと思ったのに……」

 書庫に、私の声が一人寂しく響いた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おはよ~セリ」

「……おはようございます」

 翌朝、疲れの溜まった重い体で、私はシエルさんに挨拶していた。

 昨日は案の定、全然眠ることができなかった。目は冴え続け、ようやく眠れたと思っても、私が触った羽がぽろぽろと灰になって消える夢でたたき起こされた。

 右腕の倦怠感も消えないし、何より気分が浮かない。

「修行のことなんだけどさ、私今日聖堂の掃除でさぁ――」

 いつも通り綺麗な声で話し出すセリさんの後ろで、羽がかすかに動く。日ごとに純白に色づいていくその羽は、あまりにも眩しくて。

――もう、触ることできないんだよな

 現実を思い出した途端、胸がぐっと苦しくなった。上手く呼吸ができなくなって、息がつまる。

 やだ、そんなの嫌だ。せっかくここまで育てたのに。

 また涙が出そうになって、私はぐっと歯を食いしばる。その時だった。罪にまみれた考えが浮かんだのは。

 ……触ることができないなら、いっそ育てるのをやめてしまったらどうだろう。

 思いついた瞬間、背筋がぞくっとした。罪悪感が体を駆け巡る。

 ……私は今、何を考えた?

 ばくばくする心臓とともに、頭の中もごちゃごちゃしてくる。そんな、そんなこと許されるはずないじゃないか。個人の都合で天使様の育成を放棄するなんて。天使様は、天使様は皆の力になる尊き存在なのに。

 正しいことを必死に考えても、その考えは頭から離れない。

 いいじゃない。だってこの美しい羽を育てたのは私なんだもの。私が好きにしたって……。

「、セリ? 大丈夫?」

 私の顔を心配そうにのぞき込むシエルさんを見て、はっと我に返った。そうだよ、そんなことしたらシエルさんまで裏切ることになってしまう。私は、シエルさんの夢を叶えるお手伝いをするんだから。

 シエルさんが天使となって、空に飛び立つ姿を想像する。そう、私はこのためのお手伝いを……。

 そこで、私の思考は固まった。

「……やだ」

 やだ、やだやだ。シエルさんに、遠くに行って欲しくない。やっと出会えた天使様なのに。私が見つけ、大切に育てた天使様なのに。空になんて行って欲しくない。

 基本、天使は下界の人間とは関りが少ない。家族との交流は定期的に設けられているが、住処も空の上の天使専用の建物となるし、友人と関われる機会はほとんどない。

 ……それに、私たち数か月しか一緒に過ごしていないし。天使になっちゃったら、もう二度と会えないかも。いやでも……。

「ねえセリ、顔色悪くない? ちゃんと寝た?」

 シエルさんに顔を再度のぞき込まれて、はっと意識が戻る。

「ご、ごめんなさい、私……」

 ぼんやりしていたお詫びをしようとシエルさんを真っ直ぐ見つめる。……見つめようとした。でも。

 神官の義務、天使の羽への憧れ、シエルさんの夢、シエルさんの旅たち。いろんなことが一気に頭の中を駆け巡って。胃液がぐっとせりあがって来た。

 どうしよ、私、どうしたら。

「あ、あの……」

「何?」

「えっと、その」

 口を開いたはいいものの、私は何を言おうとしたのかわからなくて。口をぱくぱくさせればさせるほど、頭が真っ白になっていく。

「セリ、本当に大丈夫? 体調が悪いんじゃ……」

――シエルさんが私に手を伸ばしてきたとき、シエルさんの背中の羽が目に入った。清く、美しい立派な羽。私が、こんなに醜い思いでぐるぐるしているというのに、

 ……あ。

 何かが自分の中でぱんと弾けた。もう、だめかも。

「……す、すみません、今日の放課後予定があって。今日の修行は、なしでお願いします!」

 まったくのでたらめを口走って、私はシエルさんの横をざっと通り抜けた。顔をみないように、素早く。

「え……?」

 困惑する声が遠くから聞こえて、私は歩調をあげた。これが正しいことなのか。そんなことは、わかっていたけれど。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌日、私はボランティアで、うちの近所からは少し外れた教会に家族と来ていた。募金箱を持ったまま、ぼうっと教会の壁画の天使を眺める。

「きれいだなぁ……」

 この壁画は幼いころから何度か眺めてきた。何百年も前のものとは思えない繊細な線で描かれる天使は、それはもう美しくて美しくて。私が天使に憧れるきっかけとなった一つだ。

