第4話 料理を作る


 フランソアラとその妹を、うちに住まわせることにした。


 彼女からは学べることが多いからな。

 特に、剣術スキルを効率的に上げるためには、そのスキルを持っている人に直接指導してもらうのが一番。


 フランソアラほどの剣の使い手はそうはいない。

 この子を逃がしてなるものか。

 ってことで、俺は彼女を手元に置くことにしたのである。

 他意は無い。


「ありがとうごうざいます! マルス様……! 我ら姉妹をこの屋敷においてくださって!」


 明くる日、フランソアラとその妹、ベリンがうちに来た。

 ベリンは俺の部屋のベッドで寝かせている。彼女は重い病気を抱えている。そして原作だと死んでしまう。


 ……この子のことも、どうにかしてあげたい。だって死ぬってわかってるやつを、ほっとけないだろ?

 まあ原作知識を使えば、この子の病状を直すことはできるからな。

 それについては追々。


「気にするな」

「はう……♡」

「はう?」

「なんでもございません! ところで、どちらに向かわれてるのですか?」

「ん、厨房にな」

「厨房……」


 廊下を歩いていたそのときだ。

 前から、銀髪の中年男性が歩いてきたのだ。


 黒いローブを身に纏った、40くらいのおっさんである。

 長い髪をオールバックにしている。顔は、ザ嫌なやつみたいな感じ。


「おはようございます、父上」


 こいつはマルスの父、【マルパゲン・ノアール】。

 宮廷魔導士として、国に仕える、いちおう凄い魔法使いだ。


 が。


「チッ」


 俺に会うなり、マルパゲンは舌打ちしてきた。

 まあそりゃしょうがないのだ。


 なにせマルパゲンは生粋の貴族主義者。

 そして、闇の魔法こそが至高、と思っているのである。


 闇魔法の才能が絶対だと思ってるやつなのだ。

 闇魔法の才能の無いマルスのことを、毛嫌いするのは仕方ないことなのだ。


「マルス。聞いたぞ。貴様、平民のガキを手元に置くことにしたらしいな」

「ええ、そうです。父上。駄目でしたか」


「ふん! どうでもいい。勝手にしろ。貴様に【は】、何も期待していない」


 俺に【は】……ね。


「ただし、平民のガキの面倒は貴様が見ろよ。貴様には最低限の生活はさせてやるが。それ以上のことをするなら、自分でなんとかしろ」

「わかっております。自分のことは、自分でやりますので」

「ふんっ……!」


 マルパゲンは歩み去って行く。

 ま、最初からわかっていた。


 マルスは原作では、親からかなり嫌われていたからな。

 闇魔法がないからってさ。


 だからこうなることは予想できていたので、別になんとも思っていない。


「マルス様……」


 フランソアラが暗い顔をしてうつむいている。


「どうした?」

「すみません。私のせいで、お父様に嫌われてしまって」


 ああ、自分のせいだと思ってるわけか。貴族のくせに、平民をつれてるからと、父に嫌われてるんだと。


「フランソアラのせいじゃないさ。元々俺はマルパゲン、父上に嫌われてたし」

「! そ、そうなのですか?」

「ああ。闇魔法の才能がないからな」


 俺がそういうと、フランソアラはギョッと目を向く。


「そ、そうだったのですか?」

「うん。あれ、知らなかった?」

「は、はい……」


 まあ、魔法の才能がないなんて、プライドの高いマルスが他言するわけないか。


「ま、そういうわけだから、お前のせいじゃない。気にすんな」

「…………」


 フランソアラは体をプルプル振るわせていた。

 そして、涙を流す。え、ええ?


「なんで泣くんだよ……?」

「自らも辛い境遇のおられるのに、私たちのような下々のものにまで慈悲をおかけくださるなんて……なんてお優しいお方なのだと、感動しておりました!」


「いや下々って。そんなひげするなよ」


 貴族視点(この世界基準)じゃ、確かに平民は下々かもしれないが。

 現代日本人の俺からすれば、別にフランソアラも俺も同じ人間だ。

 上も下もない。


「はう……♡ちゅき……優しい……えへへへ♡」


 なんか知らんがぴったりくっついてきたぞ!?

 どうしたんだろうか?


「マルス様のような平民にもお優しいかたと添い遂げることができて、私はとても嬉しいです♡」

「お、おおう?」


 添い遂げるって、え、なに?

 なんでそんなことになってるの。聞き間違いだよね?


【そばにいることができて】ってことだよね?

 うん、そうに違いない。だって俺この子の好感度あげるようなことしてないしな。


 それにこのこはエタファンの主人公と結ばれる予定のヒロインだからな。

 俺とは結ばれない運命にあるんだよ。うん、やっぱりさっきのは聞き間違いだな。


 さて。

 やってきたのは厨房だ。


「どうして厨房に?」

「食事を作りにだよ」

「食事を? 一体誰のですか?」

「そら君らのだよ」

「ええええええ!?」


 また驚かれてしまった。

 そらそうか。貴族が平民のためにめしなんぞ作らんだろうからな。


 俺は厨房の扉を開ける。

 なかにはお屋敷専属コックたちが厨房に立ち、慌ただしく食事の準備をしていた。


「ま、マルスぼっちゃま!?」


 手前にいたコックが俺をみて叫ぶ。

 全員が作業の手を止める。

 そんなに驚くことか……?


