ぱんつぁーぱんつぁー

はち

第1話

 凛としたその姿は、まるで古武士の様な雰囲気だった。何処となくドイツ人のように見える彫り深さ、それでいて日本人特有の濡鴉の様に黒く美しい髪、切れ長の目尻に日本戦車とは思えない程の高身長。

 教壇横に立って素早く教室中を見回したその仕草、隙のないその姿は正に武士そのものだ。


「日本国、三菱重工業製の90式戦車、と申します。

 ヒトマルのように最新でも無ければ、ナナヨン先輩の様に軽くも小さくもありませんが、射撃だけは今の所誰にも負けていない自身があります。

 海外の実戦経験豊富な方々には足元にも及びませんが、ご指導ご鞭撻の程を宜しくお願いします」


 90式の凛とした声が教室中に行き渡る。

 深々と下げた頭は実に日本人らしい所作であった。


「それじゃあ、空いてる席に座って。

 あそこ」


 教壇に立つ教師が指差す先を確認した90式は了解と頷くと先に向かう。途中出された足に気が付かず、90式はその足を踏んだ。


「ニャァ!?」

「あ、すみません!

 気が付きませんで」


 足を抱えて椅子から落ちている少女に90式は慌てて駆け寄る。


「気にすることはないよ。

 ソイツの自業自得さ」


 助け起こそうとした90式に声をかける少女。


「お前の助けなんか要らないヨ!!」


 差し出された90式の手を引っ叩く少女。


「私はT-84-120“ヤタハーン”よ。

 そんな奴相手にしなくても良いわよ」


 ヤタハーンと名乗った少女、所謂スラブ系と言われる顔立ちで、90式は軽く頭を下げる。


「90式です。よろしくお願いします」

「よろしくね」


 席はヤタハーンの後ろにあった。

 90式が席に座ると、右斜め前に座る先程の戦車が睨んでいたので90式はどうしたものかと苦笑する。


「彼女はK1A1、貴女のライバルに当たる韓国軍の戦車よ」

「K1A1、知っています。

 韓国と米国の共同開発した戦車ですね。私よりも改良発展しており、ポーランドにも輸出してますよね。

 我が国の国土に合わないのでK1A1さんは採用されませんが」

「へー貴女はK1A1あの子には何か確執は無いのね」


 ヤタハーンが少し以外そうな顔をして90式を見る。90式は不思議そうな顔をして少し首を傾げた。


「何故、仮想敵国でも同盟国でも無い国を意識しなくてはいけないのですか?

 隣国ではありますが、我が国の防衛に置いて特別に配慮する事はありませんし……

 ああ!ヤタハーンさん。韓国は朝鮮人民共和国とは違う国ですよ」


 90式がまったくと言う顔で軽く首を振り告げる。ヤハターンはそうでは無いが、まぁ、良いかと90式の誤解を解かずにそうなのねと笑っておいた。

 それからホームルームからの一時限目に流れ、休み時間。90式の教室に来訪者が現れる。


「キューマル!漸く来たのね!」

「ねぇ様!お久しぶりです!!」


 来訪者は2人とも日本人だった。


「ナナヨン姉さんにヒトマル。

 久しぶり」


 90式が立ち上がってやって来た2人と抱き合った。


「相変わらずデカいわね。

 MCVとは?」


 ナナヨン姉さんと呼ばれた少女、74式戦車は掛けていた眼鏡のブリッジを押し上げる。


「来る途中まだは一緒でした。

 こっちに着いてからはまだ会っていません」

「一応RCVやマメタン先輩には任せてるわ。

 あと、昼休みから諸先輩方に挨拶周りしに行くわよ」

「分かりました」


 2人はそれだけ言うと去って行く。


「ヒトマルにナナヨンね。

 あの2人はうちの学校でも有名よ」

「そうなのですか?」


 ヤタハーンの言葉に90式は驚いた顔をした。何をしたのか?そう言う表情だった。


「ヒトマルはアメリカ戦車曰く“イーサン・ハントかジョン・ウィックでしか見た事ない撃ち方だ”って言ってたわね。しかも、それで全弾命中よ?

 ナナヨンも“トーマス・ベケットかボブ・リー・スワガーじゃなけりゃドゥーク東郷ね”って」

「……はぁ。それは、凄い事で?」

「当たり前よ!

