第5話 隠し迷宮を秒で突破
俺は父上が出かけるのを待ってから、フランソアラを連れて屋敷を出た。
マルス・ノアールが住んでいるのは、ここゲータ・ニィガ王国の王都ニィガ。
その中央には巨大な城、レーシック王城がある。
俺の目的は、この城の地下にある図書館だ。
地下図書館は、王族や、宮廷に勤めるものしか利用ができない。
が、俺は宮廷魔導士である父上の息子。
父上に届け物があるといって中に入れてもらえた。
そのまま地下図書館へと向かう。
中には所狭しと本棚が並んでいる。
フランソアラはコテン、と可愛らしく首を傾げた。
「マルス様。図書館に何のようですか? お勉強でもするのですか?」
「いや、勉強が目的できたのではない」
「では、何を?」
「…………」
さて、馬鹿正直に、これからすることを語って良いだろうか。
これから行く場所は、一応王家の管理する秘密のダンジョンなのだ。
勝手に入ったことがバレたら、叱られるってレベルじゃあない。
「大丈夫です! 他言しません!」
「え、そう?」
「はい!」
キラッキラした目を俺に向けてくるフランソアラ。
嘘ついてる目とは思えん。まじで黙っててくれるんだろうか。
「どうしてそこまでしてくれるの?」
まあその方が都合いいけどさ。
「マルス様がしゅきだから……♡」
「え、なんだって?」
「なんでもないです!」
まあいいか。他言しないっていうしな。
「これから隠しダンジョンに向かう」
「かくしだんじょん? なんなのですか?」
「ゲームクリア後のやり込み要素ってやつだ」
「?????」
「まあ、隠された迷宮ってことだ」
「なるほど! 隠された迷宮!」
言い方変えただけなんだが……
まあいいや。
「隠しダンジョンの入り口がこの図書館にあるのだ」
本来なら、主人公がラスボスを倒した後、この国の王女からダンジョンの入り口を教えてもらう、ということになっている。
だが、俺はゲームクリアしたことがあるので、入り口の場所を把握してるのだ。
無数にある本棚の間を縫って、壁際の本棚近くまでやってきた。
本棚の高さは3メートルほどある。
これの最上段から二つ下の棚、右から7つ目の本。
「まずはこれを引き抜く。次に……」
最下段の本、最上段の本、右端、左端の本を抜く……
ゴゴゴゴゴゴ!!!!!
「本棚が左右に開いていく!?」
やがて本棚は左右に開き、奥へ進む通路が出現した。
「こ、こんな隠し通路の場所を知ってるだなんて! さすがマルス様です!」
キラキラした目を向けるフランソアラ。
煉瓦造りの小さな通路を抜けて奥へと進む。
すると、俺たちはレトロな館のような場所へとやってきた。
ここが、ダンジョンの入り口だ。
「なんだか貴族様の館みたいな感じですね。ここがダンジョンのなかなのですか?」
「ああ」
ホール中央に、1つの像が立っている。
翼を広げたワシの像だ。
『挑戦者よ、良くぞまいられた』
「しゃ、しゃべったぁ!?」
ワシの像の目がぎらん、と輝く。
フランソアラは像がしゃべったことに腰を抜かしていた。
まあ俺はわかっていたので、驚きもしない。
『ここは真に力あるものが、更なる力を得るために作られし試練の迷宮。見事クリアすれば、奥にある宝物殿への侵入を許可しよう』
部屋の奥には大きめの扉がある。
「あの扉の向こうにお宝が!」
ふむ。
「フランソアラ。5秒後に後ろにジャンプ」
「え?」
「いいか、5秒後だ。4、3……」
俺がカウントしてる間にも、ワシの像によるアナウンスが続く。
『さぁ、これより試練開始だ』
「後ろにとべ!!」
フランソアラがうなずいて、俺たちは背後にジャンプ。
ばかん!
