第12話
昼休みになって、遠野がかわいらしいポーチを下げて俺の所に来た。
「坂上くん、これ」
「うん……と?」
「ほら、約束したやつ。一緒に食べよ?」
そういえば夜の通話でお昼ごはんを一緒にとか何とか話した気がする。教室の一角で遠野の友達が「頑張れ!」みたいなポーズをしているのが気まずい。
「とりあえず……行こっか」
「うん」
俺がコンビニの袋を下げて教室を出ると、遠野が後ろを付いてきた。なんかキャーキャー言う声が聞こえた気がするけど気にしない。ああ、そうだ。俺がお昼はいつも適当に買って食べてるとか言ったんだった。そうしたら遠野が「お弁当作っていい?」って言ってきたんだ。思い出した。それでもう作ってきてくれたんだな。
…………午前3時過ぎに通話終わって、その後から?手作りのお弁当を?マジで?得体の知れない感情が湧き上がってきそうになるあたりで、ピロティーに着いた。暑くなってきた最近はあまり人のいない隅っこのベンチに並んで座る。
「じゃあ、これ」
「うん、えっと、ありがとう」
もじもじ差し出された包みを受け取ると、遠野の指にばんそうこうが増えているのに気付いた。
「あれ、怪我したの」
「あ、うん。ちょっと、切っちゃって」
そう言って赤くなる遠野が、ちょっとありえないくらいかわいかった。え、お弁当作ってて指切っちゃった?マンガかよ。舞い上がって包みを開くと、ちょこんとかわいらしいお弁当箱が出てきた。蓋を開けると、小さなおにぎりとミニトマト、レタスの上にハンバーグが並んでいる。赤いソースがかかったハンバーグは、手作りなのか少しいびつな形をしていた。
「わ、すご」
「料理とかあんまり得意じゃないから、ごめんね」
「いや、めっちゃ美味そう」
隣に座る遠野の包帯からは、少し黄色みがかった痣がはみ出している。自分がやってしまったことを思い出して、空まで吹き上がっていた気持ちがどーんと地面まで落ちてきた。
「あのさ、ごめん」
「え?」
「その、怪我。痛いよね」
「え?ああ、全然大丈夫だよ。見た目ひどいから包帯巻いてるけど、そこまで痛くないんだ」
そう言って微笑む遠野の顔を見て泣きそうになる。『人生かけて愛してあげてね』?あの変な女に言われるまでもない。俺でいいんなら、一生捧げて愛、その、大切にする。
「ね、気にしないで」
「うん、ありがとう。いただきます」
箸箱から箸を取り出す。何から食べよう。指を怪我してまで作ってくれたんだから、よく味わって食べなきゃ。
……指を、怪我して……?
昨日の踊り場。シャツの下の白い肌。包丁。手作りのハンバーグ。指の怪我。挽肉。何かが一本の線で繋がりそうになって、横の遠野の様子を窺う。
「ちょっとだけ、だよ?」
ばんそうこうをした指を自分の唇に重ねて悪戯っぽく呟く遠野は、過去最高にかわいかった。
惚れ薬は用法用量を守って正しくお使いください。 田中鈴木 @tanaka_suzuki
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