 何処の世界に毎回毎回的に全弾命中させれる戦車がいるのよ!」


 ヤタハーンの言葉に呼応するかのように周りに居た戦車娘達も寄ってくる。


「そうよ。

 あのヒトマルやナナヨンすら足元にも及ばないと言ってるアナタはとんでも無く凄い射撃が出来るんでしょう?」


 そう言って来たのは派手な化粧に胸元を少しはだけさせサングラスを引っ掛けた少女、胸元からチラ見えするブラジャーはこれでもかと言わんばかりに星条旗なので、間違いなくアメリカの戦車娘だ。


「そんな事はないです。

 私はヒトマルより性能では劣りますし、ナナヨンには経験で劣ります」


 90式の謙遜にまた別の少女達が声を上げる。


「でも、貴女、朝は射撃には自信があると言っていたわよね?」

「そうよ。言っていたわよね?」


 次に現れたのはよく似た顔立ちの少女ふたり。


「まぁ、はい。

 ですが、皆さんのように戦場経験もないのでそこまで誇れるような事は……」


 90式は困った様な顔で答える。日本人の悪い癖が戦車にも現れて居る。


「その辺にしておけ。

 もうそろそろ授業だ」

「そーそー予鈴は鳴ったわよ」


 入り口近くに座る少女の言葉にヤタハーンが続き、90式を囲む少女達は解散した。

 それから間も無くして教師がやって来て授業が始まる。休み毎に90式は囲まれたがヤタハーンが質問攻めの前に自己紹介ぐらいしろと言い付け、午前中のうちに90式はクラスメイトの戦車娘達は覚える事が出来た。

 昼休みになると74式と10式がやって来る。


「行くわよ。

 最初はロクイチ姉さんよ」

「はい」


 90式は取り囲もうとしていたクラスメイト達に断りを入れて2人の後を追う。歩きながら3人は服装を直しロクイチ姉さんこと61式戦車が居るクラスに向かう。


「74式戦車以下3両の者は61式戦車に要件あり参りました!」


 教室の入り口、弁当を広げて居るのであろう楽しそうな会話が聞こえる室内に向かって74式が声を大きめに告げる。

 すると、近くにいた少女がロクイチーと奥の方に叫ぶ。ややもすると黒髪で小柄な少女がやって来た。


「あらー!!

 久しぶりねー!キューマルちゃん!元気にしてた?」


 少女、61式は自身より背の高く大柄な90式に嬉しそうに抱き付くと90式も少し恥ずかしそうに抱き返す。


「MCVちゃんとは会った?」

「いえ、こちらに来る時は同じでしたがそれ以降はお互いに忙しくて中々会えませんで……」

「あらーそうなの。寮に入るのよね?」

「はい」

「なら、今晩は皆んなで再会を祝してちょっとしたパーティーをやりましょう。ね?」


 61式の言葉にはいと皆が頷く。それから4両は職員室に向かう。


「61式戦車以下4両の者はハチキュー先生に用件あり参りました!」


 そして、今度は61式が先頭に立ち挨拶をすると中に入って行く。

 職員室に彼女等が入ると視線を全て集める。


「こっちです」


 1人の、61式よりも更に小柄な、戦車娘が手を挙げた。


「気を付け!

 ハチキュー先生の前まで前へー進め」


 3人は一列の縦隊になって歩き出す。それからハチキュー先生こと八九式中戦車の前に来ると横隊になり、敬礼をした。


「休め。

 90式戦車さんとは土浦以来ですか?お久しぶりですね」

「はい。

 土浦以来です。お久しぶりです。本日より本校の高等部に入校致しました。御指導御鞭撻の程をよろしくお願いします」


 90式が頭を下げる。


「はー、日本戦車じゃチリとお前どっちがデカいかって位だな」


 そんな話をして居ると後ろからやはり小柄な戦車娘がやってくる。


「チハ先生!」

「おう、久しぶり。

 相変わらずデカいなお前は!」


 ハッハッハッと笑う彼女は九七式中戦車である。彼女は日本で最も生産された中戦車であり、日本陸軍と言えばチハと言っても過言ではない程に知名度が高い戦車である。


「チハ先生、ほかの人達は?」

「あー午後の準備してくるって言ってましたよ。

 射場じゃないんですかね?」


 午後は90式達の基本射撃である。


「あら、じゃあ午後は90式さんの射撃が見られるのですね」

「ヒトマルは、アメ公の映画みたいだしナナヨンは私等と車体が伸びただけであんま変わんねーもんな。

 キューマルの射撃が一番面白い」


 頑張れよ、とチハは笑って去っていく。


「じゃあ、3人ともお昼をとって、確りと射撃に望みなさいね」


 八九式の言葉に3人はハイと返事をして去った行った。

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