第7話 遂に果たした帰還と、未だ果たされぬ志望
――こうして、本国に帰還すべく、空宙嵐に見舞われた
『エアーストリーム』の乗組員たちは、第二日本国の国防空軍空港で下船したあと、軍の高官たちと慌ただしい情報の交換と共有がされた。
本国でも、
だが、本国と
しかし、空宙嵐の中を
四日後、被災地に到着した
いずれにしても、改良中だった『エアーストリーム』を操船し、本国まで困難な帰還を果たした搭乗員たちの功績は大きく、その十五人は時の人となった。
その事件では
ただ、メディアの露出は、
だが、それも無理はなかった。
ただし、帰還中に接触した謎の敵影については軍事機密扱いにされたので、口外は厳禁となった。
当然、非軍人である
無論、メディア露出に消極的な者もいれば、積極的な者もいて、その代表格が『エアーストリーム』の
もっとも、
「――無事で本当によかったです。
「――それはこちらの台詞よっ! 教師なのに生徒のあなたたちを置いて先に避難するなんて、教師失格よ、私は……」
「――先生の気持ち、わかります。僕も先生を置いて先に避難したら、同じ思いをしましたから」
「――仕方ないですわよ、先生。自然現象が相手じゃ、どうしようもないですわ」
「――幸い、空宙嵐の犠牲者は出なかったですし、そこだけはは素直に喜びましょう」
(――あの人のおかげですね。会えないのは残念ですけど――)
あの空宙嵐の中で出会った
「――
「――第一、先生が感じる必要はありません。災害発生の責任なんて」
「――せやせや。別に先生が空宙嵐を起こしたんやあらへんのやし、辛気臭い話はこれで仕舞いにしようで」
「……ありがとう、みんな……」
「――それじゃ、生還祝いに、僕が腕によりをかけた料理を、生還したみんなに振舞うよ。帰還中は乗組員としての仕事と食糧事情で全然発揮できなかったから、楽しみにしてて」
「……え、ええと、
「……そ、それは、学校側が用意してくれるから、その必要は……」
「あらへん、あらへん、あらへん、あらへん」
「ええェ~ッ、また遠慮するのォ~ッ!?」
三人の
「――なんで誰も食べてくれないのォ?
(――そのあと病院送りにされたけど。
三人は心の中でつぶやく。
気の毒にと言わんばかりに。
「――小野寺君。あなたの才能は軍事で最大限に活かすべきよ。そのためにあなたはこの学校に入学したのでしょ。それに相応しい成績を収めている上に、今回の活躍。不得手な料理なんかに費やすよりはるかに有意義だわ。あなたのお父さんもそれを望んでいるし」
だが、
『あちゃぁ~っ』
これは裏目の典型的見本だと、
「いやだっ!!」
「――僕は軍人になりたいんじゃないっ! 専業主婦になりたいんだっ! なのに母さんは猛反対するし、父さんも僕の味方になってくれなかった。結局、この学校に入学して学年
「えエェ~ッ?! なにそれェ~ッ!?」
(――ちょっと
――という内容の怒声は、辛うじて内心で抑えられたので、全国の
(……あの時、抽象的だけど意味深な理由で息子を陸上防衛高等学校に入学させたと言っておきながら、実態はそんなしょーもない
「……やっぱそういう
「――
早い話、専業主夫の夢を断念させてと、
「――なに?
「……ああ、ええ、そ、それは……」
見やられた愛は言い淀み、目が泳ぐが、
「――そりゃ疑うでしょう。
「――それは味覚と体質が犬同然になった結果だよ。毎日ドックフードを食べるからそうなったんだ。僕じゃなく、
だが
「――僕の料理が凄すぎて、凡人の味覚や体質では刺激が強すぎるんだ。僕や両親は美味しく食べられるというのに」
「……いや、身内だけ美味しく食べられても、意味が……」
「――とにかく、僕は専業主夫になるっ! 軍人じゃなくてっ! 誰がなんて言おうが、僕は僕のなりたいものになるんだっ!」
「――流石は
逆に賞賛したのは
「――でもまさかあたちと同じ苦悩を抱えていたとは思わなかったでち」
『――同じ苦悩?』
「――どういう意味でっか?
