追放された意地悪公女は未開拓の北の大地で仰ぎ見る

野々宮のの

第1話 婚約破棄

「すまぬな、ベントハイム公女。だが子供のかわいい悪戯と呼ぶには

少々やり過ぎたな」

「貴女には心底失望したよ。プラーニャ嬢。こんな結果になって残念だ」


私は2人の告発と叱責の言葉に、脳が焼き切れるような衝撃を受けていた。

そのせいなのだろうか?私の前世の記憶が走馬灯のように色鮮やかに甦り


絶望した。


(あ、これ詰んでるかも・・・まさか私が異世界転生なるものを実際にするとは)


私の名前はプラーニャ・フォン・ベントハイム

由緒正しいベントハイム公爵家の三女であり、この国の第三王子と婚約し王家の

仲間入りを果たすはずだったのだが・・・・

突如現れたライバル、サンシモン枢機卿の娘であるマリエッタ・ドゥ・サンシモン

に激しく嫉妬し意地悪と嫌がらせを繰り返し、遂にはその悪行を咎められ

婚約破棄と断罪を王と王子によって現在進行形で行われているのである。


だが前世の記憶をこの衝撃によって思い出した今、この場面は見覚えがあった。

前世でやり込んでいた恋愛戦略シュミレーションゲーム


「終末の円舞曲(ロンド)」


主人公であるマリエッタ、ゲームではマリーと呼ばれる16歳の可憐な少女。

マリーには特別な力があり、枢機卿の娘なだけあって聖なる力をその身に

宿していた。

メキド帝国の圧政の中で、ここ聖レントハイム連合国の若き王子達は

反旗を翻し主人公であるマリーと共に、仲間を増やし帝国を打ち倒す

恋愛要素はあるが割とシリアスな本格戦略シュミレーションゲームだ。


物語の冒頭、マリーは王子達と運命的な出会いをしその聖なる力をある事件を

きっかけに知る事になる。

その聖なる力はきっとこれからの帝国との厳しい戦いの役に立つと、王子達に

懇願され一緒に戦う事を誓うマリーだが、その事を面白く思わない

第三王子の婚約者であるプラーニャは、嫉妬に駆られ、数々の嫌がらせや

意地悪を仕掛けるが、めげずに微笑むだけのマリーに日々苛立ちを募らていた。

そしてプラーニャはとうとう引き返せない過ちを犯す。


裏の稼業の者に頼んで帝国と通じマリーを罠にかけてしまったのだ。


だがマリーがプラーニャに呼び出された事を知った第三王子によって間一髪

救い出されプラーニャは王家によって断罪され、追放されるというのが

このゲームの物語の冒頭、チュートリアルイベントみたいなものだった。


(まさか私が転生する事になるなんて・・・しかも主人公では無く割と最近じゃ

お約束の悪役令嬢?って普通それ乙女ゲームとかじゃない?なんで

よりによって恋愛要素のある戦略シュミレーションなのよ!

とか言ってる場合じゃあないわね。状況は最悪!どうする?)


私には思い出した前世の記憶もあるが、16年間この世界で生きてきた

公爵令嬢プラーニャとしての記憶も勿論ある。

マリーに対する数々の意地悪や嫌がらせ。そしてゲーム同様に敵国である

帝国と通じマリーを罠にかけ、全て無事にやり切った後だった記憶がある。

せめてマリーと出会う前に前世の記憶を思い出しさせすればこんな

結末も回避できる未来もあったろう。


でもすべてはもう遅い。私は今後ろ手を兵士に拘束され目の前には

レントハイム王とアルスラーン第三王子並びにシメノン第一王子

デルスター第二王子と勢ぞろいで謁見の間にて断罪されている

真っ最中なのだから。


「王よ。不出来な娘のこの不始末、私がいかようにも処罰を受けましょう。

ですからどうかこの私に免じて娘には寛大なご処置を。」


私のお父様であるラーズ・フォン・ベントハイム

どう考えても私の自業自得のこの状況でも、私の為に頭を下げている。

あの誇り高く私にはいつも優しく見守ってくれていた大好きな父に

あんなにも悲痛な表情で、プライドを捨て頭を下げさせてしまっている

という事実に狂おしいほどに胸が痛む。


「ベントハイム公よ、確かにお前はこの30年の長きに渡り我が国に

尽くしてくれた。それは私も認めよう。しかし外患誘致は大罪だ。

今回の件を知る者は確かに少ないが、お前の娘が帝国と通じていたのは

もう調べがついておる。甘い措置を下せば耳の早い貴族共が黙っては

いまいよ」


「・・・・・・・・」


「とは言え死罪!としてしまえば禍根を残すか・・・。帝国と戦うには

貴公の保有する大規模な兵力と資金が必要になるのもまた事実よのう」


「しかし父上!」「父上!!」


予想していなかった王の言動に、王子達が俄かに殺気を帯びた表情で

父王を睨むが、逆に冷酷で威圧感のある眼でギラリと王子達を一睨み

すればその迫力にグっと彼らは言葉を飲み込んだ。


「では沙汰を下す!プラーニャ・フォン・ベントハイム!

貴君は第三王子との婚約を破棄!僻地追放処分とする!

これよりは北の果て、ボレアス領・領主としてかの地を開拓し、

魔物共の侵略を阻止する任務を与える。

なおこれについてベントハイム家の支援の一切を許さぬものとする!

以上だ!」


「な!?王よ!それはあまりに・・・・」


「下がってよいぞ」


そう王にすげなく言われるとラーズ公は項垂れ、引き下がるしかなかった。

やはりこの流れはどうあがいても止められそうに無い。

こうして私はこれから私の身に起こる過酷な運命を想像し絶望の中、

父に肩を抱かれ城を後にしたのだった。

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