栃木妖怪研究所

第1話

 私も女房も動物好きです。ちょっとタイプは違いますが、普通に犬猫等々は家族全員共通して可愛がってます。

 私と女房の違いは、私は守備範囲が広く、爬虫類でも昆虫でも両生類でもOKなのですが、女房は哺乳類と鳥類と魚類に限定されてしまうのです。水族館等は大好きなのですが、庭に蛇が出ると大騒ぎになります。

 私から見ると、変な奴と思っておりますが、当人は、私が普通だと申します。

 庭に出た蛇を私が捕まえて、

「飼おうか?」などと言いますと、いつも大人しく、喧嘩等した事もない女房ですが、断固として反対します。やがて慣れるかな。と思っても慣れる事はなさそうです。


 そんな家族ですが、捨てられた犬猫は、放っておけないところがあり、里親会から犬一匹。猫三匹引き取って育てました。

 犬は17年目で老衰で亡くなりましたが、猫は今も元気で毎日、夜は女房の布団に入って寝て、朝は三匹連れだって私を起こしに来ます。

 子供達が成人して、皆家を出ましたが、猫のお陰で毎日賑やかな我が家です。


 そんなある日。あれは3年位前の早春でした。仕事が終わって帰宅した私は、車を駐車場に入れ、玄関迄数歩ですが歩きはじめました。オリオン座がはっきり見えておりました。

 すると、ミーミーという、かなり幼い猫の声がします。

「あれ?ウチの猫は皆大人だから、ウチの猫じゃないな。庭に迷い込んだか?」と、車に戻って懐中電灯を取ってきて、庭に植えてある色々な木の根本や、花壇の草むらを探しましたが分かりません。

 玄関が開いて女房が出て来ました。

「何かあったの?車が停まってから中々入って来ないから。」

「ああ。聞こえないか?子猫が何処かに居るらしい。」

「え?あ、本当だ。聞こえるね。鳴いてるわ。私も懐中電灯持って来る。」

「ついでに家中のカーテン開けて、全室電気つけて。」

「わかった。」と、庭を目一杯明るくして、二人で探しましたが見つかりません。

 ただ、ずっとミー ミーと聞こえます。女房などは、勝手に「ミーちゃん」などと名前を付けて探しておりました。お隣か?とお隣さんにも言って、両隣もお向かいの家も探してくれたのですが、結局見つかりませんでした。

諦めたら、女房が、

「人見知りの子で、出て来ないのかもね。お腹空いてるかもしれなから、玄関の外にミルクと幼猫用のエサあるから置いておくね。」と言って私達は各自家に入りました。

 でも、夜中、就寝する時間になっても、どこからか「ミー ミー」と聞こえるのには参りました。

 気になって、女房と何度もこっそり餌の所をみたり、庭をみたりしましたが、結局朝まで分かりませんでした。


 翌日は休日でした。早朝から猫探すか。と朝食もそこそこに庭に出ますと、まだミー ミーと聞こえます。


 その時、不思議な事に気づきました。庭の西側に居ても、東側に居ても、声の大きさが変わらないのです。これでは、声を辿る事が出来ません。

 「この鳴き方、なんか変じゃないか?」と女房に話していると、家の前に工事業者の車が停まりました。

「すみません。市から依頼された緊急の下水道工事に来ました。」と、言います。

「はい。でも下水道、何か壊れたんですか?」

「こちらのお宅の下水道は、裏側を通って別の下水管に入るので、お宅は大丈夫なんですが、この道路の下に、向こうの団地からくる下水管が通っていましてね。どうもこの辺で詰りが出ている様なので、すみませんが今から工事をします。お車出す時等で邪魔だったら、遠慮なく言ってください。直ぐに退かしますから。」

と言って、三人の職人さんが工事中のカラーコーンを立てて、マンホールを開けました。すると、ミーと言う猫の声が大きくなりました。

 職人さんが、

「あれ?猫か?ここは猫なんか入れる場所はないんだが?」などと言ってマンホールの中に入って行きました。


 しばらくすると、マンホールの中から「わぁ!」という大きな声がしました。


 私も近所の人も見ておりますと、グチャグチャに湿ったダンボール箱を持った職人さんがマンホールから出てきました。

 真っ青な顔をしています。ダンボールからは、ミー ミーと言う声がしています。職人さんが、

 「皆さん。これが雨水を流す所に詰まってました。今からこの箱を開けて中を確認しますが、怖い事が苦手な方は見ないでくださいね。」と言います。早く子猫を出してあげればいいのに。と、みんな思っておりました。


 まだ箱の中からは、ミー ミーと聞こえます。職人さんが箱を開けました。


 中には完全に白骨化した子猫の骨しか有りませんでした。箱を開けた途端に鳴き声も止んだのでした。 了

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栃木妖怪研究所 @youkailabo

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