「あー、料理長いるか?」

「へ、へい! ここに!」


 一際でけえ帽子を被った、恰幅のいいおっさんが近づいてきた。

 こいつが料理長だな。


「すまんがいらなくなった野菜を譲ってもらえないか。あと、調理器具を貸して欲しい。頼むよ」

「もらえないか!? たたたたた、頼むぅう!?」


 びっくり仰天の料理長。

 そらまあ、マルスが平民にそんなへりくだった言い方しないからな。驚いて当然だろう。


「どうなんだ?」

「へ、へえ! どうぞ! ご自由に!」

「ありがとな」

「あああああありがとぉお!?」


 お礼言ったくらいでそんな驚かないでくれよ……

 どんだけマルス、この屋敷で態度悪かったんだよ……


 まあ原作じゃ、確かにマルスは平民に対して、尊大な態度をとっていた。

 学校でもそうだったんだ、家でも同じように、平民を見下し、いじめていたのかもしれん。


 マルスはそうでも、俺はそんなことしない。

 俺はスタスタと厨房の片隅へと向かう。


 余った野菜と調理器具をかりて、簡単なポトフを作る。


「マルス様、お料理までできるんですね!」


 後ろに突っ立っていたフランソアラがそんなこと言ってきた。


「まあな」


 マルスはできないだろうが、俺にはできる。 

 前世の俺はレストランの厨房でバイトしていたことあったからな。これくらい朝飯前だ。


【条件を達成しました】

【料理スキル(下級)を獲得しました】


 ん?

 努力チートが発動したようだ。

 

 しかも、もう料理スキルゲットしたのか?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

1)料理を、30分以内に調理し終える

2)他人のために料理を作る

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 なんか、条件緩い……?

 剣術スキル獲得のときも少し思ったが、なんだか簡単にスキルゲットできすぎやしないか?


 努力チート。

 努力しないとスキルを獲得できないスキル、のはずなのだが。


 剣も料理も、大して努力してない。それなのに、努力チートが発動して、スキルを獲得できてる。


 なんでだろうか……? 

 一つ推論を立てるなら、マルスは闇の魔法の才能がないかわりに、実はかなりのマルチな才能を持っていた。

 だから、努力条件が少なくて済む……みたいな。


 確証があるわけじゃないが、そうでないと、こんな緩い努力条件で、スキルを獲得できるわけない、と思う。


 そうだったとしたら、とんでもないことだぞ。

 天才マルスに努力チートが加わるなんて、鬼に金棒もいいところじゃないか。


「美味しそう……」


 じゅるり、とフランソアラが涎を垂らす。


「ありがとう。じゃ、部屋に戻って食べようか」

「ふぁ!? ど、どういうことですか!?」


「え、どういうことって?」

「だ、だってその料理は、マルス様がご自分で食べるための料理じゃ?」


「ああ、違う違う。君と君の妹ベリンが食べる分の料理だよ」

「「「ええええええええ!?」」」


 ……フランソアラが驚くのはわかるが、なんで周りのコックたちも驚いてるんだよ……?


「あの嬢ちゃん、平民じゃないか!?」

「マルスぼっちゃまが、平民のために手料理を!?」

「どうなってるんだ!? 槍でも降るんじゃないか!?」


 微妙に失礼だね君たち……。


「マルス様! まさか、病気の妹のために、暖かい手料理を作ってくださったのですか!?」

「え、まあ」


 マルパゲンは、フランソアラたちの面倒は、俺がみろといってきた。

 つまり、屋敷のコックたちは、彼女らの料理を作れないってことだ。


 だから、俺が自分で、彼女らの飯を作ったのである。


「病気の女の子のために料理を!?」

「マルスぼっちゃまが!?」


 普段の俺の素行の悪さがたたってか、すごいいちいち驚かれる……


「うぐ、ぐす……感動です。マルス様……」

「だから泣くなよいちいち」

「ずびばぜん……」


 泣いてるフランソアラ。

 コックたちは遠巻きに俺らを見ている。


「ぼっちゃまが平民に優しくしてるなんて」

「一体どうしちまったんだ?」

「まさか心を入れ替えたとか?」

「いやいやまさか」

「でもぉ、病気の子のために料理を作ったのは事実だぜ?」

「じゃあ、本当にマルス様は変わったのか……?」


 俺が料理の入った鍋を持って行こうとしたそのときだ。


「マルスぼっちゃま!」


 料理長が俺の前にやってきた。

 え、なに?


「うちのもんに、料理を運ばせます!」

「え、いやいいよ。自分で運ぶから」

「いいえ! やらせてください!」

「そ、そう?」


 どうしたんだ急に……。

 まあ、お鍋ちょっと重いから持ってもらえると助かるけどさ。


 俺はフランソアラと、料理を運んでくれるメイドを連れて外に出る。


「フランソアラ。飯食ったら出かけるぞ」

「出かける? どちらにですか?」

「ん。隠しダンジョン」

「かくし、ダンジョン?」


 そう言われても何が何やらだろう。

 俺はこれから、アイテムをちょっと回収しに、王都の地下にある隠しダンジョンへ向かう予定だ。


 強くなるためには、自己研鑽も必要だが、強いアイテム、武器も必要となるからな。


「喜んでついてきます!」

「お、おう。そうか。助かる」

「えへへへ! マルス様のためなら、たとえ火の中でも喜んで飛び込んでみますよ!」


「やめて。怖いから」


 なんか、この子の俺に対する好感度、めちゃくちゃ高くねえか……?

 

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