第3話
午後の科目も終わり、90式は他の戦車達の様に帰路に着く。基本的には寮があり其処に入るのだが、一部の国は独自に家を借りてそこに住んでいる。
「キューマルは誰と同じ部屋なの?」
「まだその辺の情報は来てませんね。
寮に向かえば分かると昨日言われました。荷物も部屋に運び込んでおくと」
「そう。
昨日はホテルだっけ?」
74式と会話をしながら歩いて行く。10式は何処で見つけたのか木の棒を吟味しながら歩いていたら。
「寮は、色々と派閥があるから気をつけて。
特にデカいの東と西の派閥」
74式の言葉に90式は頷いた。
「余りに仲が悪過ぎて所謂ロシア系戦車と西側戦車は学校が違うんでしたっけ?」
「正確には二個に分けて寮生活は同じ場所よ。
だから、寮に行くと東側戦車が居るわよ」
74式の言葉に90式は漠然としか想像がつかなかった。
27演対抗や新演対抗に乗っていた
勿論、写真で見た事があるのでどの様な物かも知っている。しかし、実際に見た事がないのでただ漠然と想像するしかなかった。
「さ、着いたわよ」
74式が指差す先には大きな建物。綺麗な作りで何処か学校の様な雰囲気がある。
10式が先導する形で中に入る。90式が後に続くと、中ではヤタハーンに似た少女達がイギリスのチャレンジャー姉妹やレオパルド姉妹達と睨み合っている。
「ヤタハーンが一杯いるわ」
「違うわよ」
背後から苦笑と共にヤハターンが現れる。
「ヤハターン!
どうにかして!」
そして、睨み合ってる戦車娘達を掻き分けて矢張りヤハターンに似た戦車娘が出て来た。
「ヤハターン……2?」
「オプロートよ。
後もう1人BMオプロートが居るわ。
所属はウクライナ。T-80って知ってるわよね?アレをウクライナが独自に作ったのがT-84。私の姉さんね。で、改良型のT-84BM、120mm砲に換装した私、ヤタハーンね。
だから、顔貌が東側に凄い似てるのよね」
ヤタハーンがオプロートに90式よと紹介し、90式は初めましてと頭を下げた。
「それで、今日は何で喧嘩をしているの?」
ヤタハーンが東西戦車娘達の間に割って入る。
「喧嘩はしてはいないわ。
そこのブルジョワ共が勝手にいろいろと舞い上がってるだけよ」
そう答えるのはヤタハーンやオプロートに良く似た戦車娘だ。
「そもそも、我々はブルジョワではなくそこのヤーポンの新入りに用があるのだ」
戦車娘は90式を見る。
「ようこそ、CPC寮へ」
戦車娘はそう告げると、90式の方に手を差し出した。
90式はその手を取ると握手をする。
「初めまして、日本国自衛隊所属の90式戦車と申します」
「私はT-90Mプラルィヴよ」
プラルィヴが告げると10式がスッと90式の後ろに立つ。
「最新鋭の戦車ですよ。
T-14と違ってウクライナでも戦ってます。結果は、まぁ、アレですが」
「そうなのね。
分かったわ」
10式の言葉に90式は頷く。
「ウクライナのは私の責任ではない。
乗ってる者が未熟なのだ。君達だってそうだろう?」
プラルィヴの言葉に90式は大きく頷いた。
「その通りです。
我々は所詮は兵器。我々を生かすも殺すも人間次第。其処に優劣はありません。
私と貴女。貴女と彼女達。
国と政治は仲が悪いですが我々まで仲を悪くする必要は無いかと」
90式の言葉に東側戦車娘達の奥の方から拍手が聞こえて来た。
「素晴らしい考えだ」
現れたのは右目にモノクルを掛けた戦車娘だ。
「はじめまして、極東の同胞よ。
私はT-72B、君達の言うところではスーパー・ドリー・パートンと言う奴さ」
90式は10式を見ると10式は74式を見た。
「そう言う歌手がいるのよ、アメリカに。ドリー・パートンっていうスタイル抜群の」
74式が眼鏡のブリッジを押し上げて答える。
90式が72Bのスタイルを見る。確かにナイスバディであった。
「成程。貴女のお名前はかねがね聞いています。
