転移したのに妖精もドラゴンもいないんですけど

ムーゴット

転移したのに妖精もドラゴンもいないんですけど(「パラレルワールドの不条理」シリーズ第3作


※この作品は「パラレルワールドの不条理」シリーズ

第1作、第2作の続きになっています。

ぜひ順を追ってご覧ください。





大きなテーブルで、霞晴子(カスミハルコ)は、ノートを開いて、

受験勉強を始めるところだった。

学校帰りに、同じクラスで彼氏でもある坂口武佐士(サカグチムサシ)と2人で、

ショッピングモールのフードコートに来ていたのだった。

晴子の目線の先では、武佐士がオーダー待ちの列に並んでいる。

晴子がノートから視線を上げると、

2人は目が合って、ニンマリするのだった。


突然、晴子はめまいがして、

テーブルにおでこがぶつかりそうになった。

と、同時に視界がホワイトアウト!

ただ、一瞬にして霧は晴れ渡り、

ザワついた、いつものフードコートにいた。


「あれっ、なんか気持ち悪い。頭痛い。」

乗り物酔い、というか、なんかそんな感じ。

無意識に武佐士を探すが、視界から消えていた。

「別の店にも行ったのかな?」


「よし、続きをしよう。」

「あれっ?」

ところが、テーブルに広げたはずのノートがない。

テーブルの下を覗くが、ノートは落ちていない。

「さっき、出したよなぁ。」

カバンの中を調べるが、もちろん入っていない。

「えーーーー。おかしい。」

「武佐士がイタズラして隠したか!?

《そんなはずないか?》」

別の教科に切り替えて勉強を始めるが、

なぜか怒りが込み上げて来て、落ち着かない。

「武佐士ぃーーー。遅い!私のパフェ早くしてー。」





結局、武佐士は帰ってこない。

シビレを切らして、スマホのメッセージを送った。

【今どこ】


【もうすぐ晴子の家】

返事は即届いたが、晴子の怒りは爆発。


【勝手に帰るなバカ!フードコートに戻れ!】

この返信を見た武佐士は慌てた。


【本当にごめんなさい。

晴子が怒るのも当然です。

ちゃんと話がしたい。

いつものフードコートにいるんだね。すぐ行く。】

武佐士の返答を見ても、事の重大さに晴子は気付いていなかった。





晴子の家に向かっていた武佐士だったが、

メッセージを見て、行き先は馴染みのフードコートに変更となった。

その時、背後から声を掛けられた。


「武佐士くん、おひさー。晴子のとこ来たの?」

晴子の幼馴染で晴子の親友でもある、蓑美乃花(ミノミノカ)だった。

晴子繋がりで、みんなで遊んだこともあった。


「うん、そんなとこだけど、晴子まだ帰ってなかった。」


「そうなの。」


「で、これから迎えに行くところ。じゃあまた。」


と、言い終わらないうちに、

「なら、私も行く。晴子に用があるんだ。」


「えっ!一緒に行くのか?」


「えーダメなの。」


「ダメ、じゃ、ないけど、、、」


「何、晴子に告白でもするの?」

ノリノリの美乃花。


「違う!、、、謝ることがあるんだ。」


「私が口添えしてあげようか?」


「、、、、お願いします。」




「おぉ、武佐士くん、ちわ!

美乃花もお帰り。」

そこへもう1人登場。晴子と美乃花の幼馴染、

中川健太郎(ナカガワケンタロウ)だった。


「健太郎!あなたもちょっと来てよ。

これから武佐士くんのサポートに行くのよ。」


「何かあった?」


「武佐士くん、晴子になんかしでかして、謝罪に行くんだって。」


「ちょっと、面白がるならやめてくれ!付いてくるな。」


「ごめん、武佐士くん、そんなつもりじゃないよ。」


「そうだよ。僕と美乃花が説得すれば、簡単に晴子のお許しがもらえるよ。」


「そう、晴子を諭してあげる。」


「、、、じゃあ、頼む。」






フードコートに着くと、

ほっぺを膨らませて、

プンプン、と効果音が聞こえて来そうな晴子がいた。


「なんで勝手に帰ったの?」


「晴子がもう帰宅していると思ったから。」


「なんで?

私は武佐士が私の分も注文してパフェを持って来るって言うから、

テーブルで待っていたのに。」


「ごめん。無茶言うなよ。俺はコンビニにいたよ。

確かに隠していた俺が悪かった。

晴子の気持ちに気付いていたのに、気付かないフリをしていた。」


「何それ、今更、何!私、前にちゃんと言葉にして告白したよね!」


一同「えーーーーー!」

美乃花は驚く。「そーだったの!」

健太郎も驚く。「おぉーーーーー!」


「ちょっと、私、2人には報告したよね!?」


「聞いてないよー」幼馴染2人のユニゾン返答。


「えっ、何、どーゆー事?」

晴子はハシゴを外されて地面にたたき落とされた感覚だった。


「俺、晴子から告白されていないよ。

もし、聞き逃していたのなら、それは本当に、ほんとにごめん!」


「えっ、うそ。私と武佐士は付き合っていたじゃない。」


「晴子!大丈夫!?

