第11話
あの後、女からは大した話は聞けなかった。惚れ薬を中途半端に使うと何がダメなのか、具体的には知らないらしい。『バイトみたいなもんだしさー、クスリのことなんて知らんよ』と言われたらそれ以上何も聞けない。あの薬がどこで作られているのか、誰が仕入れているのか。どんな成分で、どう効くのか。何ひとつ分からない。
暗くなる前には女と別れ、家に帰った。ベッドに倒れ込み、少し憂鬱な気分でスマホを開く。なんで好きな子に連絡するのにこんな気分になってるんだろう、俺。約束したからには連絡しなきゃいけないんだろうな。はぁ。
とりあえずシャワーを浴びて夕食を済ませて、と先延ばしにし続けたが、遠野からはメッセージ1つ来なかった。その沈黙が怖くて通話を始めたのが22時過ぎ。それからずーっと話し続けて、午前3時過ぎに「じゃあ、また学校で」と切ることができた。何を話していたのかほとんど記憶にない。通話の遠野は妙にテンションが高くて、途中からスピーカーに切り替えて適当に「うん」とか「はい」とかって言ってただけな気がする。昨日……というかもう一昨日?の俺の行動は、遠野も包丁を持ち出したのでチャラ、らしい。それでいいのか分からないけど、もういいや。心臓云々については……。めっちゃ語ってたな。ぜんぜん理解できなかったけど、まとめるとたぶん愛、なんだと思う。愛されてるんだって、俺。良かったな俺。
……寝よう。とにかくもう寝よう。あとはまた明日──じゃなくて今日、学校で考えればいいさ。電気を消す気力もなく、ベッドの上で目を閉じると俺の意識はあっという間に吹っ飛んでいった。
朝、自力で起きたのは奇跡みたいなもんだったと思う。なんかふわふわしたまま電車に乗り、いつもより遅く教室に着いたら遠野はもう登校していた。相変わらず腕と足に包帯を巻いている。俺を見つけた遠野がトトトっと駆け寄ってきた。
「坂上くん、おはよう」
「おはよ」
「……また後でね」
「うん」
寝不足のせいか、遠野がキラキラして見える。自分の席に戻った遠野が友達に囲まれた。
「結衣、坂上と絡みあったっけ?」
「あ、えーと、うん」
「え、何?そういうやつ?」
「……うん」
「えー何で?嘘でしょ」
嘘でしょって何だよ。黄色い歓声が上がる教室前方から、品定めするような目線が次々飛んでくる。めちゃくちゃ気まずい。授業が始まってからも何か事ある毎に視線を感じて、休み時間はトイレに逃げた。女子ってなんでこんなに恋愛ネタ好きなの?
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