第4話

○梶家・リビングダイニング(夜)


   食べ終えた食器をシンクの洗い桶に沈

   める智之。めぐみに目で合図する綾。


めぐみ「……」

智之「(二人と視線が絡んで)……」

綾「……トモくん、智一を呼んできて」

智之「……どうして?」

綾「お願い」

智之「……」


   ×   ×   ×


   テーブルに並んで座る、智之、智一、

   対面にめぐみ。

   めぐみの隣に座る綾。

   緊張の面持ちの智之。落ち着かない。

   鼻で深呼吸。

   話し出そうと口を開く綾。

   途端に智之、遮るように素っ頓狂な声

   を上げる。


智之「やだなあ! そんな真剣な顔」

智一「……(智之を睨む)」

智之「(皆を見回し)何?」

めぐみ「黙って」   

智之「なにその言い方」

めぐみ「あんたね」   

智之「なんだよ」

めぐみ「いいから黙って聞いて」

智一「(二人に)いい加減にしろよ」

めぐみ「何エラそうに」

智一「自分だろ」

めぐみ「なにも知らないくせに」

智一「……ふざけるなよ」

   立ち上がり、テーブル越しにめぐみに

   に掴みかかる智一。

   湯飲みが落ち、茶がこぼれ、床に染み

   込んでいく。


智之「にいちゃん! やめてよ!」

   智之、間に入り智一の腕にしがみつ 

   く。

   バン、と卓を叩く綾。

   三人、一斉に綾を見る。

綾「……いい?」

智之・めぐみ・智一「……」


○小学校・教室内(夕)

   続々と教室を出て行く生徒たち。

生徒たち「(口々に)先生さよならー」

担任「おう、気をつけてな」

   自席前に立ち様子を伺う智之。出て行

   く生徒の切れ間を見計らい、

   歩み寄る。

智之「先生」

担任「どうした?」

智之「あの……脳死、と植物状態の違いって」

担任「のうし? 脳死? 何? 誰のことだ」

智之「切迫脳死って聞いた事ありますか?」

担任「どうしたんだ」

智之「(言いかけ)……」

担任「梶?」

智之「……何でもないです」

   担任をすり抜け、廊下へ出る智之。

   腕組みし、壁に寄りかかる柴田(1

   1)と目が合う。一瞥し、去る智之。

柴田「(気に入らない)……」


○同・校門(夕)

   下校集団。その中にはサツキもいる。

   智之、合い間を縫い、不安を振り払う

   ような早足でぐんぐん皆を追い抜く。


サツキ「……」

   

○病院・個室(夕)

   手際よく点滴を交換する島津翔子(3

   3)。バイタルをチェックし、表に記

   入する。

   を、凝視する智之。

翔子「(気づいて)……どうしたの?」

智之「それ、僕にも出来ますか」

翔子「え?」

智之「点滴の交換、僕にやらせて下さい」

翔子「無理よ、そんなこと」

智之「……じゃあ他に僕に出来ること、あり

 ませんか?」

翔子「こうやって来てくれてるだけで、お父

 さんは……」

智之「それじゃ足りないんです」

翔子「……」

智之「何でもします。何かさせてください」

   翔子を見つめる智之。

翔子「……分かった」

   智之、パッと顔を輝かす。

   ×   ×   ×

   ベッド脇の椅子に座る翔子。一義の手

   を取り、一本一本指を揉みほぐす。

   傍らに立つ智之。

翔子「指を一本一本、こうして関節ごとに曲

 げるの。やってみて」

   立ち上がり、智之と入れ替わる翔子。

   手を取り、一義の指を曲げ伸ばす

   智之。

智之「……」

翔子「なに?」

智之「こんなことして、意味あるのかな……」

翔子「……智之くんは一日でも、指一本動か

 さずにいられる?」

智之「……10分でも無理」

翔子「そうね、それが何日、何週間も続いた

 らどうなると思う?」

   血色悪く、カサつき、粉を吹いている

   一義の手。その手を取り、握る智之。

智之「固くなって……冷たくなる?」

翔子「そうね、血流も滞ってしまうから、固

 くなって凝り固まると、指を動かすのも難

 しくなるの。でも毎日ほぐすのは、とても

 大変。出来る?」  

智之「……うん」

   目の色を変え、一義の手を両手で押し

   広げ、指関節を曲げ伸ばす智之。

智之「……温かくなって来たかも」

翔子「生きてる証拠よ」

   エッと驚き、見上げる智之。

翔子「(微笑んで)」


【続く】

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父還る。 宮藤才 @hattori2525

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