第二怪 盗撮相談承わります 

 様々な生徒が通う面妖学園の理事長室にて、この高校の制服を着た黒髪の美少女うららは椅子に腰掛けながらティーカップに注がれた紅茶をゆっくりと飲んでいた。

 うららの秘書兼執事をつとめる男性|安須木阿 頼《》はうららの座る理事長の席と机の前に立ってうららに話しかける。

「女子生徒から着替えの写真が盗撮されてネット上で売られているという相談がありました」

「その女生徒は人間?」

「はい、他にも同じ相談がありましたが、すべて人間です」

 小さな溜め息を吐き、うららが飲み終えたティーカップを机の上に静かに置いた。

「妖怪の相談以外興味ないわ」

「ではこちらの相談はいかかでしょう?」

 頼がスーツの内側から一枚の封書を取り出しうららへと渡す。

「依頼主は一反木綿いったんもめん様です」

「体が一反の木綿もめんで出来ていて遠目には洗濯物と区別できない妖怪ね」

 うららは封書を開け、中に入っていた手紙を読む。

「あら、この方も盗撮に関する相談だわ」

 にこりと軽く笑みをこぼしたあとうららは頼に顔を向ける。

「頼、この方をここに連れてきてちょうだい。 ああ、それから客人用のお茶も用意してね」

「かしこまりました。 では五分ほど時間をいただきます」

 頼はうにらら軽く頭を下げたあと、理事長室を出る。

 理事長室に残ったうららは暇を持て余し、寄せられていた他の相談の投書を読む。

「これもダメ、これもダメ、他の投書はすべて人からね」

 一通り読み終えるとドアがノックされた。

「うらら様、一反木綿様をお連れいたしたました」

「そう入ってもらって」

 頼と共に理事長室に入ってきたのは長約十メートルの反物たんもののような体を持つ妖怪一反木綿。

 一反木綿はうららの顔を見るなり、その瞳に涙を浮かべた。

「あの本当にその手紙に書いた盗撮の相談にのってもらえるで?」

「ええ、もちろんよ。 もう少し詳しく聞かせてちょうだい」

 一反木綿は盗撮のことについてうららに詳細に話す。

「なるほど、この相談の解決には少し時間が欲しいわね」

 うららの言葉を聞き一反木綿の目に怯えがうかぶ。  そのことに気づいたうららは優しく声をかける。

「あなたは今までどおりにしてればいいわ。 なるべく早くに解決するから」

「本当ですか?」

「ええ、色々と準備があるから今日のところはお帰りをお願いするわ」

 一反木綿が理事長室から退出したあと、うららは夜も更けた待ちを歩いていた。

 うららの耳に遠くで言い争う声が聞こえる。

 激しく言い争うその声にうららは笑みを浮かべた。


 翌日、 面妖学園は日常の授業と部活を終え殆どの生徒は帰宅した。

 残っているのは理事長うららと頼、そして視聴覚室に三名の男子生徒。

 男子生徒は視聴覚室の大きなモニターと自身が持ってきた超小型パソコンをケーブルでつないだ。

 視聴覚室のドアの隙間から一反木綿が入ってくる。

「やっときたか、例の物は?」


「ここにあります」

 一反木綿は手に持っていたマイクロSDカードを男子生徒に渡す。

「あの、もう盗撮はやめませんか?」

 一反木綿の声に男子生徒が途端に不機嫌になる。

「お前、俺らに命令するの?」

「いや、そういうわけじゃ」

 男子生徒の一人が一反木綿の体の後ろを掴むと、一反木綿の前にいた男子生徒がライターを取り出し一反木綿の体に火を近づける。

「ワシ、元は木綿だから火はあかんのです」

「知ってるよ、その体に火をつけられたくなかったら俺らに協力しろって前にも言っただろ」

「わかりました、協力するから火をしまってください」

 鼻息をならして男子生徒はライターのふたを閉じた。

「こいつが盗撮カメラも仕掛けて回収できたらもっと便利だったのにな」

「さすがに盗撮カメラの大きさだとドアの隙間を抜けれないからな、中にあるSDカードだけ持ってこさせてるんだ」

「何回も仕掛けるとばれるリスクも高くなるしな。 それより今日録ったやつみようぜ」

「こないだは生徒会副会長の着替えだったもんな」

 超小型パソコンにSDカードをセットして記録の再生ボタンをおす。

「パソコンの授業が組み込まれてからパソコンを持ち込み出来るようになったけど、どうせ見るなら大画面がいいよな」

 視聴覚室のモニターに映像が映し出された。

 そこに映っていたのはアダルト動画を見ながら全裸で一人でしている男子生徒だった。

「これ、昨日の俺じゃねーか、一反木綿どういうことだ!?」

 男子生徒が怒りを露にしながら振り向く。

 視線に先にいたのは制服姿でたつうらら。

「”七谷のんののいけない放課後授業”、そういうのが好きなのね」

「理事長、なんで?」

「相談をうけてきたのよ、盗撮に協力されていて困っているという相談をね」

 うららがスカートのポケットから複数のSDカードを取り出し床に捨てた。

「これあなたたちが仕掛けていた盗撮カメラのSDカード、中身は昨日録ったそこに映っているものにかえたわ」

「な、いつのまにどうやって部屋に入ったんだよ」

「ぬらりひょんって知ってる? 攻撃はのらりくらりとかわし、家の中にいつのまにか入っている妖怪。 私はその孫娘。 私とおじい様にはドアの鍵なんてないようなものよ」

「妖怪ね、じゃあ人権ないんだ。 ネットにお前が俺たちにレイプされる動画あげても問題なしってことだよな」

 男子生徒がうららを取り囲み、一斉にうららに飛びかかる。

 しかし、のらりくらりと動くうららに指一本触れることが出来ない。

 動きながらうららは声を出す。

「おーにさんこちら」 

 うららは制服のポケットから札束を取り出し、横の机の上に置く。

「手ーの鳴るほうへ」

 うららは両手を合わせるように叩く。

 その音を合図に視聴覚室の空間に黒い小さな渦ができる。

 渦から鬼の腕だけが姿を現して、置かれていた札束を掴む。

「ついでにあの三人も連れていってくれる?」

 鬼の腕が札束と男子生徒三人を掴み、渦の中へと消えていく。

 三人の生徒は生きたまま地獄で鬼の監視の下労働を強いられることになった。

「これであなたの相談も解決ね」

「ありがとうございます。 もう盗撮に協力しなくてよいんですね」

「ええ。 頼、彼らが仕掛けていた盗撮カメラの処分よろしく」

「かしこまりました。 ところで先ほどの札束ですが、どうやって稼いだのですか?」

「法で禁止されているいけないお薬を売ってる方たちの金庫から持ってきたわ。 さっきの男子生徒たちの生徒帳を置いてね」

 うららは昨日の争う声を思い出す。

「さっきの三人が地獄から逃げ出すことが出来でも追われるわね。 地獄の鬼とこっちの鬼、どっちの方がこわいかしらね」



                                         第二怪 了

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うらら姫の妖怪相談承ります 稲垣博輝21 @hirokisama

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