好きな女子から恋愛相談される僕の立ち位置

ムーゴット

好きな女子から恋愛相談される僕の立ち位置(「パラレルワールドの不条理」シリーズ第1作)

「よぉ、健太郎!久しぶりだね。」


「おぉぉ!お帰り、晴子ぉ!」


と言いながら、中川健太郎(ナカガワケンタロウ)はふざけて両腕を広げると、

霞晴子(カスミハルコ)は幼い頃と同じようにハグして来た。

成長してからは初めての気がする。

なぜなら、晴子の胸の膨らみは、明らかに昔とは違っていた。

決して大きい方ではないが、確かに二つの圧力を感じる。

ちょっと恥ずかしくなって来て、晴子を離す。

晴子は全然気にならない顔で、笑っている。


高校2年の男女の関係性というのは、

とってもデリケートなところがある。

と、僕は思っていた。


ただの顔見知りの状態から、

友達とか親友とかの段階へ進んだ時、

そこに留めることはできるのだろうか?

彼氏彼女になりたい、と思わずにいられるのだろうか?


だが、僕の場合、心配ご無用。

同じクラスの女子とか、

それほど多くはないが、新しい出会いがある事はあるが、

その心配をする様な段階へ進む相手は、なかなか現れなかった。

残念ながら。

僕は、どちらかと言えば、人見知りで、イケメンでもなく、

成績も中の上、スポーツも特筆するものはなく、

平均的な男子高校生はこんなものか、と悟っていた。

いわゆる、彼女いない歴イコール年齢、だ。


ただ、今、目の前にいる、晴子は、僕にとっての例外なのかな。

親友、少なくとも親しい友達、とは言える存在だ。


晴子とはご近所同士で、保育園の時この地に越して来てから、

家族ぐるみで仲良し、まさに絵に描いたような幼馴染だ。

高校は別々になって、少し顔を合わせる機会は減ったが、

それこそ幼い頃は、一緒にお風呂に入ったり、

ちょっとディープなお医者さんごっこをした仲だ。

そうだ、6年生の時、恋愛相談されたこともあったな。

一人っ子の僕も、寂しい思いをしないで済んだようだ。


でも、あれもこれも知りすぎているからか、

恋愛感情の様な代物は全く出て来ない、この先、未来にも。

そんな気がしていたのだが。


この日、何年かぶりにハグをした日、

もう日没が迫る時間で、晴子は学校帰りの様だった。 

「おじさん、おばさんも元気?」


「おぅ、元気すぎるくらい。今日も2人で旅行に行っているよ。」

相手の家族を気遣って、社交辞令が言える様になったな、

そういう意味でも成長したね。

と思ったが、いや、素の発言だな。

昔は家族ぐるみの旅行も何度かあったしね。


「じゃあ、今晩のご飯はどうするの?」


「コンビニで何か買ってこようかと、今出かけるところ。」


「晩御飯にコンビニ弁当は寂しいね。

なんか作ってあげようか?」


「晴子、料理できるの?」


「まあ、少しぐらいはね。

ねぇ、美乃花も呼んで、久しぶりに一緒にどう?」

蓑美乃花(ミノミノカ)も近所に住む幼馴染だ。

家族ぐるみの旅行も、お風呂も、お医者さんごっこも、

僕と晴子と美乃花と、同い年の3人はいつも一緒だった。


「いいね。昔みたいに。」


「じゃあ、一度家に帰って、着替えて来るね。

食材も適当に調達して来る。」


「オっケ。じゃあ、美乃花呼んでおくね。」


「わかった。よしくー。」


「よしくー。」






不思議な感じ。

今、あの晴子が僕の家のキッチンで料理を作っている。


「ねぇ健太郎、美乃花と連絡取れたぁ?」


「いいや、まだ返事が無い。既読もつかない。」

「電話するわ。」


「最初からそーしてよ。」


「ごめん、ごめん。」

と、言いながら音声通話発信。


美乃花は、すぐに出た。

話をすると、今日は遠方にいるらしい。


電話の声「そうなの、おじいちゃんおばあちゃんのところなの。

帰りは明日だから。ごめんね。

また絶対誘ってね。絶対だよ。」


スピーカーモードのスマホをキッチンに向けると、晴子は大声で話す。

「絶対ね。ちょっと話もしたいし。」


「またね。」

電話を切って、健太郎は気がついた。

「《そうか、珍しく晴子と2人きりだ。》」


「《もしかしたら、何かの間違いが起きないとは、言い切れないよな。》」

「《健康な男子高校生だから、そんな想像しても仕方ないよな。》」


「《でも、それはないか。》晴子だからな。」

つい声に出た。


「何?なんか言った?」

キッチンから返事が来た。


「いや、いい匂いがして来たなぁ、と思って。」


「もうすぐね。テーブル開けてね。」


「オっケ。」





「おぉ、感動だ!ハンバーグうまい!」


「でしょ、でしょ、これだけちょっと自信があるんだ。

うれしー。あんがと。」


「うっかりコンビニ弁当にしなくてよかった。

これ、ハンバーグにニンジンの千切りが入っているけど、

サクサク食感最高。香りもいいアクセント。」


「いいお嫁さんになれるでしょ。」


「自分で言うんか!?うぅん?」


「言っちゃうよ!晴子さんだもん。ふふふ。」


「ハハハハハ!」





食事しながら、他愛のない、本当に他愛のない会話が続く。

その途中、ちょっと話題が途切れた後、健太郎から再開。

「さっきの電話、美乃花と何の話がしたかったの?」


「ちょっとね。相談したい事があったの。」


「《しまった。あまり触れない方がよかった話題かな》。」