晴子は、昨日も私に言ったよ。

告白して、付き合える様になったらいいな、って。

頑張ってみる、って。」

美乃花は本格的に晴子が心配になって来た。


「改めてごめん。俺には彼女がいるから、晴子とは付き合えない。」


「《えっ!彼女って、何!?私が彼女じゃないの!?》」

晴子は、もう何も言えなかった。

これは夢なの?夢なら早く覚めて!

それとも、昨日までの出来事は壮大でリアルな妄想?

私はおかしくなっちゃったの?

私は病気なの?

絶望の淵とは、こういう事なのか。

生きる望みが絶たれたとは、こういう事なのか。





魂が抜けた様になった翌日、日常は容赦なくやってくる。

晴子は、美乃花と健太郎に顔を合わせない様に、

いつもより極端に早く家を出た。

学校へ向かって出発したのだが、

武佐士に会うと思うと、行きたくなかった。


なんとなく公園に立ち寄り、ブランコに乗ってみた。

隣のブランコに小さな女の子がやって来た。

しばらく無言で2人で漕いでいたが、

急に女の子が話しかけて来た。


「申し訳ありません。サポートセンターの●◉▲tyと申します。

この度は、当社の不手際で、多大なるご迷惑をお掛けしました。

心よりお詫び申し上げます。」


小さな女の子が発する様な言葉では無い。

名前を名乗ったようだが、言葉として聞き取れない。

目を見開いて驚いて、晴子はブランコを止めて、女の子を見た。

ワンテンポ遅れて、女の子もブランコから降りて、

深々と頭を下げて、話を続けた。

晴子は、ポカンと口を開けて、聞き入るだけだった。


「本来、転移を実行すると、

該当の物体、今回は晴子様本人ですが、

転移元のと転移先のが同じ一つの世界線に存在する場合は、

同一物体、同一人物が重複すると言う、マズい状況になります。


つまり一つの世界に重複はあり得ないことなので、

正規の手順では、転移先に存在する物体を、

同時にさらに別の世界線へ飛ばして、重複を回避します。


この時、更なる転移先では、周囲の環境が矛盾することなく、

該当者には転移したことに気付かれない様な、

極々近似の世界線を選ぶのです。


これが当社が得意とするサービスの一つなのですが、

今回は、ちょっと手違いがありまして、

2者がそのまま入れ替わってしまった様です。

あなたは、自分の過去の経験が、

別物になっている世界線に来てしまいました。

早急に事態の解決を図りたい、、、ところなのですが、

当社にはその権限がありません。

上の次元と協議を進めていますので、

何卒今しばらくこのままでご辛抱願います。」


「はぁ。」

武佐士にフラれた件と、この訳のわからん話を聞いて、

ますます混乱し、心が穏やかでいられない晴子だった。


そのままブランコで、ボーっと時間が過ぎて、

いつのまにか、女の子は消えていた。


「転移って何!?

別物の世界って何!?

ここには妖精もドラゴンもいないよ、、、、。

2周目でも無いし、未来でも無さそう。」

晴子は少しだけ、冷静に考えを巡らせた。

でもそれは、本筋を外れていた。


「晴子、ここにいたね。」

ポンっと肩を叩いたのは、幼馴染の健太郎だった。

晴子の背中側に立って、ブランコの鎖を握っている。

「懐かしいな。ここ。小さな頃、よく一緒に遊んだよね。」


「健太郎、さっきの女の子の話、聞いてなかった?」


「女の子?どんな子?」


「さっき、私と並んでブランコに乗っていた女の子!」


「えっ、晴子はずっとひとりだったよね。

ごめん、僕、家からずっと付けて来たんだ。」


「やっぱり。私はおかしくなっちゃったんだ、、、うぅ、う。」

また、感情が昂り、泣き出した晴子。

後から両腕で、晴子の頭を優しく包む健太郎。

「晴子は大丈夫だよ。ちょっとお疲れなだけかな。」

「俺、もうすぐ免許取れるから、美乃花も誘って、どっか遊びに行こうよ。」


「うぅん、うん、、、」

泣きながら答える晴子。

そのまま声を上げて、いっぱい泣いた。


「ゥワーーーーーーァーーーーァーーーーーー。」


その後は、少し落ち着きを取り戻す晴子だった。

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