 でも、それを綺麗だと思えば思うほど。

「……なんで、こんなのできちゃったんだろう」

 右手の紋章をじっと見つめる。心なしか、昨日より黒く大きくなっている気がする。本当に、目障り。これさえ、これさえなければ……。

「セリ、そろそろ始まるわよ」

 パンを配り終わった両親が近づいてきて、私はあわてて洋服で紋章を隠した。

 親にもこの紋章のことは言っていない。うかつに腕を見せちゃいけない。

「そっか、もうそんな時間? はやいね!」

 いたって平静を装って、笑顔を返す。長く話したらぼろが出そうで、私はすぐに教会の方に向き直った。

 今日はこの教会の神官様の、説教と問答の会となっている。母もそろそろだって言っていたし、もうすぐ出てくるだろう。

 案の定、一分もしないうちに教会から一人の神官が出てきた。汚れ一つない祭服の裾をつまみ、自信に満ちた顔でしずしずと歩いてくる。

 ちょうどいい距離まで出てきたあと、彼女は柔和な笑顔でお辞儀をした。

「えー、ルチル・クラルテと申します、本日はどうかよろしくお願いします」

 聴衆の間に和やかな空気が流れたのがこちらにも伝わってくる。

 ルチル頑張れ、と隣で父が呟く。そう何を隠そう、彼女はクラルテの長女、つまり私の、姉である。

「本日は暑い中、お越しいただいて誠にありがとうございます。やはりこのような気温だと皆様気が滅入ると思うのですが……」

 すらすらと流れるように姉は演説を始める。その話術はとても巧みで、聴衆も姉の話を真剣に聞いていた。

 ……姉は、昔からとても優秀だった。何をやってもダメな私とは違って、成績がよくて、頭のいい神官養成学校に入って。あっという間に優秀な神官になった。

 聞き上手で、次々と人を救っていく姉に私はずっと憧れていた。私もいつか姉のような立派な人になるんだと思っていた。

 でも、年齢を重ねる度に、自分には神官の才能がないことを思い知らされた。

それでも私は諦めたくなくて、最後にすがったのが……。

「あ、お父様、お母様、それにセリ!」

 来てくれたの? と駆け寄ってくる姉の姿で、私は会が終わったことに気が付いた。まずい、全然話、聞けてないや。

「セリ~、大きくなったね~!」

「そ、そうかな」

 そんなに身長変わってないんだけどな、と思いながら姉に頭を撫でられる。姉の手は、相変わらず大きくてしっかりしていた。

「学校はどう? 上手くやってる? 魔法は上達した?」

「あ、えっと……」

 試験の点数とかいろんなことを思い出して、私は下を向く。正直、上手くいっているとは言えない。

 私の態度から察したのか、姉は再度笑顔を作り直した。

「そっかそっか! まあセリちゃんはまだまだ伸びるから、安心して頑張り続けてね!」

「う、うん……」

 私がなんとか笑顔を作ったそのとき。姉の後ろから声がした。

「神官様、実は夫が病気で……。どうか話を聞いて頂けますか?」

 そこには涙目の若い女性がいた。その後ろにも、多くの人々が並んでいる。

「仕事が上手くいかなくて」

「お金がなくて明日のパンがありません」

「子どもが非行に走ってしまって……」

 それぞれ皆、姉にすがるような目線を送っている。姉は彼らと私たち家族を見比べたあと、申し訳なさそうに彼らの方を向いた。

「ごめん! ちょっと忙しくなりそう……。今日は来てくれてありがとね、今度また帰省するから!」

 またね、と姉は群衆の中に飲み込まれていく。皆姉に話を聞いてもらいたかったのだろう。次々と人が笑顔になっていく。

「……やっぱり、すごいな」

 私は誰にも聞こえないようにぼそっと呟いた。左手でぎゅっと紋章を抑える。

「……私も、頑張らなくちゃ」

 そうじゃないと、私は……。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「前回は申し訳ありませんでした……! 今日もどうかよろしくお願いします……!」

 休み明けの放課後、私はシエルさんに頭を下げていた。いろいろ考えたけど、やっぱり神官としては天使を育てなくちゃいけない。私の憧れがどうのこうのなんて、気にしてはいけなかったんだ。

「なぁんだ、本当に予定があっただけなのね。 体調不良じゃなくてよかった」

 気にしてなさそうに朗らかに笑うシエルさん。機嫌を損ねていないことがわかって、ひとまずほっとする。

「じゃあ、後ろを向いてください」

 いつも通りシエルさんの背中の羽に目を通す。その時、私は違和感に気づいた。

「シエルさん……、この羽、休みの間に立派になっていません?」

 もともとだいぶ大きくなっていたとはいえ、シエルさんを包むほど大きくなかった気がする。白色もなんだか濃いし。

 私が訝し気に質問すると、シエルさんがふっふっふと笑いだした。

「へへ、ばれた? 実はさ休みの間、家で自主的に聖書を音読していたんだ~。やっぱり成長してる?」

「、ええ……」

「ほんと!? やった~!!」

 無邪気に喜ぶシエルさんの後ろで、私は少し複雑な気分になっていた。

 本当に、シエルさんの羽は大きく成長している。それはもう、私の手が必要ないくらいに。強く、美しく。

(……どうしよう。思ったより、シエルさんとのお別れ早く来ちゃうかも)

