第18話 急性薬物中毒
「ええっ、薬物による中毒症状っ!?委員長、犯罪者になってしもうたんかっ!?」
椅子が倒れそうな勢いで立ち上がると、依那ちゃんが叫んだ。
倒れかかった椅子を律君が、今にも巧望君に掴みかかりそうな依那ちゃんを秋君が抑える。
「洌崎、落ち着け。話は最後まで聞かねえと分かんねえだろ?」
最年長らしく、たしなめる秋君。
仕方なく依那ちゃんは律君が置き直した椅子に座る。
「エナ、薬物による中毒症状は大麻みたいな違法薬物だけじゃなくて、市販の風邪薬でも起きるんだよ〜。タク、もしかして……ODした?」
信武君が依那ちゃんを安心させるよう微笑んだ後、巧望君を睨むように見た。
ODか……可能性はないわけではないけど、巧望君がそういうことをするようには見えないけどな。
……
幻覚を見たり、精神を興奮状態にし、不安やストレスから解放する効果があると言われていて、簡単に手に入る市販の風邪薬などでも出来る。
そのため、その効果を求めてODに手を出す若年層が増えていると社会問題にもなっているみたいだよ。
「いやしてない。神とお前に誓ってね。」
巧望君はすぐさま首を降って、それをキッパリと否定する。
目が泳いだり、手ぐせが増えたりするような様子はない。
その様子からも、嘘を吐いているようには見えなかった。
「じゃあ、違法薬物の方ってこと?まあ、巧望に限ってはないと思うけど。」
律君が意味が分からないと言うように首を捻って、巧望君を見る。
「それもない。薬物検査にかけたけど、違法薬物は検出されなかったよ。そもそも、検出されていたら俺は今ここにいないしね。」
巧望君は即座に否定。
場は薬物検査という言葉にざわつく。
「薬物検査って……おま、警察行ったんか?」
秋君が絶句する。
「うん、父さんとね。異様に頭痛や倦怠感が続くし風邪にしては長引いていて変だなって思ってたんだけど、父さんは何となくだけど薬物の中毒症状だと勘づいたみたいだ。こういう時に、父親が警察関係の仕事に就いていて良かったなって思ったよ。」
巧望君はあっけらかんとした様子で場を和ますように笑うが、
「なんでそないにあっさりしとんの?普通はもっと動揺したりするもんやで!?」
「あり得ない、どういう精神してんの?」
今のみんなには和むなんて文字はなかった。
そんな中、誰よりも冷静だったのは信武君。
「ふ〜む、なるほど〜。で、他に検出されたものはあった?」
白シャツの胸ポケットから手帳のようなものを取り出して、テーブルに肘を突くとその手を顎に添える。
巧望君はその様子を見つめながらため息を吐いた。
「いや、それが残念なことに詳しいことは教えてもらえなかったんだ。俺が未成年だからなのかもしれないけど。」
困ったように笑う巧望君に、
「長期間続いた頭痛や倦怠感、それに嘔吐は薬物中毒の可能性が高い。でも、症状だけじゃ断定出来ない。でも、タクは薬物中毒だってキッパリと言ったよね〜。それは何で?」
信武君は何か考え込むような表情で言った。
「大した根拠はない。でも。父さんの知り合いの警察官に言われたんだ、もうODするのはやめなさいって。もちろんしてないし、身に覚えもなかったからその時は困惑したよ。だけど、父さんが仕事から帰ってきたやいなや、俺の部屋を漁り始めたから多分薬品の成分か何かが出たんじゃないかなってね。」
巧望君の答えに、秋君が嬉々として声を上げる。
「部屋漁られたってことは……ヤバいもんでも見つかった?」
茶化すように言う秋君を、
「いいや。俺、お前みたいに他人に見せられないようなものも、後ろめたいこともないから。」
ニッコリと笑ってバッサリと切る巧望君。
秋君は、ちぇっ、つまんねえの、と言うように椅子の背もたれに身を預けた。
その向かい側で、なにアホなこと言うてんの?と口パクで注意する依那ちゃんと、秋君の隣で無言でその腕を摘む律君。
痛って、と秋君が声を上げる前に、信武君が口を開いた。
「まとめると、部屋からは薬品等は見つかってないし、もちろんタクは薬品を口にしてないってことだよね〜。でも、パパやパパの知り合いの態度からすると、間違いなく薬物検査で何らかの薬品が検出されてる。この矛盾から、タクが無意識に薬品を口にした可能性が高いってことが言えると思うよ〜。例えば〜、誰かが飲み物や食べ物に薬品等を混ぜたとかね。」
そう言い終えて、巧望君を見据える信武君の目には様々な色の光が瞬いていた。
まるで、オパールが遊色するような。
