第8話 終章

「――結局、取り逃がしてしまったというわけか」


 薄闇の会議室に、失望を禁じ得ない総括の声が、身なりが立派な出席者たちの耳に入る。


「――空宙嵐うちゅうあらしの突破だけでなく、陽月系内の突入まで成功させるとは、やはり侮れないな。偽のみかどたてまつる賊国の航空技術は」


 それを聞いた出席者の一人が応じると、腕を組んで座椅子の背もたれにもたれかかる。


「――分裂した大陸国家を統一するまで、余計な時間を与えてしまったな。まだその余波が今でも残っているというのに。賊国に更なる技術的知識・情報ノ   ウ   ハ   ウ          を蓄積させてしまった」


 別の出席者が苦味を帯びた声で漏らすと、また別の出席者が口を開く。


「――それでも、我が国に侵攻できるほどの水準レベルには程遠い。少なくとも航空戦力的にはな。情報部の報告では、防衛戦力すら整ってない状態だ。心配には及ばない」

 

 会議室に楽観的などよめきが沸き立つが、長大な木製の机を叩く音がそれを叩き潰した。


「――だが、その分野には留まらない技術が、第二日本国などと称する賊国に浸透しているではないかっ! それも一般水準レベルにまでっ! 真の帝を奉る我が国がそれに追いつくのは容易ではない。油断していると思わぬ所で足元を救われるぞっ!」


 机を叩いた出席者を、隣席の出席者が宥める。


「――わかっている。だからこそ、賊国に破壊工作員を送り込んだのではないか。裏社会から賊国内部をかき回してくれれば、治安の悪化や内乱の誘発が望める。防衛態勢など容易に崩せる」

「――奴らのことか……」


 机を叩いた出席者は憎しみを込めて吐き捨てる。


「……当てにしていいのか、あの連中を。実力があるのは確かだが、それゆえに我が国と敵対していたではないか。おかげでどれだけ我が国は損害を被ったか」

「――気持ちはわかるが、経緯はどうであれ、結果的にはそのおかげで大陸国家の統一に貢献したのだ。それに、実力に反して、地位や権力に興味の欠片もない、極めて世俗的で享楽的な連中だ。適当な遊び場を与えてやれば、こちらの意のままに操れる。現にそれをチラつかせたら、嬉々として賊国へ向かったし」

「――どうだが。裏を返せば、気まぐれで後先を考えないとも解釈できる。いつまた敵対するか、わかったものじゃない。現に賊国への亡命者を故意に見逃している。信用なんぞできるものか」

「――だが利用ならできる。また敵対するのであれば、利用できる間は、利用するだけ利用すればいい。仮に賊国で死んだとでも、我が国はなにも困らない。敵は共食いさせるに限る。そうは思わないか?」

「……そう願いたいものだ。でないと困る」


 机を叩いた出席者が皮肉げに締めくくった後、会議の首座らしき人物が立ち上がる。


「――いずれにしても、我々のすべき案件は山積している。賊国への侵攻は我が国の積年の悲願。だがそのためにはまだ足場を固める必要がある。敗残勢力の掃討、国内管理システムの構築、諸民族の統制の徹底と造反の阻止と鎮圧、そして、賊国に対する真の帝と我が国の存在の顕示――」

『……………………』

「――これらの案件をすべて処理したあと、天下分け目の戦で追い落とされた恨みを晴らすのだ。賊国の滅亡こそ、真の帝を奉る我が国の悲願なのだからな」

「――その通りだ」


 出席者の一人が頷くと、会議の首座らしき人物が立ち上がる。


「――全ては真の帝のために」

『――全ては真の帝のために』

  

 続いて立ち上がった出席者たち全員も、会議の首座らしき人物に続いて唱和する。

 そして、会議の首座らしき人物は、先日の閣議決定で改名された自国の名を使って声高に言い放った。


「――真の帝の『新生第二大日本帝国』に栄光があらんことを――」






                               ――完――

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才能と志望が不一致な小野寺勇吾のしょーもない苦難7 -15少年少女の不本意で不慣れな空宙航行奮闘記- 赤城 努 @akagitsutomu

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