恋ってなんだろう
ひなか東湖
第1話
恋愛したことない。一応告白などされて付き合ってみたことはある、高校時代
経験はキスどまり。それも初めての飲み会でたまたま隣に座った男と。
「あんた誰?」それが感想。それから進展することはなく就職して3年
25歳の時、見合いした。親がうるさかったのと見合いが職業みたいな近所の夫婦に乗せられて。とんとん拍子に話はまとまって、出合って一月後には結納。
見た目も、職業も、相手の家族にも特に不満は無かったから式場から結婚衣装に新婚旅行、相談という名の暫定義母の決定について逆らう気もなかった。大体、結婚はするものと教育されていて、お姑さんとはもめず相手の家に入って、良き嫁良き妻良き母親になるというのは呪いのように両親親族から教え込まれたことだったから疑問を持つことはなかった。周りからも良縁だと事あるごとに祝福されて、ちょっといい気分でもあった。なのに、なんで。どうして、なんでこんなことになってるんだ?
なんで私こんなとこにいるんだろう。帰っちゃダメかな。
目の前で言い争ってる二人の男女。一人は祭壇の前で指輪を交換した暫定夫。
もう一人は結納の前に紹介された遠縁の女性。遠山道子って言ったかな。
確か暫定夫の二つ上だったと思う。義母になる予定の妹(義理の叔母予定)の結婚相手のいとこの娘。殆ど他人ではと思うが子供の頃から親しかったのだそう。
その彼女、独身と聞いていたが何故か妊娠した様子で暫定夫にあなたの子だから責任取れと乱入してきた。知らない、俺の子じゃないと怒鳴っているが、子供はともかくやることはやってたらしい。だが道子さん。なぜ今言ってくる。せめて前の日にはならなかったのか。いや式の前でも言ってくれれば私はここにいなくて良かったのに。もう帰ってもいいだろうか。花嫁衣装も鬘も重いし頭は締め付けていて痛いんだが。せめてお色直しのドレスの時に来てくれれば痛いのはハイヒールを履いた足だけで済んだのに。お腹もすいた。披露宴のご馳走については花嫁がパクパク食べるのは見苦しいと言われていたから諦めていたが、代わりに控室でおにぎり用意していると言ってもらっていたのに。これでは食べられないだろうな。
目の前の争いは暫定母やその家族まで乱入してすごいことになっている。私の家族についてはただただ呆然とするばかり。あ、仲人夫婦が乱入した。奥さんのほう鬼みたいな顔になって怒鳴る声は一番大きい。旦那さんのほう実力行使に出ることにしたようだ。当事者たちではなく暫定母を取り押さえているのは何故なのか。
もうどうでもいいが、おなかすいたなぁ。
翌日、結婚は見事に無効になった。新婚旅行に旅立った後、暫定義両親が出してくれる予定だったサイン済みの婚姻届けは、無事実父が回収してくれた。仲人夫婦、
暫定夫の上司だったが、えらく同情してくれて(奥さんのほうが特に)慰謝料の話まできっちり片をつけてくれた。暫定夫と遠縁の女性がどうなったのかは知らない。父は知っているかもしれないが私は興味ないので聞かない。
私はというと、結婚は無くなり、する気もなくなり、親もその他うるさかった周囲も静かになり、仕事は止めていたので少しだけ夢見ていた海外留学というのをすることにした。結婚のためにかかった費用の返金と慰謝料で自分の貯金を使わずに、壁画修復の学校に留学することが出来そうだ。見合いから結婚式をするまでの半年間の日々は周囲に任せきりだったので今思えば映画でも見ていた気分で当事者意識は全くない。やたら同情されるのがこそばゆいくらいの認識だ。
イタリアに向かう飛行機の中でふと考える。あの女性は何故あのタイミングであんなことをしたのだろう。あれが恋に夢中になるということだろうか。私ももし恋をすればあの気持ちがわかるのだろうか。まぁ、今のところはどうでもいいことだ。少しだけ、あの男女はともかくおなかの子供は無事生まれてくれるといいな。無事に育ってくれるといいな。とだけ思って私は眠気に身を任せた。
恋ってなんだろう ひなか東湖 @norifuku0679
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