初めまして、90式です」
90式が頭を下げると72Bもぎこちなく頭を下げた。
「ウラミジール」
「はい姉様」
プラルィヴにこれまたそっくりな戦車娘、T-90Aが現れる。彼女は赤色の小さな丸いサングラスを掛けている。
「彼女達とジョンブル共を」
「分かりました」
90式達はウラミジールを筆頭としたT-90の派生型達にエスコートされる。
残りの西側戦車は少し雑にT-72の派生型達が着いてこいと案内する。ヤハターンはオプロートと共に90式の少し後ろをついて来ている。
「私は貴女達の国や文化は大好きなんだ」
「国同士は仲が悪いが、我々には関係ない」
「是非とも仲良くしようじゃ無いか」
ウラミジールはプラルィヴと共に日本戦車達にしか聞こえない声量で告げる。
T-90達は皆同じ顔にしか見えないが、ヤハターンやオプロートも同じ顔だし、前を歩くT-72系統も同じ顔だ。
「申し訳無いですが、もう、誰が誰やら……」
90式の言葉に74式と10式も大いに賛同するかの様に頷いた。そして、それを聞いたヤハターンやオプロートは分かると言う感じに笑っていた。
案内された先は食堂であった。中に入ると、軍楽隊ばりに正装をした戦車娘達がロシアクラシックを流している。
「凄っ……」
「なんか凄いことなってる。楽団いる!」
コチラヘコチラヘと案内されながら90式達は歩いて行き、上座席に案内された。其処には16式MCVをはじめとした日本国自衛隊の車両が並んでいる。
「あ、キューマルさん!
ナナヨンさんやヒトマルさんもお久しぶりです!」
MCVが立ち上がって頭を下げる。他の所謂装甲車と呼ばれる者達も立ち上がって頭を下げた。
「皆さんもお久しぶりです。
マメタン先輩、元気にしてましたか?」
MCVの影に隠れて見えない1人の戦車娘、正確には自走式無反動砲娘が脇に出る。
「はい!
皆さん良い子です!あ、そう言えばロクイチさんが今席を外されてます」
確かに61式の姿が見えなかった。
席に座り、暫くすると61式がやって来る。それを90式達はやはり立ち上がって出迎えた。
「ごめんねー部屋でパーティーしようとしたらソ連の子達がパーティー開いてくれるって言うからはい、これ」
61式が差し出したのは紙の束だった。
中を捲ると気象データと海外ではあるが120ミリ砲の、特に90式と同じ才能と言われているDM33の射撃データであった。
「なんか、今日、射撃で弾外したんでしょう?
ドイツの娘等に頼んでデータ貰ったの。これあれば次は外さないでしょ?」
61式の言葉に90式は立ち上がってハイと返事をし、恭しくデータをカバンに仕舞う。
74式と10式はそんな90式を見て苦笑する。それから全員揃ったと左にモノクルを嵌めた戦車娘がグラスをスプーンで叩いた静かにさせる。
「今回は、日本からTYPE90、キューマルシキとTYPE16、ヒトロクシキがやって来たと言う事で我々が僭越ながら歓迎会を開かせてもらった。
キューマルシキ、ヒトロクシキようこそ戦車学校へ」
戦車娘の言葉に紹介された2人は立ち上がって頭を下げた。
「我々の為にこの様な場を用意して頂き有り難うございます」
「ありがとうございます!」
90式とMCVは頭を下げると拍手が起こった。
会場は東西戦車が対面する形で並べられており、主賓たる90式達は正面に座っている。端には東側戦車達が座っており90式の少し離れた位置にヤハターンが居た。
オプロート含むウクライナ戦車娘達は正面のかなり近い位置に居るのも何やらあるのだろう。
「聞くところによると、キューマルシキは本日の射撃で素晴らしい腕前を披露したとか」
そして、司会進行役の左モノクルは90式を見た。
「その時の映像があるので、披露しても良いかな?」
「皆様にお見せする様な物では御座いませんが、良ければどうぞ」
90式が準備万端に用意されているスクリーンとプロジェクタを見遣りながら頷いた。
