第11話
12月26日、朝。夢の国へ旅に来ていた人たちが帰った後の夢の国。
「ふぁ~。」
僕は大きめのあくびをする。今日は怒涛の残業終わりで夢の国の住人たちが帰ってくる日だ。
「ゆきさん!ままはかえってくる?」
「うん。もう近くまで帰って来てるって。」
今回の仕事は楽しかったな。
「青い鳥、かぁ。」
残念なことに青い鳥はこの世界に存在しない。彼女が、石崎唯が見つけた青い鳥は、完全に彼女の空想の中にしかいないのである。
昔の彼女は確かに「青い鳥」を読んでいたんだろう。でも彼女の夢の世界を構築しているのは「青い鳥」の世界線に限らなかった。
「クリスマスキャロル。言われてみれば似てるよなぁ。」
今回の仕事は本来、僕の仕事ではない。ミシェル母の代行だ。
ミシェルの母親は職業「サンタ」
世界各国を回るのに忙しいから、僕が代わりに9年前のお客さんから今のお客さんへ「夢」を届けていたのである。時間がかかる案件を1つ手伝うくらいなんてことない。
サンタさんの仕事とは何なのか。
プレゼントを運ぶことは勿論、実際に運んでいるのは「夢」ではなかろうか。
運んでいた夢から青い鳥が出てくるなんて思ってもみなかった。
でもそれが彼女にとっての「夢」だったんだろうな。幸せが具現化していること。それだけで未来に希望を持てるなら素晴らしいことだ。
出来る限り、現在の彼女に介入せず、昔の彼女のお願いを叶えること。
これが今回の”サンタ代行”だった訳だ。
うん。きっと成功した。
「ただいまー!」
「ままだ!」
ミシェルが走り出すのを追いかけて僕も出迎えに行く。
「ただいま、ミシェル。ユキヤくん。」
「おかえりなさい。」
「今年もミシェルをありがとう。それにややこしい仕事もお願いしちゃって。」
「いえ、楽しかったですよ。」
僕にとって、決して現実は生きやすくなかった。
今ほど全ての人間に配慮をするような時でもなかったし。
僕はここに来客者として来た人間だ。僕を僕のまま受け入れてくれる人が居たらいいな、という夢を無謀にもサンタさんに祈ったことがあったからだ。
「ユキヤくんがここにきて、もうだいぶ経ったなぁ。」
「あの節は本当にお世話になりました。」
「この世界は、この夢は楽しい?」
「はい、とても。」
現実の世界には長く戻っていない。彼女は戻っていったけど、僕は戻っていない。もう現実というものはない気がする。
僕は生きている人は全て各々の「夢」の中で生きているのではないかと思うことが増えた。
だからこうして僕にとっての夢を書き残している。もし夢が消えてしまっても、描いた世界に逃げてこられるように。全て僕の為に。
それでいい、でも願わくば
この夢が消えてしまいませんように。
青に縋る 古藤ユキヤ @kotouyukiya
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