第3話

『私と付き合ってみませんか?』


 普通に考えれば、告白の言葉と捉えて差し支えないような文言だが、出会って1日経たず、ラインを交換して1日経たず、もっというならラインを送ること自体、5時間ぶり2回目といったところで、この文言を見て『うん、俺告白されたな』と思うほど、朔太郎はバカではなかった。


 ——う〜ん、お嬢様ぁあ? どういうこと?


 いくら、箱入り娘だとしても『よろしくお願いします』の次の文が告白というのは考えにくい。


 ——いや、この画面笑えるわ。普通にスクショ案件だわ。


 そう言って、有言実行。本当にラインの画面をスクショし、オンラインストレージに素早く保存する朔太郎。


 取り敢えず、『どういうことですか?具体的にお願いします』と朔太郎は返してみる。

 もし、これが本当に告白のつもりなら、お先真っ暗、ご破産間違いなしの返事だが、この際、それしかないと言える。


 ピロン。


 ラインの着信を知らせる通知音が鳴る。

 

 『明日から1週間 配送料無料!』


 和佳奈ではないが、朔太郎は危うくアカウントを一つ消すところだった。

 最近では緑色の立方形のリュックが目に慣れてきた、あの、デリバリーサービスの公式アカウントからの連絡だったのである。

 ややこしいことすんな、朔太郎はつい怒ってしまう。


ピロン。


和佳奈 『お返事が遅くなり申し訳ありません。』


——えっ? それだけ?



——1分後🐤——


和佳奈 『お尋ねの件ですが、私の偽彼氏様になって頂きたいのです。レンタル彼氏の申しましょうか、所謂"レン彼"でしょうか?』

朔太郎 『俺が、東雲さんの恋人を仮に演じるということですか?』

和佳奈 『私の名前は和佳奈です。』


 どこに拘んねんと思ったが、和佳奈の言いたいことがおおよそ判ってきた朔太郎である。


朔太郎 『じゃぁ、和佳奈さん、俺に偽彼氏を頼んだ理由を教えて頂けますか?』


 ——ラインで敬語で打つのめっちゃ面倒い。


和佳奈 『ボディーガード兼でしょうか?彼氏らしい人がいれば、変な虫? がつくこともありませんでしょうし。駒井さんだったら、ちょっと年齢が。それに、』

和佳奈 『フリーな今のうちに、気の使わない人とデートに行ってみたいな、というか。悪い意味じゃ何ですけど、浅村さんでしたら私にあんまり気を使ってないようですし。あ、悪い意味じゃないんですよ』

朔太郎 『俺でいいんですか?』

和佳奈 『良くなかったらこんなラインしてません』


 ——確かに。


朔太郎 『では、報酬は如何程で?』

和佳奈 『そういうとこですよ、私が浅村さんに頼んだのは。 それはいいですけど、毎週土曜日、日払いで一日当たり二万円。経費は別途請求して頂けたら、というような感じで考えております。問題ありますでしょうか?』


 画面越しに上品に笑う和佳奈の顔が見えるようである。


朔太郎 『問題なんて、まさか。破格ですよ。』

和佳奈 『じゃぁ、契約成立ってことでいいんですかね。』

朔太郎 『ええ、よろしくお願いします。』

和佳奈 『こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いします。』

和佳奈 『あ、後日、正式な契約の方を。日時が追って連絡しますね。』

朔太郎 『判りました。』


 たったこれだけのやり取りに掛かった時間は驚異の(いや、脅威の?)12分。

 だが、何はともあれ、朔太郎と和佳奈の歪な関係が始まった訳である。


ピロン。


和佳奈 『今度6月1日 U字公園近くのカフェでよろしくお願いします。詳細は添付ファイルを。』


 PDFに変換されたファイルを見ると、本当にカフェの詳細がある。


 ——情報系に強いのか弱いのか。ってか、"後日"って今日やったんかい。


 プロロロ。

 

 ——今度は電話かよ。


 【上村】と表示された画面を見て朔太郎はうんざりする。


「お掛けになった電話は……」

『いや、ネタ古いて』

「で、何のようだ? 浩二こうじ

『うーん、今度の土曜日、つまり、』

「6月1日」

『うん、そう。 って暇?」

「ベリービジー じゃぁ」

『ビジー……っておい! 切るn』

 

 切るな、と言う前にサクッと通話終了を押す朔太郎。サク、だけに。


 なんせ今度の土曜日は大事なクライアントのミーティングがあるんだ。 朔太郎はそう小さく呟いた。

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ナンパ男からお嬢様を守ったら偽装彼氏を依頼された。 @oden-konnyaku

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