「!? わ、私たちがさっきまで立っていた場所に、いつの間にか大穴が!?」
そう、ゲームだとあのワシの像が喋り終えると、床に穴があき、プレイヤーたちは強制的に穴の下へと落とされる。
プレイヤーたちはこの穴に落ちて、最下層からスタートし、この場所へと戻ってくることで、ダンジョンクリアとなるのだ。
そう、落下は、強制なのだ。ゲームの都合で落ちることになっている。
だがそれはあくまでゲームでの話だ。
俺はこの床に穴が開くことを知っていた。
そして、ここはゲームじゃない。なら、わざわざ落ちてやる必要もない。
『…………』
わしの像が黙り込んでしまった。
うん、だよね。本来ならここで挑戦者は穴に落ちるはずだったんだもの。
『よくぞ奈落から這い上がってきたな! 挑戦者よ!』
ゲームと同じアナウンスが流れる。
だがなぜだろう、どこか、やけっぱちになってるように感じだ。涙目ってやつだ。
『宝物殿に入る許可を与えよう』
「お、おお! すごいぞマルス様! ダンジョンクリアしてないのに、宝物殿に入っていいって!」
『ただし!』
「ただし!?」
なんかリアクションが新鮮だな。
もちろん、俺はこの後の展開も知ってる。
『合言葉を述べよ』
「なにぃ!? 合言葉!?」
『挑戦者よ、貴殿らはこの大迷宮を突破してここにきたはずだ。なら、途中途中で設置された、この宝物殿を開く鍵となる【合言葉】を入手してきたはずだ!』
「なんてことだ! 合言葉なんて知らないぞ! ど、どうしようマルス様」
合言葉、ね。
「【エキドナ・テレジア・クルシュ・アリス・ユーリ・カノン・ピナ・マオ・メイ】」
まあ、ゲームクリアしたことのある俺は、当然、合言葉知ってるんだよね。
、『……正解!』
なんか、わしの像が泣いてるところを想起してしまった。
なんかすまん……。
本来なら結構凝ったギミックがあるんだ(キーとなる単語をただ漫然と集めるんじゃなくて、途中で拾えるヒントから、ただしい順に単語を並べる必要があったのだ)
キーとなる単語を入力したことで、奥の、宝物殿の扉が開く。
『さぁ! この迷宮をクリアせし挑戦者よ! 報酬を受けとるのだ!』
やっぱりどこか、やけっぱちになってる気がするのは、俺の思い過ごしじゃないはず……。
ごめんよ。
「じゃ、いくか」
「はい!」
俺たちは奥へと進んでいく。
宝物殿、ということで、中には台座がいくつもあり、その上には激レアアイテムが飾ってあった。
「す、すごそうなアイテムがこんなにも!」
まあ後で全部回収するとして。
俺の目的は……部屋の最奥に飾られている、1本の黒い杖だ。
「なんですか、その黒い杖は?」
「これは、杖剣だ」
「じょーけん……?」
「杖の中に刃が仕込んであるんだよ」
この杖……魔杖剣デュランダルには、装備すると魔法攻撃力と、物理攻撃力の数値に大幅な+補正がかかる。
具体的に言うと、数値が2乗されるのだ。
2倍ではないぞ。2乗なのだ。
つまり物理攻撃力が10しかなくても、100。
100なら10000となる。
やりこみをせず本編のシナリオをクリアしたあとの、キャラの攻撃力の数値はだいたい3桁くらいだ。
でもこれを装備すれば、文字通り桁違いの強キャラになれる。
ボスやイベントボスといった、特殊な敵を除いて、フィールド上で出てくる敵ほぼワンパンで倒せるようになる。
ぶっ壊れなんて言葉で片付けていいアイテムじゃない。
まあ、本編クリア後、しかもやりこみ要素のダンジョンの報酬として設定されてるアイテムなのだ。
これくらい壊れ性能を持っていてもおかしくはない。
「っと、あとはこれを……」
俺は別の台座へと向かう。
そこには、1枚の美しい葉っぱが飾られている。
葉っぱを回収。よし。
「マルス様、それは?」
「これは……世界樹の葉だ」
「せ、世界樹の葉!?」
どうやらフランソアラも聞いたことあるだろう。
どんな怪我病気、そして呪いすらも、直してしまうという、これまたぶっ壊れ消費アイテムである。
売ればとんでもない額の金が手に入る……が。
「これ、帰ったらベリンに使ってやるよ」
「!? い、妹に……そんな高価なアイテムを、使ってくださるのですか……!?」
「ああ」
フランソアラの妹、ベリンは本編開始前に死んでしまう運命にある。
それを知っていて、放置することは、人としてできない。寝覚めが悪すぎる。
だから、この葉っぱを使って、ベリンの病を治してあげようってことだ。
「そんな……本当に、よろしいのですか?」
「もちろん」
「そこまで……していただけるなんて……なぜですか?」
死ぬはずの人間を放置したくないから、とは言えないな。
言っても理解されてるとは到底思えないし。
「ベリンのこと、ほっとけないんだよ」
「!? ううううう! うあぁああん! ありがとうございますぅううう!」
フランソアラは俺の腰にしがみついて、大泣きする。
この子ほんと良く泣くよな……。
「マルス様ぁ! 私、騎士団を辞めます!」
ふぁ!?
え、えええ!?
騎士団を辞める、だって!?
確かフランソアラは、騎士団に入れてくれた団長のために、騎士を続けてるんじゃなかったのか……?
「私が仕えるべきは、あなた様ただ一人です!」
「俺ぇ……?」
「はい! この身、朽ち果てるそのときまで、貴方の剣として、仕えさせていただきますぅう!!」
えーと、ええっとぉ……。
あれ?
このイベント、どっかで見たことあるような……。
あ! そ、そうだ!
確かエタファンの主人公が、フランソアラをハーレムメンバーに入れるときのイベントだ!
あ、あれ……ってことは……。
俺、主人公から、ヒロインを奪ってしまった……ってこと!?
追放され闇落ちする悪役貴族に転生したので、チートスキル【努力】で最強を目指す〜ゲーム中盤で退場したくないので必死に努力した結果、主人公より強くなったうえ原作ヒロイン達からめちゃくちゃ溺愛されてる 茨木野 @ibarakinokino
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