第二形態?


おかしな話だ、とグロウが言った。

語りかけるような、諭すような、諦めた声色で静かに言葉を放った。

美しいはずの森の異様な雰囲気の原因であるはずなのに、その目は森への慈しみを浮かべている。


この戦争中に、どうして。

どうしてそんな目ができる。

どうして柔らかく佇んでいられる。

どうしてほころぶような笑顔が浮かべられる!

…勇者は無意識に唾を飲み込んだ。

何もしかけてこないグロウに対して今が確実な攻め時であるはずなのに、パーティ4人は誰一人動けず、全員がひとつのムービーを見ているような感覚だった。


「…俺たちが何をしたんだろうなァ…」

「ただ皆と、普通に暮らして、楽しく、…いつも通りだったのになァ…」

「なァ、サンセ…オレはどうしたらよかったんだろうな…」


悲しい、寂しい、諦め。そんな感情が読み取れる声音でグロウが言葉を重ねていく。

誰もそれに声を挟むことも出来ず、冷や汗をかきながらただただ次の攻撃のために構えるしかできなかった。佳境を乗り越えて、第二形態に入ったような雰囲気がグロウを取り巻いていた。


森の景色がだんだんと暗くなっていく。

戦闘からどれくらい時間が経ったのか正確には分からないが、この森だけが夜に沈んだということは明らかだった。


どうすればいい。

どうすればグロウを倒せる。

どうすれば俺たちの勝利で終わらせることができる。

パーティ全員が頭をフル回転させる。

魔導士は鋭利な冷気のように感じるグロウの漂う魔力にゾッとしながらも手のひらの魔方陣を握りこんだ。

やるしかない。

グロウが何か行動を起こす前にやるしか、道はない。


グロウがゆっくりと瞬きをして_


「【正義の生贄】_」

「【聖女の救い】ッ!!!」


途端に大魔法がぶつかりあった。


魔法同士が瞬時にぶつかり合うと両方の力の大きさで相殺される。

効力が消え去ったふたつの魔法術式が空中で分解された。

その勢いにしんみりとした不気味な空気が一気に霧散する。


「、オーイ!!そんなに聖女が好きなのかよ!!オレも正義を振りかざしてあげたっつーのによ!!」

「美しい魔法です…!あなたには似合わない、ね!」

「ハ?うるさ!【マグニチュード】」

「ぅあ”ッ…!!」


軽く手が握られるとシールダーの立っている地面のみが局地的に落ちくぼむ。

突然の落とし穴でシールダーは身動きがとれなくなり、やけくそに穴の中から叫ぶ。

グロウは調子が戻ったのか、シールダーの怒号を聞いてもひょうひょうと口笛を吹いていた。しかし攻撃の手が緩むことはなく、勇者たちは反撃するもあまり手応えが感じられなかった。


それどころか、焦って隙を生んでしまい痛手を与えられる始末である。

このままではダメだ。

きっとじわじわと追い詰められて全滅する。

勇者は応戦しながら直感でそう思い、態勢を立て直すべく叫んだ。


「四方向に散るんだ!!グロウの周りを囲むぞ!!!」

「オイオイオイ!聞こえてんぞ!?させるわけねえだろ!!」

「グロウは確実に消耗してる!!必ず倒すぞ!!!」

「、クソどもがよォ!!!」


勇者の力強い声にパーティの士気があがり、必ずグロウを倒すべく四人はそれぞれ森に散った。



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RPG なつよう @ren_rkmm_37

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