 胸がきゅうと痛くなって、慌てて私は頭をぶんぶんと振った。

 いや、そんなこと考えちゃいけない。私は清く正しい神官になるために、いち早く立派な天使を育てるって決めたんだから。

「ええ、本当に。今日申請をしに行ってもいいくらいですよ」

 考えていることを悟られないように落ち着いた声で言うと、シエルさんがばっと後ろを振り向いた。

「ほ、ほんとう!?」

「え、ええ……」

 きらきら輝くシエルさんの瞳を見つめながら、この人は本当に空を飛びたいんだな、と改めて思う。

 私の言葉を聞くと、シエルさんはん~と顔を崩して、黄色い歓声を上げた。

「や、やっったぁ~~~!!! 嬉しい! え、セリ、一緒に行ってくれる?」

「もちろん、いいですよ」

 嬉しそうな顔で手を掴まれて、私は曖昧にほほ笑む。こんなに嬉しそうな顔、初めて見たなとぼんやり思った。

 胸の奥がぢくんと痛んだことは、気づかないふりをすることにした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そこからはあっという間だった。申請はすんなりと通って、シエルさんのご家族も大賛成してくれた。しばらくすると、町内新聞で「新たな天使誕生」の記事が配られ、瞬く間にシエルさんの飛び立ちの準備が整っていった。

 そして飛び立つ日当日。

 シエルさんは珍しく礼服を受け、学園おかかえの神官様からおまじないを受けていた。

 いつになく真面目で清らかな顔のシエルさん。こう遠くから見てみると、やはり美形なのだということを思い知らされる。そしてその背中で煌めく純白の羽。もう空を飛ぶのに十分な大きさとなり、静かに悠々と動いていた。

 いくら私がその羽を育てたからといって、別に近くで付き添えるとかはできないらしい。私は一般生徒の列の後ろの方で、ぼんやりとシエルさんを眺めていた。

「……これで、正しかったんです」

 自分にそっと言い聞かせる。シエルさんが天使になることで、人々により多くの加護が与えられるし、シエルさんの夢も叶う。私の功績も認められるだろう。誰にとっても嬉しいことだ。でも。

 ……やっぱり一度は、触ってみたかったな。

私は右腕の紋章をそっと撫でる。もちろん、仕方ないことだ。諦めるしかない。

 私が目を伏せている間に、儀式は終盤へと差し掛かっていた。神官様が、シエルさんに新しいロザリオを渡し、祈りを与える。シエルさんは柔らかい表情で、ロザリオを受け取った。ウェーブの髪が風になびく。

