織田信長に逃げ込む

@TORAERISU

日曜発明家の災難

 ハリナビ・ナッケワンは会社員をしながら趣味で発明をしている日曜発明家だ。ある日、会社帰りに路地裏から悲鳴を聞いた。駆けつけると血まみれで倒れた女性とナイフを持った男がいた。

「何をやっている……警察を呼ぶぞ!!」

 男はチッと舌打ちをしハリナビをにらんだが、すぐにナイフをしまい走って逃げた。

「大丈夫ですか」

 ハリナビは倒れている女性に駆け寄り話しかけた。女性はすでにこと切れていた。

 その後すぐに救急に通報し、救急車と警察がやってきた。事情聴取されたがあまりの事でうまく話せず、続きは後日にしてもらい今日は帰る事となった。ウイスキーを2杯飲み、ようやく落ち着いてきて少しだけ眠れた。子供の頃から理数系にしか興味がなく、人との交流がほとんどないハリナビにとっては、ほかの人以上に大事件だ。

 翌日は仕事が休みだったのでゆっくりと起きた。朝食を済ませ買い物に出かけようとすると、玄関のドアに違和感があった。

「ナイフじゃないか!」

 ドアに血まみれのナイフが突き立てられている。それと同時にスマホにメールの着信があった。

『昨日俺の顔を見たな。』

 ハリナビは血の気が引いた。倒れそうになり急いで家の中に戻り玄関の鍵を閉めた。

「な……なぜ私のアドレスが分かるんだ……」

 またメールの着信があった。

『俺は凄腕ハッカーだ。監視カメラの映像を盗み見て順番にたどってお前の家を突き止めた』

「なんだと……。このアドレスはどうやって探し出したというんだ」

 またもやメールの着信。

『家が分かればお前の名前もわかる。名前が分かれば俺に突き止められないデータはない。デジタル殺人鬼より』

 取り返しのつかない事をしてしまった。

「こうなったらタイムマシンで過去に逃げるしかない。ただ過去に行くだけでは甘い。行った先で誰かに守ってもらおう」

 そう考えたハリナビだが昔から友人はひとりもおらず、親は早くに亡くし、親類もいない。震える手でスマホを操作し

「AI、過去の偉人で強くて……とにかく強いのは誰だ」

 AIはいくつか候補を挙げた。ナポレオン、アレキサンダー大王、織田信長……。

「この男にしよう。名前も強そうだ」

 ハリナビは特に経歴など見ずに決めた。

「しかし守ってもらうにも面識もない。こうなったらやつの中に隠れるしかない」

 大急ぎでタイムマシンを作りはじめ、夕方になる前には完成させた。急ぎ買い出しに行く。当面の食料と組み立て式生活スペース住居、水の完全ろ過装置、酸素ボンベとマスク、ウェットスーツと医療用の針と糸を購入した。貯金の全てをはたいたが惜しくはない。なにしろ自分の命がかかっている。

 もともと自分で作って持っていた物の大きさを自由に変えられる装置で、これも、もともと持っていた水から酸素を作り出す機械と荷物を小さくして、リュックに入れた。寝具など生活に必要なものは手あたり次第に小さくして持っていく。あとを追跡されるかもしれないのでスマホや通信機器は持って行かない事にした。

 タイムマシンを操作する。目標は織田信長が存命で時期でちょうど眠っている時間だ。

 うまい具合に織田信長の寝室に時間移動できた。物の大きさを自由に変えられる装置を自分に使い、砂粒くらい小さくなった。

 眠っている織田信長の布団を目指して歩く。結構かかった。布団を登らなくてはならないが、薄くて助かった。なんとか布団を登りきると足のほうから潜り込む。足づたいに進んでいくとしばらくして想定通りふんどしに包まれたペニスに出くわした。先端部から進入する。ウェットスーツに着替え、フルフェイスの酸素マスクを付け背負っているボンベを操作して動作状態にする。小さくしたとはいえ荷物が多くて操作が大変だ。

 ヘッドランプを点灯し尿道に踏み込む。尿道の肉を手でかき分けてどんどん進んでいく。圧迫されながら、同じ動作を繰り返していると苦しくなってくるが、ほかに道はないのだと自分を叱咤して歩を進める。もう一体どれくらい時間がたったか分からない。急に圧迫感がなくなった。

「膀胱だ!」

 尿とおぼしき液体から何とか出たハリナビは、ヘッドランプに照らされた濡れた広い空間に出た。ハリナビは思わず声を上げる。液体のない、岸のようになっているところまで行くと腰を下ろした。疲労困ぱいだった。

「ふぅ。いつまでもこうしてはいられない」

 休憩したハリナビは荷物を下ろし、生活スペースの組み立てをはじめた。

 尿の届かない膀胱の上の方に、持ってきた医療用の針を突き刺し糸を膀胱の内壁に通した。それを何度か繰り返しスペースを支えるための医療用の糸を何本も垂らした。物の大きさを自由にできる装置を起動し、持ってきたパネルを大きくする。それらを手際よく組み合わせていく。糸をパネルに結び付け生活スペースを固定して完成した。

 扉を開き中に入るハリナビ。酸素発生装置を起動する。

「これでようやくマスクを外せる」

 ハリナビはマスクを取るとその場に座り込んだ。

「これでもう安心だ。奴は私を見つけられないしここまでは追ってこれない」

 ウェットスーツを脱ぎ服に着替え、小さくした寝具を取り出し、大きくする操作をした。疲れているので眠ることにする。

 眠ってからしばらくするとやけに暑い。まるで外が火事にでもなっているようだ。

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