第6話 腹チラ

 日曜日。今日は、いつもより早く目が覚めた。集合は10時からだが、学校以外でも彼女に会えると思うと楽しみで昨日は中々眠れなかった。


 朝早くから仕事に行く両親と久しぶりに一緒に朝ごはんを食べて、テレビを見て時間になるまでゆっくりしているとふらふらしながら寝起きの紫恵楽が俺の隣へ座り、肩にもたれかかってきた。


 優しく彼女の頭を撫でると紫恵楽は猫のように懐いてきた。


「ふゆ~兄様、今日は早いですね。お母様はもう行ってしまわれましたか?」

「うん、さっきね。いつもより起きるの遅かったけど、夜更かしした?」


 テレビを見ながら聞くと彼女は「はい」と返事をする。


「そう言えば兄様。今日はバスケでしたよね。応援に行ってもよろしいでしょうか? 兄様の憧れである園川さんに是非会ってみたいです」


 試合をやる予定はないが、会いたいと言われてダメとは言えない。


「いいよ。10時頃に行く予定だから準備できたら声掛けて」

「は~い」


 いつもしっかりな紫恵楽だが、朝は甘えん坊だ。ふにゃんとしてるところがまるで猫のようでつい撫でたくなる。

 

「兄様といると安心しますね。彼女さんができたら是非その方に膝枕をオススメしたいです」


 そう言って紫恵楽は、俺の膝に頭を置き、幸せそうな表情をする。


「紫恵楽は好きな人いないの?」

「私の好きな人は兄様と友人のあーちゃんです」

「恋愛トークしたつもりなんだけど……」


 よく紫恵楽から聞く友人のあーちゃんがいつもどんな子なのか気になる。話によればカッコいいらしい。

 

 いつまでも膝枕でゴロゴロしていると置いていくよと言うと紫恵楽は起き上がり今朝俺が作った朝食を食べ始めた。


 出かける頃には準備がちゃんと出来ており、紫恵楽と家を出ていつも日曜日に練習しているバスケットコートへと向かう。


「兄様、ボールお持ちしますよ?」

「いや、紫恵楽は重たそうな荷物持ってるしいいよ。ボールは俺が使うやつだし」

「そうですか」


 隣を歩く紫恵楽は、少し大きめのカバンを持っているが何が入っているのかは謎だ。出かける前に聞いたが、内緒だと言われてしまった。


「ところで、兄様。最近、学校はどうですか? 来年入学する予定なのでどんな学校生活を送っているのか気になります」

「どう……か……」


 紫恵楽ならもっと上の高校に行けそうだが、俺が通っている高校を受験するらしい。


 どんな学校生活を送っていると聞かれてもまだ入学してから3ヶ月だ。行事なんて体育祭ぐらいしかしていない。


「そうだな……昨日から食堂で夏限定サイダープリンが販売され始めたんだ」

「サイダープリン……兄様、ちゃんとお友達はいますか?」

「いるけど」


(なぜ友達の心配をされたんだろう)


 反応が微妙なのでここで最近の学校での発見を言うのは間違っていたと言うことか。


「紫恵楽は心配です。サイダープリンがお友達なのかと……」

「そんな悲しいやつになった覚えはない」


 紫恵楽と話していると気づけばバスケットコートに到着した。


「おっ、来た来た。朔、紫恵楽さん、おはよ」


 先に来ていた柊は俺と紫恵楽に気付き、手を大きく振っていた。


 そして同じく先に来ていた園川さんも俺たちに気付き、駆け寄ってきた。


「おはよ、東條くん!」

「お、おはよう……」


 どうしよう、今日も笑顔が眩しすぎて直視できない。


 動きやすい服装で来た園川さんを見て俺は可愛すぎて固まってしまう。制服か体操服姿しか見たことなかったからそれ以外の服を着ているとこらを見るのは新鮮だ。


「兄様が固まってしまいました……。あっ、初めまして。妹の東條紫恵楽です」


 紫恵楽は、丁寧に挨拶し、ペコリと頭を下げると園川さんもつられて頭を下げる。


「初めまして、園川美羽です。紫恵楽ちゃんって呼んでもいいかな? 私のことは美羽でいいよ」

「もちろんです、美羽さん」


 自己紹介を終えると紫恵楽は、ベンチに座り、応援。俺と園川さん、柊は、バスケットコートへと入る。


「じゃ、シュート練でもやるか。園川さんは、ボール……持ってきてるんだね」

「うん、マイボール持ってきたよ!」


 後ろを振り向くとなぜかどや顔をしてバスケットボールを持つ園川さんがいた。


「じゃあ、2つゴールあるから俺はあっちでやるわ。2人はここ使ってくれ」


 柊はそう言って俺と園川さんを2人にして行ってしまった。行く際に親指を立てグッとやり、頑張れと口パクで言っていた。


(頑張れって何を……)


「園川さん、先にいいよ」

「ありがとう。じゃ、私からいくね」


 俺は園川さんのバスケをしている姿が見たく、何かに引き寄せられるように紫恵楽のいるところに行き、見やすいところに移動していた。


 ボールを見て、準備ができたのか彼女の顔つきが変わった気がした。


 俺はドリブルをしてシュートかと思い込んでいたが、彼女はこの場で腰を落とし、スリーポイントからのシュートをした。


 横から見ているとジャンプした瞬間に彼女の肌が見えた。


(なっ! これは腹チラッ!)


「次は東條くんの番だよ……って、あれ、どうしたの?」


 見てはいけないようなものを見た気がして下を向いていると心配で園川さんは俺のところへ駆け寄ってきた。

 

「いや、ありがとうございます」

「?」


 急にお礼を言われて首をかしげる園川さん。それを見て紫恵楽はクスッと笑った。


「美羽さん、兄様の言ったことは聞き流してもらって大丈夫ですよ」

「そ、そう?」

「はいっ! 次は、兄様の番ですよ」


 紫恵楽に服の袖をクイクイと引っ張られ、俺はハッとする。


 腹チラの衝撃にフリーズしてしまった。危ない危ない。


 ボールを持ち、園川さんと同じようにスリーポイントからのシュートをしようとしたが、先ほどのことを思い出し、失敗した。


(無理だ……集中力が……)


 落ちたボールを拾いに行くと園川さんの声が聞こえ、彼女のいる方向を向く。


「頑張れ、ファイト! もう1回チャレンジだよ、東條くん!」

「……あ、ありがとう」

 

 園川さんからの応援……次は絶対に外すわけにはいかない。


 気合いをいれてもう一度再チャレンジ。しかし、またもや外した。


 それを見て紫恵楽は1人呟く。


「兄様、園川さんの前だとダメダメですね。ここはいいところを見せる場面だと思いますけど」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今のこの『好き』を僕たちは何と呼ぶのか 柊なのは @aoihoshi310

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