「えーさて、新たな天使、シエル・フェリオン様が空へと飛び立ちます。皆さま、大きな拍手で祝福しましょう」

 ぱちぱちぱち。盛大な拍手が巻き起こる。はにかんだ顔のシエルさん。私も、慌てて後に続いた。

 ねえシエルさん、聞こえてる? 私、頑張ったよ。あなたの羽を、立派に育てたよ。

 他の人に負けないように、私はぱちんぱちんと強く両手を打ち付けた。だんだんと手が痛くなってくる。うっすらと視界が滲んだ。

 シエルさんが、階段をこつこつ登る。細い体の後ろで、大きく羽が揺れ動く。綺麗。とっても綺麗。

 間もなく、シエルさんが最上段に到達した。シエルさんが空を見上げる。ああ、ついに飛んで行ってしまう。お別れのときが、来てしまう。

私が涙を飲み込み、今まさに飛び立つ、……と思われたそのとき。

シエルさんがくるっと後ろを振り向いた。

「……え?」

 ざわめく人々。私も含めて皆、何が起きたか理解できないようだ。

 そんな人たちを気にせず、シエルさんは大きく声を張り上げた。

「私、ずっと空を飛ぶのが夢だったんです!」

 はきはきと叫ばれたその言葉は唐突で、会場は更に混乱に陥る。私の顔も戸惑いで歪むのがわかる。

「私すごいお兄ちゃんっこで、飛行士の兄に憧れていて。……でも、私には適正がなくて。私はお兄ちゃんのようには飛べないんだって、ずっと諦めていました。でも」

 そこでシエルさんは大きく深呼吸をした。

「天使になることができて、空を飛ぶことができるようました! ええ、私、私、今……」

 一拍おいて、シエルさんはもっと大きな声で叫んだ。

「本っっ当に、幸せです!」

 日の光に照らされて、シエルさんの笑顔が眩しく光る。それに反して、私の気分はどんどん沈んでいった。

……シエルさん、あなた、そんなに眩しかったっけ。そんなに手が届かない存在だったっけ。

声にならない言葉が、頭の中をぐるぐると回る。

 ねえ、おいていかないでよ、私の天使。私が見つけてあげたのに。私が育ててあげたのに。やだ、ねえ、行かないで。

 気づくと、私はぼろぼろと泣きじゃくっていた。やだ。やだ、本当に、やだ。触れて見たかった、あなたの羽に。一度でいいから、あなたの羽を愛おしんでみたかった。

 でも、今更どうしようもない。私は乱雑にハンカチで涙を拭った。言いたいことを言えたのか、シエルさんもくるっと前を向く。

 今度こそ飛び立つと思われた直前。

「ありがとね」

 ……シエルさんが一言口にだした。

「……え?」

 私は思わず、ハンカチを手放す。ぱたっと着地するハンカチ。自分の目と耳が信じられなくて、私はつい一歩踏み出した。

シエルさんが地面を蹴る。大きく羽を広げ、空に飛び立つ。その時一瞬だけ、本当に一瞬だけ。……視線が私を捉えた気がした。

「待って!」

 私は前の列の人を両手でかき分ける。少し空いたスペースに、思いっきり足を踏み出した。

「ちょっと何すんのよ!」

 飛んできた言葉を無視して、私はまた一歩踏み出す。

「ねえ待ってよシエルさん! ねえ、ねえってば!」

 少し進んだところから、私は声を張り上げた。でもシエルさんには届かないようで。ただ、真っ白な翼を大きくはためかせるだけだった。

その羽ばたきはあまりにも力強くて、美しくて。もともと緩んでいた私の理性のタガを外すには十分だった。

「……やだっ!!」

 私はそう叫ぶと、ひときわ強く周りの人を押しのけた。周囲にざわめきが走る。それでも私は気にせずに踏み出し、歩き、気づくと走り出していた。

 右腕が熱い。どこかでわかる、私は悪魔に操られているんだと。一人の天使を、墜落させようとしているのだと。

 でも、それでもよかった。自分が落ちるのも、シエルさんが落ちるのも、この世から一人の天使が消滅するのも、別にいいと思えた。

 ただ、羽を触ってみたかった。幼き頃から夢見た、あの美しい羽を触ってみたかった。シエルさんの羽を、触ってみたかった。

 はあ、はあと息が切れる。悪魔の力なのか知らないが、私は人間とは思えないスピードで駆けていた。天使様めがけて駆けていた。

 ひたすら走って、階段をどんどん登って。私は、右手の赴くままに思いっきりジャンプした。

 眼前にシエルさんの真っ白い羽が広がる。羽毛のひとつひとつが光を反射し、プリズムのように煌めいている。

 ああ、なんて美しいのだろう。なんで天使の羽って、こんなにも綺麗なんだろう。

 ……右手が羽に届こうとしたその時。

 ずどん。

ついに限界がきた。私の体に重力がのしかかる。

「ああ……」

体が落下し始めるのを感じる。下の方から、いくつか悲鳴が聞こえた。でも不思議と、私自身の心は安らいでいた。

 ……初めて。こんなに、満ち足りた気持ちなのは。

 心からそう思って、目を閉じたそのとき。ふっと体が誰かに抱きかかえられた。

「え……?」

 こわごわ目を開けると、そこには思った通り。それはそれは美しい天使様がいた。

「……シエルさん」

 シエルさん、やっぱりシエルさんが、助けてくれた。

シエルさんは私をしっかりと抱きしめつつ、羽を触らせないように背後にかくしながら飛んでいた

「シエルさん、私……」

 何か言おうと口を開いては閉じる。何か伝えたい。伝えなきゃいけない。それなのに、言葉が出てこない。

――そんな私に無言でほほ笑むと、シエルさんはぐっと私の額をシエルさんの唇によせた。

「……え」

 私が状況を把握するよりも早く、ちゅ、という音が空中で弾けた。とたんに私の頬が熱くなる。

「え、ちょっと、何して」

 うそでしょ、信じられない、えっと、えっと。

 シエルさんは何も言わずに、私を地上にそっと下す。

「ま、まって」

そして、まだ足に力が入らない私を残して、シエルさんは空へ今度こそ飛び立っていった。その飛び立ちは静かなもので。羽毛一本すら落とさなかった。

 ……私にはただ、額を抑えてぼうっと見ていることしかできなかった。

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