と思ったが、晴子はそうではなかった。


「あのね、健太郎にも聞いてほしいな。

男子の意見も知りたいし。」


「うん、聞きますよ。」


「私ね、ちょっと気になる人がいるんだけれど。」


「《オッと、恋バナか?僕みたいな非モテ男で役に立つのか!?》」

「あっ、彼氏のこと?」


「今、彼氏いないよ。あいつとは別れたの。」


「あっ、そうか。彼氏がいるって、誰かに聞いたけど。

それ以上の情報がなかったので。ごめん。」


「謝らなくてもいいけど。じゃあ、そのクソ男の話も聞いて。」


「クソ男なの!?」


「そう、クソ男。浮気して、それもしばらく二股してやがって、

2人で問い詰めて、土下座させてやった。

ざまー見ろ!!」


「2人で問い詰めって、って誰と!?」


「相手の女の子。彼女も騙されていて。

敵の敵は味方だから、2人で締めてやったわ。」


「こわっ。じゃあ、気になる人っていうのは誰?」


「ちょっと、名前は内緒にさせて。」


「《えっ、もしかして僕の事!?と言う妄想をお許しください。》」


「同じクラスの男の子なんだけれど、

今度、2人で水族館に行くことになって、」


「《!僕じゃないのか!?》

へぇ、水族館デートか、いいね。」


「デートかどうかわかんないけど、とにかく一緒に行く約束はしたの。」


「それで?何か心配?」


「今まで、結構仲良くしていて、

お昼はお弁当一緒に食べたりしているんだけれど。」


「いいじゃん。」


「まだ2年の一学期なのに、あいつ受験モードになってるのよ。

どう思う?」


「うん、まぁ、普通じゃない。特別早いとは思わないが。

目標がハッキリしているんじゃないの?」


「そうなの、建築関係狙ってるって。

しかも普通に工学系の建築科にするか、

芸大の建築科にするか、悩んでいるらしくて。」


「それって、もしかして、めちゃくちゃ狭き門なんじゃないの?」


「そうらしいのぉ!だから、私はお邪魔なんじゃないかと。」


「彼女作るつもり無い、とか言われたの?」


「そんなストレートには言われていないけれど、

予備校もあったり、バイトもあったりで、

忙しいのは間違いないみたい。」


「そうか、、、。」

「告白したらダメになるかも、だったら現状維持がいいかも、

とか思ってるの?」


「ワォ!当たり。さすが健太郎。」


「してみたら?」


「えーーーーー!でも、実は以前、したんだよね。」


「おぉ!」


「でも、ちゅーーーーと半端な告白で、

【クラスの中では一番好き】とか言ったの。

バッカみたい。もう、いやだ。

あの時は、確かに先輩が、クソ彼氏がいたわけだから。」


「健太郎なら、彼女と進学と二つに一つ、とか言われたらどうする?」


「細かいシチュエーションにもよるとも思うが。

僕なら、両方欲しい。欲張りだから。

でも、それで両方潰れてしまうのが、僕の悪い癖かも。」

「あっ、僕の話じゃないよね。」


「両方潰れたら嫌だ。」


「だから、それは僕の話だから。

なら、こうしたら。条件付きで告白したら?」


「条件って、何?」


「今はこのままで、受験が終わったら付き合ってください、って。」


「それ、すごい!!!何でこんな簡単な事に気づかなかったんだろぅ。」


シンクの前で、2人並んで後片付けをしていた時だったから、

「すごい!すごい!」と言いながら、濡れた手で晴子はまたハグして来た。

間違いなく、二つの圧力がある。


「そんなにすごいかな?」

晴子の肩を掴んで、ゆっくり、自然体を装って体を離す。

このままだと、僕の下半身の圧力が晴子に伝わりそうだ。


「すごい!すごい!」

足元は小さくジャンプしている晴子。

かわいい晴子。

晴子を女性として意識したのは、この時が初めてだった気がする。


「ちょっと頑張ってみるよ、健太郎。」


彼女の気持ちが僕に向けられることは無い、と強く思わされた。





食後のコーヒーを飲みながら、晴子は言った。


「ねぇ、健太郎は好きな人いないの?」

グサっと心臓に刃物が刺さったようだ。


「健太郎って、今は知らんけど、昔、美乃花好きだったでしょ?」


「えーーー。別に。もちろん嫌いじゃ無いけど。」


「美乃花って、カワイイもんね。モテるはずだよね。」


「《晴子もカワイイよ。》そだね。」


「でも、ダメよ。美乃花、彼氏いるから。」


「そうなんだ。」


「ショックでしょ!?」


「いや、別に普通。やはり誰かから聞いていたし。詳しくは知らんが。」


「あぁ、残念。

幼馴染同士のラブコメが目の前で見れるかと思ったのに。

アニメのようにはいかないよね。」


「いかないか。《いかないよね。》」





その後、少し日時が経過するが、顔を合わせる機会がなかった。

晴子の告白は、うまくいっただろうか。

うまくいった場合は、どうなるのだろう。

うまくいかなかった場合は、どうなるのだろう。


そして僕はどうするのだろう。


もしも平行宇宙とかが実在するなら、

パラレルワールドが枝分かれする、重要な分岐点だね。

アニメみたいに、神様は全てお見通しなのかな。


どっちに転んでも、晴子の悲しむ顔は見たく無い。


もしもいるのなら、聞こえているかい?

頼むよ、神様。




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