胸の鼓動

糸花てと

第1話

 何か大きなことがあると、大人は言う。「緊張してない?」って。


 それがわかってきたのは、授業で発表するとき。


 それから、小学校高学年になってきたあたりから。


 バレンタインにはチョコを渡す。その意味を知って、憧れた。



 小学校からの大半が同じ中学へ行き、一気に大人になった気がして、緊張した。

 当日までに盛り上がりをみせるバレンタイン。誰かに渡さないの? って聞かれたから。比較的話しやすかった隣の席の男子に「義理だから」と言って渡した。


 お返しの日とされてる3月14日。

 下駄箱で靴を履き替えてたら、ぶつかる。「ごめんなさい」と振り返ったら、「チョコありがとう」と返ってきた。


「チョコ買うの、緊張しなかった?」

「だって義理だし」


 それを聞いて、そうなんだけどって思ったけど、ショックを受けてるわたしがいる。



 高校受験。食欲がなくなるほどに緊張した。中学ほどには……驚くほどの変化はなかった。けど、付き合ってるんだって、これを新しくなって間もない環境で聞くのはびっくりした。

 中学で付き合って、同じ高校を受験? 良すぎて言葉が出ない。


 静かに進められていたバレンタイン。彼氏、彼女の関係がすでに多く、ちょっと恥ずかしくなった。



「よかった、帰ったかと思った」


 何だかんだよく話してて、同じ高校だったんだと気づいたから、クラスの子に渡してとお願いしたんだった。忘れてた。


「クラスのヤツから渡されるってことは義理なんだろうと思うけど……いろいろ考えた。高校でもくれて、ありがとう」

「うん……」


 義理だって言いきった中学の頃も覚えてるの? 高校になって、わたしはどう思ってた? 高校でもって、ヤバい……意識しちゃうじゃん。


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