第17話 詳しい話は授業終わりに

巧望君が教室に現れたのは、何と1時限を過ぎて、2時限目との間の休憩時間。

巧望君の姿を見たのは唯一私だけだったから、1時限目の間はずっとヤキモキしてたんだ。

あれは幻だったんじゃないか、みんなに嘘を言っちゃったんじゃないかって。

だから、巧望君が現れた時、心底ほっとしたよ。


「タク〜!」


真っ先に信武君が駆け寄る。

それに続いて秋君が、


「久しぶり過ぎんだろ、すげえ心配したんだぜ?俺、今日、お前が来る予感がして、いつもより10分以上も早く来たっての。」


巧望君を抱きしめる信武君ごと、肩に抱きながら言った。


「わっ、ちょっ、ごめん、悪かったよ。2人とも、謝るから離して欲しいな、苦しいから。」


2人から強い力で抱きしめられて、巧望君は困ったように笑う。


「巧望君、久しぶり。調子はどう?今日来た時に昇降口で巧望君を見かけたから、みんなにそのことを言ったら大盛り上がりだったよ。私含めてみんな、巧望君が来るのを心待ちにしてたところ。」


私がその光景を微笑ましく感じて、笑みを浮かべながら巧望君を見ると、


「塚本さん、久しぶり。調子はまずまずかな。良いとも悪いとも言えない感じ。見かけたなら声かけてくれて良かったのに。あ、もしかして声かけてくれたのに俺が気づいてなかった?もしそうだったらごめんね。」


巧望君がいつもの笑みを浮かべて私を見返す。

申し訳なさそうに眉尻を下げる巧望君に、


「あ、ううん、巧望君は悪くないよ。昇降口にいた時、巧望君の顔色がちょっと悪いような気がして……。それで声をかけそびれちゃったんだ。」


私は慌てて首を振る。

すると、巧望君は苦い表情を浮かべて微笑んだ。


「そっか、なんか心配させちゃったみたいでごめんね。でも、元気だから安心して。」


その浮かない表情に違和感を覚えつつ、私は頷き返す。

私と巧望君のやり取りを横で聞いていた依那ちゃんがすかさず口を開いた。


「委員長、私らに報告することがあるやろ?言うてみい。」


じろっと睨んで言うその様子は、まさに問い詰めるという行為に相応しかった。

いや、問い詰めるどころか、尋問に近かったかもしれない。


「報告?俺、何かしたっけ……あ、もしかして」


巧望君は依那ちゃんの威圧的な雰囲気に目を瞬かせた、かと思うとハッとした表情になる。


「うん、俺たちは巧望が長らく休んでいた理由が知りたいんだ。その、言いにくいことだったら無理に言わなくても良いんだけど。」


律君が少し気遣うような視線を巧望君に向けて言う。

すると、巧望君は大きく首を降る。

そして、


「大丈夫、言いにくい話じゃないから。それに、そのことについてみんなの力を借りたかったところなんだ。詳しくは授業が終わった後に。」


目に強い光を浮かべてそう言うと、有無を言わせずみんなに散るように指示した。

……いつになく巧望君、怖い顔してたな。

何があったんだろう、一体何がそうさせたんだ?


巧望君の異様な雰囲気に気を取られて、私は授業にあまり身が入らなかった。

巧望君の身に何が起きたのか、その謎が解けたのは名駿での授業が終わった後に寄ったカフェでのことだった。

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