首を傾げながら尋ねる
「――あたちはね、陸上防衛高等学校に入学する前から、国防空軍の将来を担う
「ええェッ?! そうなのっ!?」
素っ頓狂な声を上げる
「――そういえば、
「――密航者として、やけど。ちゅうことは、正規の乗組員として参加したわけやないんですね」
「そりゃそうでしょ、
「――そらそうやな、確かに」
「――じゃ、なんで密航してまで参加したのですか?」
今度は
「――あたちの
『……………………』
「……冗談やろ?」
「――
「……そらそうやろ」
「――でも
「……それもそうやろ」
「――で、条件を満たちたあたちは、晴れてあたちの望み通り、陸上防衛高等学校に入学できたのでち」
『……………………』
「――でも、こんな形で
「……つまり、
「……まさか
それを聞いた
「――ど、どういうことですか?
「……
『…………………………………………』
「……本気やな、言うまでもなく……」
『……………………………………………………………………………………』
幼馴染の
(……なれるわけないでしょ。空宙最強の兵士なんて。武術トーナメントで無様極まる惨敗を二度も喫しておいて。兵科合同演習の成績だって、ほとんどマグレで取れた内容の学年
「……いたんだ……」
逆に感動に打ち震えている生徒がいた。
「……僕と同じ苦悩を抱えている人が、僕と同じ学校に……」
その先輩と同じ境遇の
「――先輩っ! 僕は全力で先輩を応援しますっ! 周囲の反対を押し切り、自分の意志と志望を貫く姿は、とても立派ですっ! だから頑張ってくださいっ! 僕は、先輩と困難な空宙の旅路を共にできて、誇りに思っていますっ!」
速足で
一方、励まされた方の
「――
(……それはそうでしょうね。私も今までそんな人会ったことないもの……)
冷めた目で眺める
「――とても嬉ちいでちっ! 第二日本国最強と謳われている女性剣豪、
「……摘むもなにも、最初からない芽は摘めないでしょうに……」
「――本当ですよね。何事も続けて見ないと何もわからないのに、一度や二度で知った風なことを言う人の耳を貸す必要なんてありませんからね。『継続は力なり』という
完全に先輩の
軍事面において息が合う
(……『石の上にも三年』以上続けても、一度目と同じ結果が、二度目以降ずっと続いているじゃない……)
(……おまいこそ人の耳を貸せや……)
(……こっちこそイヤになるわ。『継続は力なり』を『無駄な努力』と誤解して……)
「――お互い、頑張るでち。自分の夢の為に」
「――はいっ! 頑張りましょうっ!
『~~あああああああああああああっ~~!!』
絶望の唸り声を上げて深くうなだれたのは、
「――折角の機会でち。
その第一歩を、
「――はいっ! 僕も実家の両親に僕の本心を人間カメラの前で伝えたいですっ!」
「――ちょ、ちょっと待って、
「……そ、それは、やめた方がいいと思うわ。下手をしたら、炎上の危険が……」
「――
幼馴染の忠告を遮って、
そしてそのあと、衝撃的な言葉が、
「――絶交だ」
『…………………………………………………………………………………………………………』
「…………………………………………………………………………………………………………」
『…………………………………………………………………………………………………………』
「…………………………………………………………………………………………………………」
『えええええええええええええええええエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェッ!!」
それを聞いた
「……なっ、なにを、突然っ、急に、そんなことをっ?!」
驚愕した
「――だって、今まで応援したことないじゃない。
「――ゑ《エ》ッ?」
「…………………………………………………………………………………………………………」
声ではなく、
「――幼馴染なら、応援して当然じゃないの? 料理を食べてくれたっていいじゃない」
「…………………………………………………………………………………………………………」
追い打ちをかける
「……応援なんてできるわけないでしょ、ましてや、喫食者を病院送りにした料理なんかを……」
「……ワイがどんだけおまいのせいで
だが、
「……どうしよう、
「――それだけ根に持っていたってことね。幼馴染の志望をちっとも応援してくれなかった事を」
「……そ、そんな……」
「……諦めなさい、
(……終わってしまうの? アタシたち。こんな……こんなくだらないことで……)
暗黒の空間に独り取り残された
幼馴染の心を繋ぎ止める方法を。
この時ほど