……この目、前にも見たことがある。
意味深げに相手を見るんだ、いつもとは違う雰囲気を漂わせて。
資料にはなかった医療の知識を持ち合わせているところや、私に時々見せる人格が変わったかのような様子。
宗方信武、彼は一体何者なんだろう?きっとただの小学生じゃないはず。
特Aの他のメンバーとは、明らかに毛色が違う気がするんだ。
「無意識か……やっかいだな、それ。お前は心当たりないんだろ?」
秋君が顔をしかめて唸る。
その声で私はハッとして、意識をその場に戻す。
いけない、今は信武君より巧望君のことを考えないと。
「いや、実は……1つ、心当たりと言うか、原因じゃないかと踏んでる物があるんだ。」
巧望君は秋君の問いに苦笑いを浮かべて首を振った。
「ものぉ?」
そう言って首を傾げた秋君とほぼ同時に、依那ちゃんと律君も不思議そうな顔をする。
「変に勿体ぶらなくて良いから〜。さっきからその手に持ってるの、俺たちに見せて。」
ただ1人、顔色を変えなかったのはやっぱり信武君。
テーブルに身を乗り出すと、巧望君の方へ掌を見せる。
そんな信武君の言葉に、みんなは1度信武君を不思議そうな目で見た後、巧望君に再び視線を戻した。
「何、持ってんだよ?早く見せろ!」
「委員長、私らに隠し事は無意味やで。何が出てきても大丈夫やから、心配せんと早よぉみせい!」
「見たい、気になる。」
ジリジリとあらゆる方向から迫ってくる手を見て、巧望君はやれやれと肩をすくめる。
「別に隠しているつもりはなかったんだけどな。ほら、コレだよ、俺が原因だと踏んでる物ってのは。」
そして、そう言うと同時に、スポーツブランドのロゴの入ったリュックサックの小さい収納ポケットから何かを取り出して、みんなの前に置いた。
……それは、スポーツをする合間に口にする、塩分補給のできるタブレット型のお菓子のようなものに見えた。
「ん?コレってアレやんなぁ、ミネラル補給ーみたいなやつやろ?」
依那ちゃんがそれをじっと見つめた後、顔を上げて、何や、変なものちゃうやんと言うような目で巧望君を見る。
秋君と律君が依那ちゃんの言葉を肯定するように頷く。
「何かに似てんなって思ったけどそれだ!」
「うん、俺も同じもの思い浮かべた。」
一方、私はと言うと……。
いや、確かに似てるけど多分違う、これは栄養補助食品系のものではないはず。
みんなの見方とは真逆の視点で、テーブルの上に置かれた正体不明の謎のタブレットを見ていた。
商品として売り出している物にしては、明らかな違和感があったんだ。
その違和感は何かって言うと、
「コレって〜、商品名もプラマークもないんだね〜。変なの〜。」
不意に信武君が声を上げる。
タブレットを手に取ると、目の高さに持ち上げてマジマジと見つめる様子に、私は深く頷いた。
そうなんだよ、そこが私が引っかかったところなんだ。
大体の商品は、包装に商品名だったり、リサイクル識別表示マークって言う法律で表示することが義務化されているマーク(プラを矢印で囲んでるマークとかよく見るよね)などが印刷されているよね。
それが一切ないことと、あとは包装のされ方が普段見ているお菓子とかの商品と少し違うことも引っかかってる。
市販の塩分補給を謳うタブレット型のお菓子の商品って大体、フチがギザギザしててそれをピッて引っ張って開けるタイプの包装だよね。
飴とかを思い浮かべてくれると分かりやすいと思うんだけど、しっかり密閉されてる感じ。
でも、例の謎のタブレットはと言うと……本やCDを包装するような透明度の高い袋に入れられていた。
もちろん袋のフチには接着剤が付いていて封はしてあるけど、密閉性は正直言ってなさそうな感じ。
とても、まともな会社が売り出しているような商品には見えなかったんだ。
「巧望君、このタブレットはもとからこの包装?」
巧望君がもとの袋から今の袋に入れ替えた可能性もあったので、一応聞いてみる。
「うん、俺がもらった時はこの包装だったよ。あ、言い忘れてたけど、コレ、人からもらった物なんだ。だから、詳しいことはその子に聞かないと……。」
うーん、なるほど、やっぱりまともな物じゃない線が濃くなった気がする。
……って、待った!人からのもらい物ってどういうこと?
少女は今日も間諜① 石川詩空 @ishikawaayama0507
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