第10話

「ゆい〜!起きなさ~い!」


お母さんの声だ。


外が明るい。私は部屋のベッドで目覚めたようだ。商店街から、家に帰ってきて、お風呂に入って、寝て起きた。


それだけのことだ。ここまでが現実。


「あれ、夢だったのか。かなりリアルな夢だったな。」


私が将来に希望を持ったかというと、そんなことはない。将来やりたいことも何もない。

それでもいいと思った。漠然と、時に流されながら生きている人だってきっといる。

あのリアルな夢の国で、私は深く沈みこまなかった。商店街に入った時とは大違い。


「青い鳥、は流石に居ないか。」


一応周囲を見回す。朝日に照らされた世界はいつもより美しかった。


私は何も変わっていない。忘れていただけ。カラオケより本が好きだし、クリスマスはおおきくなったけどワクワクする。

忘れていただけ。


「ありがと。」


空から見てるかもしれないサンタさんにお礼を言う。12月24日の最も忙しい夜に9年も前のお願いを叶えてくれた。


私にはどこまでが夢でどこからが現実かは分からない。それでいい。

夢が現実ではないと言い切る方法はない。言い切る必要はないと思う。いつもの夢みたいに忘れてしまいたくない。


自分の中に青い鳥がいた。自分の中に居るのだから誰にも邪魔はされない。


日光に仕事をとられた電飾たちが窓の外に見える街に残っている。


今日は髪の毛を巻かないで外に出ようかな。

私は、本棚から、青い鳥を引っ張り出す。


「メリークリスマス。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る