第4話 しっ! 黙って。今、集中しているから。オムライスにはふんわり卵の布団が絶対必要じゃない?

(ジュー、というフライパンへ鶏皮を焼く音。油が染み出し、パチパチと跳ねる)


「ん~良い匂いだね~♪」


(隣から顔を覗かせたちづが嬉しそうに話しかけてくる)

(鶏皮を取り出し、みじん切りした玉ねぎ、切り分けた鶏肉を入れて炒める)


「この時点で、塩コショウしたら美味しそう~」

「『今日のお昼はオムライスにしよう!』って、提案して大正解☆」


(ちづの浮き浮きが伝わってくる)

(フライパンの中身を掻き混ぜ、火が通ったらボウルへ)

(隣では、チヅが出鱈目な歌を歌いながら卵を意気揚々と割っていく)


「たまご~♪ オムライスにはたまごの布団が必要~♪」


(フライパンへ、トマトケチャップ、コンソメ、白ワイン、中農ソースを入れ、水分を飛ばし、別のボウルへ)

(ちづが菜箸で卵を溶きほぐし終え、目を瞑る)


「……しっ! 黙って。今、集中しているから」

「貴方は、美味しいチキンライスを作りに全力を傾けてっ!」


(フライパンへバターを落とす。ジジジという、溶ける音)

(そこへ温かいご飯を投入し、掻き混ぜる。次いで、先程作っておいた具、ソースの順で入れる)

(隣から、ク~、という可愛らしくお腹の鳴る音)

(集中していたちづが、恥ずかしそうにジト目)


「な、何? 別に何も聴こえなかったでしょう?」

「さ、私も卵を焼くねっ! ここからはスピード勝負だよっ!!」


(ちづが別のフライパンを取り出し、コンロへかけた。声がより近くなる)

(十分に温まったら、バターを投入。不敵な笑み)


「さぁ……八重洲ちづの手並みを見よっ!!!!!」


(溶きほぐした卵をフライパンへ流し入れる。ジュ~という音)

(間髪入れず、菜箸で掻き混ぜ、フライパンを動かす音)


「すぐに出来上がるよ~。準備準備☆」


(慌てて、お皿にチキンライスを盛り付ける)

(すると、ちづも卵を焼き終え、その上にフライパンを被せた)


「キッチンペーパーで形を整えても良いんだけど、貴方と私だけだし、今日は良いよね~♪」


(鼻唄を歌いながら、二枚目を焼き始める。再び、ジュ~という音)

(すぐ完成し、二皿目にも卵の布団がかかる)


「ふ~上手く出来たぁ」

「ねね? 褒めて、褒めて~♪」


(コンロのスイッチを切った、ちづが声を弾ませる)

(お盆へお皿を置く音)


「――えへ♪ ありがと☆」

「さ、早く食べよ~。もう、お腹がペコペコだよ~。あ、サラダも出さないと――」


(再び、ちづのお腹が可愛らしく、クク~と鳴った)

(息を飲み、お腹を押さえて顔を真っ赤にする)


「……あ、貴方が悪いっ!」

「『偶には俺が』だなんて、言いだして、しかも、すっっごく、美味しそうに作るからっ!!」

「――え? 『俺とちづの二人で作ったから、余計に美味しそうなんだろう』?」

「――…………えへぇ」

「そ、そっかぁ。そうだよねぇ~。『二人の共同作業』だもんね~」

「うん! なら、ゆるーすっ!!」


(照れくさそうにしながら、幸せそうなちづの声)

(二人で椅子に座る)


「いただきまーす」

「――~~~♪」


(ちづが隣の席で身体を揺らす気配)

(もう一口、スプーンを動かす)


「凄く美味しい」

「ちょっとしたお店の味だよ~」

「卵はどうかな??」

「――えへ♪ ありがと☆ 練習してきた甲斐があったよ~」


(更にスプーンを進める音)

(ちづが何気なく零す)


「こういうのって、いいよね」

「あ、全然難しい話じゃないよ?」

「――ただ単純に)


(ちづがスプーンを置く、カチャリ、という音)

(視線を向ける気配)


「大好きな貴方と一緒に過ごせて、こうやって料理したり、話しながら美味しい物を食べられるのってっさ」

「凄く良いな、っていう話!」

「――……もしかして、私だけかな?」


(探るような、期待するような声色)


「! ――ふ~ん♪」

「そっかぁ。そっかぁ~☆」

「フフフ~。貴方も私と同じ気持ちなんだね~」

「良かった。私の独りよがりだったら、もう少し洗脳――こっほん」

「説得が必要だと思っていたから★」


(スプーンでオムライスを食べつつ、ちづが嘯く)

(カチャカチャという陶器とスプーンの音)


「あ、良い機会だし、一つだけいい?」


(何気ない口調で、先に食べ終えたちづが話しかけてくる)

(口元がケチャップで汚れているので、ティッシュで拭う)

(少し恥ずかしそうな御礼)


「――えへへ。ありがと♪」

「あの、ね。その、ね」

「…………」


(何時になく言い淀み、もじもじとするちづ)

(少しだけ間が空き、意を決したかのように口を開く)


「貴方とは、小さい頃からずっと一緒に過ごしてきたし、私も今月で二十歳になるし、一週間の内、半分以上はこの部屋で寝泊まりしているし、同じ気持ちなのも改めて分かったし」

「そ、そろそろ、一緒に暮らしたい! ――……なぁ、って」

「あ、貴方はどう、お、思う!?」


(上擦り、緊張仕切った声色)

(やや緊迫した空気。時計の音だけが微かに聞こえる)

(ちづの頭をぽんぽん、と叩く)


「――……ふぇ?」

「い、いいの?」

「ほ、ほんとのほんとに??」

「わ、私、単純な女だから……本気にしちゃうよ??? 何なら、今日中に引っ越しを決めちゃうよ????」

「~~~~~♪」


(ちづが抱き着いてくる)

(頭をこすりつけ、幸せそうな声色)


「――嬉しい。また夢が一つ叶ったよぉ」

「あ、でも大丈夫! 私はまだまだ幸せになるつもりだし、貴方も幸せにするつもりだから♪」

「取り敢えず」


(少しだけ離れ、しずしずと頭を下げるちづ)


「末永く、よろしくお願いします」

「――え? 『まるで、プロポーズの言葉みたいだ』って??」

「うふふ~♪ 私の場合、プロポーズは3歳の時にもう済ませているからね~☆」

「だ・か・ら」


(再度強く抱きしめられる、衣擦れの音)

(耳元で少しだけ蠱惑的な声が囁かれる)


「(――次は、貴方から聞かせてね? 出来るだけ早い時期に♪)」


(ちづが離れ、立ち上がる)

(軽やかな足音)


「ん~美味しかったぁ♪」

「ねね? また、作ってくれる??」

「――ありがと☆」

「私も、頑張って貴方に美味しい料理を作るね! 負けないんだからっ!!」


(口笛を吹きつつ、ちづが幸せそうにきいてくる)


「今日は珈琲と紅茶、どっちにする?」

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【ASMR】熱々な物はアツアツの内に 七野りく @yukinagi

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