(――どうすればいい、ドウスレバイイ、どうすればイイ、どうすれバイイ、どうスレバイイ、どうスレばイイ、どうスレばいい、ドウすれバいい、ドウスレバいい、ドウすればいい、ドウスレばいい、ドウスレバイイ、どうすればイイ、どうすれバイイ、どうスレバイイ、どうスレばイイ、どうスレバいい、ドウすれバいい、ドウスレバいい、ドウすればいい、ドウスレばいい――)
だが、どんなに脳ミソを
浮かぶわけがない。
そんな奇蹟的な方法を。
そして全力なので、すぐに脳ミソは焼き切れる。
「――ああああああああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!」
ついに思考が停止した
その時だった。
「……あった。ひとつだけ。でも、それをしたら、アタシは、もう……」
それでも、かなり躊躇うが、
「……でも、これしかないっ!」
訝しげな視線で眺める
「――
『?!』
「――だから、絶交しない欲しいなァ」
「もちろんだよ、
条件反射の迅速さで振り返った
「――じゃ、さっそく作るね。さァ、行こう。野外実験場に。材料ならそこに揃っているから」
とびっきりの笑顔で
「――わァ、楽しみだなァ。
『…………………………………………………………………………………………………………』
予想外の極致だった。
そして、
この先に待ち受けている運命を、既に受け入れているかのような。
それは、一人残らず死去した桜華組の正規隊士の面々を想起させた。
その瞬間、
「――うううううううううううっ!」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
「……
うなだれて膝をつく
「……鈴村。おまいは
顔をそむけて立ち尽くす
「――小野寺。君の志望は必ず叶うでち。こんなにも喜び、涙する人たちがいるのでちから」
この四者の光景を傍観していた
「……なに、この
「――おっ、もそいどんて《もしかして》、生還
「――行くど、
「――わかった、
腕前の知らない
人柱は一人でも多い方が、
それがほんのわずかであっても。
「――だったらあなたたちも気休めになりなさいよ」
「――いけませんわっ!
そこへ、美気功
「――誰ぞ、おはんは? ないごて見も知らんヤツに思い止まなにゃならん」
その誰何と文句に
「……ううっ、どうして、どうしてあたしだとわかってくれないの? あなたの前では綺麗に見せたくて、美気功で別人のように美しい顔立ちにメイクしているのに」
「――本人やと気づかへんからやろ。別人のようなメイクがアダとなって」
「――あの
「――なんだか
「――別にいいじゃない、
「――生死の掛かった空宙の旅路でも? アンタが一番テンパっていたんだけど」
「――やァねェ。気のせいよ。一番テンパっていたなんて。それは幼馴染カップルの女子の方でしょ」
「……重責を背負わされなければいいんだけど……」
将来の不安も晴れなかった。
三人の二年生女子が向かっているそこでは、一年生の
「――我々十五人が生きて本国に帰還できたのは、ひとえに、一致団結したからに他ならない。誰一人欠けても、生きて帰ることは叶わなかった。これだけはしかと明記せよ」
そのため、録音の矛先は
「――ま、こんなものだろう。誰がどう受け答えしようが、見出しは既に決まっているようなものだし、内容もそれに沿って取捨選択されるだろう」
「――ふんっ! これだから記憶操作よりも簡単に情報操作できるマスゴミは嫌いなのだ。お前と違って。どうせあの痴話喧嘩カップルのインタビューなど、全面カットされるに決まっている。お前のもそうなるとわかり切っているはずなのに、よくそいつらの前で受け答えできるものだ」
「……そりゃカットされるわよ。見出しに関係ない内容なんて……」
「――ほう。兄者は好きではないのか。物事の真偽に関係なく、当事者の言われるがままに踊ってくれる様を
「……悪趣味。嗜好は正反対でも、流石
「――ところで助手よ。例のBL《ボーイズラブ》の記憶書籍を持ってきたが、どうする?」
否、意に介していたのか、
「――兄者よ。BL《ボーイズラブ》とは何だ? 女性向けのエロ本か?」
それは意に介していたは
その兄弟の会話を聞いた瞬間、
「……アスネを介して入手したんじゃないでしょうね?」
押し殺した声で尋ね返す。
「――もちろんだ助手よ。そんなことをすれば、アス管の検閲に引っかかって記憶操作で消去されてしまう」
「でかしたわ、教授。通信ケーブルはこっちで用意してあるから、アンタとアタシのエスパーダに繋げてバイパスするわ。さァ、差して」
その声質で大喜びした
(――この事は他言無用よ。絶対に――)
「――他言無用、か――」
兄と共に念を押された
「――軍上層部にも念を押されたな。空宙の旅路を共にした我々十五人全員に」
その時の事を思い出して。
「――接敵と交戦の件は軍事機密として他言厳禁と」
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