エピローグ
「葉子、あの歌聴いたよ。めっちゃよかった!」
電話越しの千弦が高い声で話す。私の青い春を綴った歌は想像していたよりも多くの人に聴いてもらえることができた。想う人に届いたのかは分からないけど、人から人へ巡り巡って届けばいいと思っている。
「ありがとう。千弦も気づいてると思うけど、ちゃんと約束守ったよ。伝えるって」
「確かに。いや、時間かかりすぎだけどね!」
早く早くと急かす心を抑えて、どれだけ時間がかかってもいいから確実に伝えられる日まで温めてきた歌。この歌を歌うたびに、あの頃の気持ちも蘇ってくる。いや、今でも初めての恋に溺れているままなんだ。
「ねぇ、葉子に相談があるんだけど」
「なに?」
「三日後って空いてる?」
千弦に言われて、スケジュール表を確認する。ちょうど、三日後は仕事もプライベートの予定もなかった。
「空いてるけど、もしかして……遊びに来てくれるの?」
「そうなんだけど……」と千弦はどこか気まずそうに話す。
「私も葉子に会いたいんだけど、それよりも私の友達に葉子のファンがいてさ。その人が会いたいんだって」
私も忙しくて妊娠祝いを渡せてないので千弦には会いたい。そのファンの子も信頼している千弦が連れてくる子だから、きっと信頼のおける人だと思う。少し悩みはしたが「大丈夫だよ」と答えた。
それから三日後。七月の初めだというのに真夏日のような暑さで額に汗が滲む。千弦たちとは家の最寄りの駅前で待ち合わせをしていて、先に着いていしまった私は木陰で休んでいた。久しぶりに会える嬉しさからか、今日は朝から胸がざわついている。千弦から「着いたよ」と連絡が入り、辺りを見渡す。肩を軽く叩かれて振り返ると、そこにいたのは千弦……そして先生だった。
「久しぶりだね、葉子ちゃん。『青い春』聴いたよ」
そう言って微笑む先生は何も変わっていなかった。初めて会った日と同じ爽やかな見た目に優しい声。
「お久しぶりです。先生」
遠まわりでいいから、いつか…… 白紙 @hakushi-894
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