見つめる瞳
真衣 優夢
第1話
私がコンビニでバイトをしていた頃のお話です。
このコンビニではいっぱい怖い思いをしました。
交通量の多い角地にあって、どうも「良くない場所」に立っていたらしいです。
現在はもう、建物すら存在しません。
基本的に従業員2人で回すお店でした。季節は冬前。
私は夜のバイトだったので、夕方来て、昼の方と交代しました。
私のペアは店長。若い方で、私のことを非常に嫌ってらっしゃいました。
私も同じくらい嫌いだったんですけど。
私がカウンターに立って、店長が品物をチェック整理してたんです。
お客様も何故かほとんどこなくて、眠いな~とぼんやり思っていた時…。
ぞくうぅっ!!…としました。
ものすごい敵意の視線。
肉まんとかを温めるあの機械と、唐揚げとかを並べておくケースの間からでした。
ぎらぎらとした両眼が…私を…睨んでいる…。
『ひいぃ、店長!私が嫌いだからってそこまで睨まないでよ!!
さぼってません、さぼってません~!!』
心の中で悲鳴を上げつつ、私はカウンターで細かな作業を始めました。
その時。
店長が、店の奥の冷蔵庫から出て来たんです。バタンと扉を開いて。
え?
店長…ずっとそこにいたんですか?
じゃあ…私を睨んでいたのは、誰!?
店にはお客様はいませんでした。入ってきたら、自動ドアが開いてチャイムが鳴りますので、気づかないはずはありません。
あの、思い出してもぞっとするようなあの二つの眼…!!
………って、えぇ!!??
私は気づきました。
肉まん蒸し器と唐揚げケースの間は、3センチも空いていません。
片目ならともかく、そこから「両目」を覗けるわけがなかったんです。
でも、見間違いなわけない。
あの、恐ろしいくらい私を睨んでいた両目と、黒い丸い頭…。そこまで見えたのに…!?
心底怖くなりました。
一緒に仕事に入っているのは店長。…頼れない!
その日は、帰る時間の待ち遠しさとお客さんの待ち遠しさはハンパじゃありませんでした。
別の日です。
いつも通り夕方出勤、昼勤の人と交代して、私はコンビニのお仕事を開始しました。
商品が山のように入荷されているのに、でーんと倉庫に放置されていて「ちきしょう」と思いながら、お仕事をせっせ、せっせ。
カウンターに戻ると言う行為は、夕方以降では、「サボっている」と同義語。
一人でも店内に客がいれば(立ち読み客は除く)カウンターにいるのも許されますが、そうでない時は、店長に無言で怒られます。
一通り荷物を棚に並べ終えた私は、とことことカウンターに戻ろうとしました。
運良く、店長の姿は見えません。
ゆっくり休んでやろう~♪ …と、思ったその時。
私は硬直しました。
カウンターテーブルに、それ以上一歩も近づけませんでした。
カウンターテーブルの上で、私を、ふたつの目が見つめていたからです。
それは、頭の上半分だけがカウンターから突き出していました。
輪郭はぼやけてよくわかりません。丸坊主なのか、骸骨なのか、ぼやっとした塊の、黒く丸い頭でした。
両眼だけが光っていました。
何色の目かと聞かれても、うまく答えられません。
恐ろしい眼でした。
正面で立ちすくむ私を、すさまじい形相で睨んでいました。
目だけなのに。
殺されそうな程の憎悪を感じました。
間違いない。
あの時、肉まんケースと唐揚げケースの間から放たれていた視線は…。
「これ」、だ……!
声なんか出ません。
目をそらすことも出来ないとは、こういうことを言うのでしょう。
見つめ合っていたのは、数秒間だと思います。
場にそぐわぬ明るい電子音が店に響き、自動ドアが開きました。
お客様が入ってきたのです。
はっと我に返った時、カウンターの「それ」は、いなくなっていました。
きっと、私の「いらっしゃいませ」の声と笑顔は、ひきつっていたことでしょう。
…助かった…。
それ以降、あの「ギクッとする視線」をどこからともなく感じても、絶対見ないように心がけました。
運良く、黒い頭の「見つめる瞳」との直接遭遇は、前回を含めた、その2回だけでした。
一年と立たず、そのバイトを辞めてしまいましたので。
このコンビニでは他にも、ちまちまと人ならざるものを拝見しましたが、ひとまずここで話は納めると致しましょう。
見つめる瞳 真衣 優夢 @yurayurahituji
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