藍色の女たち(2)
とある日の定時後、稔梨は社内で仲の良い先輩の透子とハイブランドの店舗に来ていた。
織田から予期せず貰ったプレゼントのお返しを選ぶためだ。
稔梨はハイブランドにはあまり興味がなく一度も店舗に入ったことがなかったので、購入経験のある透子に付き添いを頼んだのだ。
厳かな雰囲気の店内に入ると最敬礼したスタッフに迎えられる。
こういう空間に入ると、自分までワンランクもツーランクも上の人間になったような気がするから不思議だ。
プレゼントする品物はネクタイと決めてあった。
稔梨の懐具合ではこのくらいが精いっぱいだし、なるべく普段身に着けられるもので自身も確認できるものとなると、ネクタイ以外に選択肢はないだろう。
いかにもハイブランドとわかるいやらしいものではなく、さり気ないデザインのものを探していた。
「これなんてどうでしょう?」
紺色ベースで全体にうっすらとブランドロゴが透けて見えるデザインのものを指差し、透子に意見を求める。
「いいんじゃない?彼の年齢的にもそのくらいが無難だと思うよ。」
稔梨は透子には織田との関係を簡単に告白済みだ。
実は透子も親会社の妻子ある男性ともう三年も不倫中なので、そういう意味でも先輩だったのだ。
選んだネクタイを包装してもらい店を出る。
そのまま二人は、予約してあった馴染みの居酒屋に向かった。
二人でビールを飲みながら食事を進める。
一通りの料理を食べ終わり、ビールのおかわりを注文したところで、透子は稔梨に問いかけた。
「それで?どうしてそんな急展開になったの?」
稔梨は小柄で明るい女性で、よく小動物のようだと言われている。
三歳年下の弟がいて、高校時代までは祖父母と二世帯住宅に住んでいた。そのせいか男女分け隔てなく誰とでも気軽に話せるし、常に周りをよく観察していて様々なフォローを入れる気遣いも忘れない。
故に、彼女はモテるはずなのだ、黙っていれば。でも決して黙っていられない。小柄なわりに大きな声でつい、余計なひとことを言ってはギャハハと笑う。かわいいキャラは性に合わない、外見と中身のギャップに耐えられる人だけが本当に仲良くしてくれればそれでいい、そう言っていた。
そんな稔梨なので、男友達はいても彼氏はなかなかできなかった。男女の友情は成立しないこともわかっていたので、性には比較的奔放だったせいもある。わざわざ付き合う意味なんてない、といつも言っていた。
でもひとつだけ、稔梨自身で決めたルールがあった。
すでに特定の相手がいる人と、会社の人とは、絶対に男女の関係にはならない。
常日頃からそう言っていたのに、透子と同じく妻子持ちの親会社の人と深い仲になったなんて、ちょっと信じられない気持ちだったのだ。
「あー、なんか、忙しすぎて感覚がバグってたっていうか?
それに、いきなり泊まりで誘われるなんて、ねぇ?
もうそうなるしかないですし……。」
珍しく歯切れが悪かった。
ハイブランドのプレゼントまで買って背伸びして、今回は本気なんだろうな、と透子は思った。
それでも透子にも稔梨自身にも、本気ではないと必死に訴えている。
稔梨も不倫という蟻地獄にはまってしまったのだ。
それぞれの巣に落ちた蟻たちは、這い上がることができるのだろうか。
それとも、飲み込まれてしまうのだろうか。
二番目がいい 清沢ネロ @neroli1609
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。二番目がいいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます