狐の特賞:『凍てつく屍山血河に寄せて/西園寺兼続』

 

 スカンジナビア連合国に住む“冬招きの巫女”ウルスラと、彼女の幼馴染であるアクセルの話。


 読み終わった段階で、「間違いなく特賞候補だ……」と思いました。葉月賞の他作品が現代文芸やSFジャンルが多い中、エンタメ色の強い異世界ファンタジー戦記での真っ向勝負!

 それでいて世界観に新規性があり、非常に読みやすい文体だったのもすごく好きなポイントです。


 作中世界におけるスカンジナビア連合国とノヴゴロドの戦争はファンタジー世界的な脚色をされていますが、現代世界で実際に起こっている“移民問題”に対する眼差しを感じました。

 ストーリーの大筋はクリスマス休戦を下敷きにしつつ、冒頭の一文で『爽やかな終わり方はしない』ことを明確に提示する。文体のカジュアルさや登場人物の個性的なキャラクターで誤魔化されがちな『今そこにある戦争』のリアルさを“夏”をテーマに描いており、その文脈の重ね方も非常に好みでした。

 作品そのものが北欧の短い夏をテーマにしており、“夏”がテーマの葉月賞ではかなりの変化球だと最初は思いましたが、何度か読むうちに「巡る季節が止まる」話なのだと思いました。

 ウルスラの氷結能力の暴走によって生まれた凍てつく夏は“停滞”のメタファーであり、終わらない戦争とリンクがある。本来なら季節を正常に保つ存在である巫女の暴走とともに、決着がつかないまま膠着する戦争は無限に被害を重ねていく。彼らが“夏の終わり”を願うのは、そんな意味があるのだと読みました。


 キャラクターとしてパッパが好きです。暑くて寒々しい夏の戦争における、文字通りの清涼剤でした。

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狐の特賞:『凍てつく屍山血河に寄せて/西園寺兼続』 @fox_0829

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