歌に乗せて

 あれから五年後――。

 私は通信制の高校を卒業後、上京した。上京前、最後のレッスン終わり「今までありがとうございました」と頭を下げる。そんな私に先生がかけてくれた言葉は「こちらこそ、ありがとう。応援してるから頑張ってね」という短いものだった。別に期待していたわけではないけど、あっさりと終わってしまった関係に寂しく感じる。それから先生とは一切の連絡を取っていない。今でも連絡を取り合っているのは千弦や雄介たち、兄妹きょうだいだけ。千弦は大学卒業と同時に付き合っていた彼氏と結婚して、雄介たちも仕事をしながら充実した生活を送っているらしい。バンド活動も続けているが、今は千弦のお腹に子供がいるので活動を休止している。私はというと、高い壁にぶつかって挫けそうになりながらも少しずつ知名度を上げていった。今は自作の曲を多くの人に聞いてもらえるようになり、ホールが埋まるまでになった。

 そして……。

 ちょっと遅すぎたかもしれないけど、ようやく伝える時がきた。

 目の前のパソコン画面に向かって呟く。

 

「この歌が届けばいいな……」


「『青い春/yoko』

 

 私の青い春 歌に乗せて届けるよ


 初めまして 高鳴る胸の鼓動

 一瞬 それで十分じゅうぶん

 あなたに恋をした


 弾む会話に溺れていく

 ふとした仕草に赤らんでいく

 過ぎていく時間が戻らないかな

 

 届け 届け

 この若い甘い青い春よ

 桜の花びらに乗って

 緑の葉に変わって

 あなたの元へ いま

 届け 届け 届いてほしいの

 

 ブレスレット つけた腕を見つめる

 一瞬 それで十分

 勇気がもらえる

 

 遠く離れても残っている

 記憶の中で笑っている

 過ぎてしまった時間に恋してる


 届け 届け

 この長い淡い青い春よ

 すすきの穂をかすめて

 冬の雪に乗せられて

 あなたの元へ いま

 届け 届け 届くといいな


 春夏秋冬 季節を巡り

 遠まわりした 私の青い春

 歌に乗せて届けるよ」


  

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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