第3話

○同・個室(朝)

   生命維持装置が立てる微かな電子音。

   ベッド前に呆然と立つ智之。


   ベッド上の一義。

   人工呼吸器に繋がれ、

   身体中に点滴等の管が付いている。

   奥から、綾、長女のめぐみ(20)、

   兄の梶智一(17)がベッドを囲む。


智之「父さんどうなるの?……治るよね、

 ね?」

綾「……」

智一「(智之を一瞥、睨んで……)」

   義昭、智之の肩に優しく手をかけ、

義昭「……(励ますように頷く)」

智之「おじさん……」

医師「奥さん(廊下を示唆し)」


   頷き、医師と廊下へ出る綾。 


○梶家・居間(夕)

   床に広げたスーツケース。

   綾、かがんでタオル、洗面用具、一義

   の下着・着替え等の入院グッズを手際

   よく詰め込んでいく。めぐみ来て、

めぐみ「準備できた?」

綾「もう終わるわ」

   綾、立ち上がり仏壇の引き出しを

   開け、封筒を取り出す。

   中の一万円を数え、


綾「当座二十万位で間に合うかしら」

めぐみ「そういうのは後でいいんじゃない」

   めぐみ、トランクを閉め持ち上げる。

めぐみ「私持つ」

綾「ありがとう。お願いね」

   綾、卓上の保険証と封筒をバッグに放

   り込む。


   所在無さげに見ている智之。


○同・玄関・内(夕)   

   玄関で靴を履く、綾とめぐみ。

智之「かあさん」   

綾「今晩病院泊まるから。夕飯は冷凍で何か」

智之「僕も行く」

綾「ダメ。学校あるでしょ」


   階段から降りてくる智一。

   智之、智一を見上げる。


智一「……明日模試なんだ」

智之「にいちゃん」

綾「智一、頼むわね」

智一「分かった。(智之に)明日、テストの

 後、一緒に行こう、な?」

綾「良いの、無理しないで」

めぐみ「大丈夫、今夜は私と母さんが父さん

 といるから。何かあったら連絡する」

智之「……絶対?」

綾「約束する、それじゃ、頼むわね」

智之「(二人を見送り)……」


○梶家・リビングダイニング(夜)

   食器の当たる音だけが響く。

   食事中の智之と智一、向かい合いカレ

   ーを食べている。

   シンクにはレトルトの空袋が二つ。

智一「……(智之をチラ見し)」

智之「ごちそうさま」

   半分も食べてないカレー。ラップをか

   け、去る智之。

智一「(横目で)……」


○病院・個室(夜)

   眠る一義の頬を濡れタオルで拭う綾。

   入ってくるめぐみ。手にしたスマホの

   時間表示は、23時を過ぎている。


綾「いいのよ、会社、無理して休まなくて」

めぐみ「でも……」

綾「帰って休んで。あなたも疲れたでしょう」

めぐみ「ごめん、仕事終わり次第くるから」   

   上着を羽織り、バッグを取るめぐみ。

   思い直して、振り返り、

めぐみ「……ねえ、朝病院から出勤しよっか」 

綾「(微笑み)大丈夫」

   振り切るように出て行くめぐみ。

   大きく息をつく綾。


○梶家・智一の部屋(夜)

   赤ペン片手に机に向かう智一。

   過去問の正誤答チェック中。机上には

   大学受験の赤本、英語、数学の参考書

   など。

   眼前の壁には、勉強メニューの時間割。

   帰宅時間から0時迄、びっしり学科ご

   との受験対策メニュー。

智一「(赤ペンを放って)……」


○同・智之の部屋・前(夜)

   来る智一。

   ドアから漏れる明かり。消え、点く。

   明滅を何度か繰り返し、また点く。

智一「……」

   ノックし、扉を開ける智一


○同・智之の部屋(夜)

   入って来る智一。

   スエット上下で、ベッドに体育座りし

   ている智之。


智一「寝ないのか」   

智之「……(視線合わせず)眠くない」

智一「落ち着かないのか」

智之「……別に」   

   「来いよ」と首を傾ける智一。

智之「(顔上げて)……」


○同・リビングダイニング(夜)

   カップを二つ用意する智一。

   テーブルで待つ智之。

智一「何がいい?」

智之「コーヒー」

智一「ココアな」

智之「……訊く意味」

   ココアの缶から、粉をカップに振り入

   れる智一。ばさっと粉が入る。

智一「……」

智之「入れすぎじゃん」

智一「牛乳で割るんだよ」

   立ち上がり、冷蔵庫を開ける智之。

智之「僕、お見舞いに沢山行くよ」

智一「……そうだな」

   カップにポットから湯を注ぐ智一。   


○大型アパレルショップ・バックルーム(朝)

   山積みのダンボール。そのうちの一つ、

   中には服がぎっしり。納品伝票と突き

   合わせ、検品チェックするめぐみ。

   来る草加義人(33)。


草加「それどれくらいで終わる?」

めぐみ「あと一時間くらいです」

草加「掛かりすぎ。30分で終わらして」

   店舗内に戻って行く草加。

めぐみ「(ため息)……」


○病院・コンサルテーション室

   医師と対面している綾。

綾「(絶句)……」


○大型アパレルショップ・バックルーム

   スマホで通話しているめぐみ。

   沈鬱な面持ちに変わっていく。


○小学校・教室内

   賑やかに給食を食べる生徒達。メニュ

   ーはカレー、サラダ、パック牛乳等。

   勢いよく食べ進む友人。隣席の智之に、

友人「競争な!早いもん勝ちだぞ!」

   カレー、サラダをかっこむ友人。

   パック牛乳を吸う智之、他は手付かず

   の給食。

友人「梶? 他のおかずも半分以上食べないと

 お代わりの権利ないんだぞ?カレーだぞ、

 カレー!」

   トレーごと友人に渡す智之。   

智之「……食う?」

友人「え……マジ?嘘だろなんで?いいの?」

   智之、牛乳を飲み切り、パックを握り

   つぶして立ちあがり、出て行く。

   ぽかんと見送る友人。

   後方席に座る折笠サツキ(11)。

サツキ「……(智之の様子を気にして)」


【続く】

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