第6話
誠二が帰ってから一人ショックを受けていた。太一は自殺したというのだ。あまり無理をするなと健一から何度も言われていたらしいが、海外からの顧客の話に乗って大穴を狙って失敗したということだ。遺書があり「騙されたようだ」とだけ書かれてあった。額は億を超えたが、太一が残した預貯金とマンションを処分し、保険で半分ほどは返せたようだ。健一はずっと東京へ行っており、LINEで状況を説明してくれるだけだから、実際のところはどうなっているのかわからない、ということだった。
それから数日はケータイで健一に連絡をとってみるが出てくれることはなかった。ぼくに連絡がないのは心配かけたくないからかもしれないが、誠二から聞かされるまで何も知らなかったというのも、ある意味ショックだった。
それから一か月ほどしてテレビのニュースで気になる事件を見た。港に浮いた男の死体が発見され、引き上げ身元を調べたところ投資詐欺の疑いで手配されていた外国人ということだった。外傷からどこか別の場所で突き落とされ、海に捨てられたようだとのことだった。
突き落とされ、た。そのことばが気になった。まさかとは思うが健一はまだ『神の手』を返してないはずだった。連絡を取りたかったがケータイには出てくれない。ぼくは車椅子を動かして家を出た。最近、不審な男が家に来たから近寄らないでと誠二から電話をもらっていた。暴力団とも思える風貌で「金どうするんですか」とか「いい家にお住まいで」と言ったという。それでもじっとしていられない気持ちだった。なんだったらぼくの家を処分してもいいではないか、そう思っていた。
健一の家までは車椅子でも十五分ほどだ。電動だから力はいらない。五十メートルほど先の道の反対側に家が見えた。黒い車が停まっており、男が一人乗っているのがわかった。運転手のようだ。暴力団の取り立てか、と想像できた。その時今しも玄関から男が出てきて「また来るからな」と怒鳴る声がここまで聞こえてきた。ぼくは車椅子を止めた。どうすべきか、迷った。ぼくに出来ることは限られていつではないか。
男は車に乗り、運転手が発信させた。車がこちらへ向かって走ってきた。次第に大きくなり、中の二人の男の顔が見えた。道の端の車椅子の僕を胡散臭げに見たのがわかった。
その時、車椅子が動いた。えっ、と驚いた。押された。車椅子はあいつらが乗った車の前へと出た。驚く表情の男たちの顔を見ながら、「そうか」と納得した。ぼくの背後に誰がいるのか、わかったのだ。健一は何度押したのだろうと、眼前に迫った車を見ながら考えた。ブレーキは間に合わなかった。
了
神の手 小島蔵人 @aokurakou1
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