うらら姫の妖怪相談承ります

稲垣博輝21

第1話 いじめの相談承ります

 様々な生徒が通う高校・面妖めんよう学園。

 一台の車が正門前に停まり一人の少女が降りてくる。

 黒い長髪を髪になびかせながら制服を着たその少女の姿に他の生徒は見惚れた。

「きれい、あの人誰?」

「あなた知らないの」

「風が治って今日から登校だから」

「あの人はこの学園の理事長夜形やぎょううららさん」

「理事長なんだ、どこのクラスなの?」

「うららさんはクラスには入ってなくて理事長室にいつもいるわ」

「え、なんで?」

「不正とかそういうのを防止するためじゃない? 理事長のいるクラスだとそういう目で見る人もいるだろうし」

 そんな噂を聞き流してうららは学校に入ると理事長室へと向かう。 その後ろをうららの秘書兼執事を務める男性安須木阿あすきあ らいが離れずついていく。

 理事長室の椅子にうららが座ると頼は入り口横に置いてあった箱を手に取り、逆さにする。

 箱の穴から複数の手紙が出てくる。

「こちら生徒からの相談の手紙です」

「私、妖怪の相談以外興味ないのよね」

 手紙を一つ開き読むとうららは溜め息を吐き、その手紙を横に置いた。

 次々と手紙を開き溜め息を繰り返すうらら。

「これも興味ないわ」

 軽い欠伸あくびを上げて手紙を横に置き新しい手紙を開く。

 うららの手が止まる。

「これは興味あるわ。 頼、この手紙を出した子を連れてきてくれる」

「承知しました」

 しばらくすると頼はこの学園の制服を着たおかっぱ頭の少女を連れて来る。

 少女はその瞳に涙を浮かべている。

「あの本当に相談にのってくれるんですか?」

「ええ妖怪の悩みならね。 さあ話して」

「私いじめられてるんでえす。 トイレの個室にいると生ごみを投げ込まれたり、ドアを激しく叩かれたり。 最近はエスカレートしてそのいじめてる子たちのお小遣い稼ぎのためにトイレで一人エッチさせられてその写真をネットで売られてるんです」

「いじめてる子たちの特徴を教えてくれる?」

「三人組みで……」

 少女からいじめっ子たちの事を聞くとうららは微笑んだ。

「それじゃああなたの悩みを解決しましょうか、トイレの花子さん」


 放課後、面妖学園三階の女子トイレに三人の女生徒と一人の男子生徒が着ていた。

 女生徒の一人が男子生徒に聞く。

「金は持ってきた?」

「うん、十万円」

 金の入った封筒を女生徒に渡すと男子生徒は興奮しながらその女生徒に聞く。

「それで誰が俺の相手をしてくれるの?」

「ハハッ、お前の初体験の相手をするのは私らじゃねーよ」

「えっ、それじゃあ誰が?」

「何回でも出し放題の相手を今呼ぶから待ってろ」

 トイレのドアを叩くと女生徒はいつものように言う

「はーなーこさん、あーそびましょ」

 だが返事はない。

「おい、さっさと出て来いよ」

 ドアを何度も叩く。 

 しかし返事はない、苛立ちが募りドアを叩く力が強くなる。

「またこの個室に腐った野菜放りこむぞ」

 うららが軽い足音を立てて女子トイレに入ってくる。

「野蛮ね、猿から進化できなかった脳しか持ってないの?」

 うららの言葉が自分たちに向けられていると女生徒たちは理解できた。

「お前の初めての相手はあの理事長だ」

「え、理事長相手はやばくない?」

「裸を写真に撮っとけば大丈夫だろ。 安心しろ、私たちが理事長の体を抑えといてやる」

 そう言うと、女生徒三人はうららに飛びかかるが、ぬめりを感じてうららの体に触れることができない。

 のらりくらりと移動するうらら。

「どうなってるんだ、なんで捕まえるどころか触ることの出来ねー?」

 叫び声を上げる女生徒のほうへ振り向くうらら。

「私はぬらりひょんの孫、簡単には触れないわ」

 制服の上ポケットから折りたたまれていた小さな鏡を取り出し開く。

「ムラサキカガミの話は二つあるって知ってる?」

 小さな鏡を女生徒たちへと向ける。

 女生徒たちの後ろには手洗いようの水道と大きな四角い鏡が壁に埋まっていた。

「昔一人の僧侶がある村で頼まれて悪霊を退治した。 でも村人は約束だった御礼おれいを渡さず、僧侶の荷物を奪って村から追い出した」

 鏡に挟まれた女生徒と男子生徒の体が二つに増える。

「怒った僧侶は村の端と反対の橋に鏡を置いた。 その鏡に映った村人の体は二つになって、一方は鏡の中に吸収されて、村人たちは人が変わったようになっていたそうよ。 これが今では語られない二つ目の村裂きムラサキカガミ」

 二つになっていた女生徒と男子生徒の体の一つが鏡に入る。

 残った方は意思を見せず、考えることを放棄して女子トイレから出て行った。

 うららは鏡の中に映る女生徒と男子生徒を見る。

「おい、ここから出せ!」

 いまだに強気な態度を見せる女生徒の後ろにバケツが映っていることにうららは気づいた。

「その後ろのバケツでこの鏡を割ったりしないでね? 困るから」

 女生徒は振り返りそのバケツを手に持った。

 そして勢いよく鏡へと投げつけた。

 バケツがぶつかった鏡にヒビが入った。

「あら、こんなにヒビが入ったら私の力でも、もう二度とこっちの世界には戻ってこれないわね」

 うららの言葉に女生徒たちは青ざめる。

「なんだよ、それ。 助けてくれよ」

 涙を流しながら請う女生徒にうららは笑顔を返した。

「私、妖怪の悩みしか興味ないの。 人間の頼みとか興味ないの」

 そう告げるとうららも女子トイレから去っていた。

「あのトイレの鏡は新品と入れ替えないといけないわね」

 廊下を歩きながらうららは呟いた。


 トイレの花子さんへのいじめは消え、うららは再び退屈な日々を過ごしていた。

 紅茶を飲みながら生徒からの相談の手紙を読み続ける。

 うららの手が止まり、手紙を自身の前に置く。

「次の相談はこの子ね。 頼、この手紙を出した子を連れてきて」

 



                              第一怪 了

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