左モノクルはにっこり笑ってありがとうと告げると、電気が薄暗くなる。それからカシャーッとスピーカーからワザとらしいフィルムを回す音が流れたかと思うとKGBとデカデカと表示される。
「ソ連時代に無くなったろう!」
「ふざけんな!」
ヨーロッパ諸国戦車娘達からそう言う声が上がり、90式達は普通に笑っていた。
「国家安全保障委員会だ。
何を勘違いしている。我々所謂旧ソ連圏の戦車娘達を纏め上げる為に委員会制度をとっており、その一つに風紀を取り締まる為の委員会が、このKGBだ。Комите́т госуда́рственной безопа́сности 、長いのでKGBと言っているのだ」
左モノクルの言葉に90式はへーっと少し感心する。
「ロシアの人は本当にカーゲーベーって言うのですね」
90式が感心した様に74式に告げると本当ねと74式も頷いた。
「分かったなら、次に進めるぞ」
一時停止を押されていた動画が動き出す。すると、何処で撮った居たのか上空や後方、各的の位置などがBGMと共に編集されて流れ出した。
90式達が表を見ながら話し合ってるシーンから始まり、点検射撃、本番と字幕まで付く。
それから、競技が開始されると90式と74式の無線のやり取りまで入っていた。
「無線傍受までしてるわよ……」
「CIAとやり合ってた国の諜報機関ですからね。凄いです」
「ウチの国はやはり遅れてますねー」
90式達はそんなことを言いながら稜線射撃を見る。
「んーこうはっきり見るとやや左に流れてますね」
「最後の方で逆風吹いたから真ん中行ってる感はあるわ」
「やっぱり3000はキツイですよー」
「でも、当たるんだからそこはしっかりと読み込まないと」
日本戦車達の反省会が並行して行われる。
続いて横行行進射だ。初弾は的の前端を掠っていく。
「リード取り過ぎよ。
ちょっと、巻き戻して貰えるかしら?」
61式が言うと左モノクルが直ぐに指示を出し少し巻き戻す。
「はい止めて」
61式が的が出て来た瞬間に止まる。
「何故、初弾外れたの?
的な速度、知ってたわよね?」
「はい。
速度4kmで、リードは2.4取ってました」
90式がその場で気を付けをして答えた。
「じゃあ、何故外れたの?」
「的現出に合わせてリードを取りつつ射撃しようとしましたが、その、少し焦って居まして目標のロックが出来た瞬間に射撃してしまいました」
「そうね。
そのミス、新人がよくやるわよね?」
「はい」
「何やってんの?貴女、3世代戦車なんでしょう?前線だったら死んでるわよ」
61式の穏やかながらキツイ言葉に90式は面目次第もありませんと頭を下げる74式や10式も非常に真面目な顔で聞いていた。
「まぁまぁ、でも次は当てたのだから」
左モノクルは苦笑しつつ動画を進めさせる。
初弾は前端を掠り、次弾で命中する。そこから直行に入り、後は全ての弾が当たる。日本戦車達は動画はもはや見ておらず横行行進射の話で盛り上がっていた。
動画が終わり、各国は90式の射撃の高さに興奮しているが90式達は最早お通夜のように反省会になっている。61式先導の射撃理論の再確認だ。
「ヤポンスキーはあの完璧な射撃をしても尚足らないというのか」
「恐るべき連中だ。
一度は帝政を破り、負けた身で我が大祖国の侵攻を食い止めただけはある」
そんな日本戦車娘達を見た東側の特にソ連配備戦車娘達はヒソヒソと話していた。
左モノクルは再びグラスを叩いて注目を集める。
「反省会はまた後にしよう。
この映像も後でプレゼントさせて貰いたい。
今は我がロシア料理に舌鼓を打って頂こう」
左モノクルの言葉に料理が運ばれて来る。
ロシアの郷土料理をフルコースで堪能した90式達だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます