第15話 振り返らず
天乃原国際空港ターミナル玄関口につき
千理が先に車から降り車椅子を準備する
私は千理の介護により車から降り車椅子に乗った。
冷たい風が顔に当たる。まだ2月の終わりだというのに、空気は冬のままのように冷え込んでいる。白い息を吐きながら、私は周囲を見渡した。空港の玄関口は広く、慌ただしく人が行き交っている。
「私の案内はここまでだ。あとは何をすればいいかは分かるよな?」
「はい」
いつものように冷静に言うが、永遠の別れをするかのように私にバックを渡してきた
中にはスマホ、パスポート、財布、飛行機の搭乗券が入っており、何から何までお世話になりっぱなしだった。もうすでに独り立ちしたというのに私にこうやって世話を焼いてくれるのがほんと見えない優しさを感じ尊敬する一人の人間だ。
「お前も今日から指南する1人千理がお前の道を行くというのならお前が指導をしろ。ここから先は泣き言は許されない。今回みたいに私の元に来ることもな。言ってる意味分かるよな?」
対等になった…という意味ではない。
これはお前は私から卒業するときがきたという意味だ。自分に言い聞かせるよう強く私は答えた。
「分かります」
この先後戻りは許されない。弟の目がある以上日本にはいれない。私ひとりが生きるのではなく
千理を食わしてやり育て上げること=命を預かるということだ。これから本当に自分の力だけで生きていかなくてはならないのだ
「それならいい」
師匠は短くいい車に乗り込んだ。
エンジン音がかかり、車はすぐに走り出した。
私は車椅子にかけてある松葉杖をとりゆっくり立ち上がる。師匠への今までのお礼と決意を込めて頭を下げた。
赤いテールランプが遠ざかり、黒い車が視界から消え去っても、私はその姿勢を崩さなかった。しばらくの間、そこに立ち続けていた。もう後戻りはできない。この瞬間、覚悟を決めるしかない。
松葉杖をしっかりと握りしめながら、私は再び車椅子に座った。背筋を伸ばして、ターミナルの中へ向かい搭乗手続きのため搭乗口へ向かった。
手続きを終え私は飛行機に乗り込んだ。
窓側は飛行機に乗ったことのない千理を座らせた。千理は外の景色に興味を示し、離陸する瞬間を待ち望んでるようだった。
3人席の真ん中にわたしは座り嫌な予感がした。こういう時2人しか乗らない時は2人席でいいはずなのにわざわざ三人席を取ったということは後一人隣に誰か座ることを示唆するわけだ。誰かを考えればあいつしかいない。
考えるまでもなく、後ろから聞こえるはずのない、山奥に放置したはずの医者の声がした。
「おやおやー?おやおやおやおやー?葵君じゃないかー偶然だねー。フフフ…こんな偶然もあるんだねぇー葵君!」
幽香は、相変わらず不気味な笑みを顔に張り付けていた。その目は虚ろで、まるでどこも見ていないかのような目を大きく見開きながら、唇だけが形だけの笑みを浮かべている。
師匠…この医者、やっぱり私が面倒を見ないといけないんですか
鷹津幽香は疫病神。私以上にトラブル体質なのだから私を悩ませる種も一緒に私はドイツへ運ぶことになった
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静寂に散る影、終わりなき夜の輪舞(ロンド) 東雲アリス @sb030406
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