女性と仕事

 年月は過ぎ、とある高校の近くにある大通りにて。二人の女子高生が会話をしていた。


「ねえ、大通りに新しい店が出来るって話、知ってる?」

「知らな〜い」

「なんかそこ、ネットで有名な機織り職人が作る織物屋らしいよ。ほら。この織物作った人」


 そう言って、一人がネットに載っている写真をもう一人に見せる。そこには、巨大な絵画のような織物と、それを作ったであろう女性がピースをして写っていた。


「ああ、この人知ってる〜。すっごい有名だよね〜」

「そうそう。オープンしたら買ってみたいと思ってるんだぁ」

「へぇ。私も買ってみようかな」

「じゃあ一緒に買いに行こ。場所は……あそうそう丁度ちょうどここだよ!」


 一人が先に見える『工事中』と看板に書かれた区画を指差す。工事の内容には『八宮織物店』という店が立つ事が書かれていた。


――――――――――――――――――――


 とあるお墓の前に、カジュアルな服を来た女性が立っていた。


「高宮さん……今年も来ちゃいました。もうかれこれ10年近くは通っていますね」


 彼女は涙ぐんだ声を出しながら、優しくお墓の前で微笑む。


「今日はお店がオープンする前日です。趣味も頑張ればそれなりに出来るようになるものなんですね」


 彼女の目からは涙が出て、その涙は頬を伝ってこぼれ落ちる。


「高宮さんがガンで死んじゃった後も、私は頑張って、きました……。見てましたかっ、お空の向こうでっ」


 言葉を紡ぎながらハンカチを取り出し涙を拭くも、それは止まらない。


「私も高宮さんに言われで、ずっど考えできましだ……『趣味』のこと、『仕事』のこと……でもでながった。私にはまだ分からなかっだ」


 彼女はハンカチで顔を覆い、精一杯の本音を伝える。


「でもさいぎん、すこしわがってきたんです……『趣味』って『仕事』とぢがうんだって……『趣味』には『仕事』とちがうとくべつななにががあるんだっで……かのうぜいがあるんだっで……」


 彼女の言葉は少しづつ聞き取りづらくなり、やがて嘆きとなっていく。


「これだけでもあなだにづだえだがっだ……おわがれのごどば、いいだがった……。一言だけでも、いいだがったよっ……」


 途中からハンカチで拭くのを止め、彼女は袖で涙を拭う。


「――もうあなた高宮さんは遠くに行ってしまったけれど、きっとこの言葉も伝わらないけれど、私の答え……私の『趣味』、見ててくれましたか……?」


 やがて彼女の涙は止まり、彼女はハンカチをポケットにしまって、今一度お墓に向き合う。


『■■■■■』


 ふと、何かが聞こえたような気がした。幻聴のような、でも現実味のあるような、そんな声。


「……良かったです」


 彼女はその声に言葉を返す。

 泣き止んだ彼女の瞳は、あの頃のように強く輝いていた。


 この先の未来、彼女はより有名になっていく。それは知る人はいないであろう程に。

 彼女の想いが宿った織物は、これからも作られ続けるであろう。それはきっと――


「八宮先生、私に機織りを教えて下さい!」


 他の人に『趣味おもい』を与えるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

趣味と仕事 サブ煎じ @sub_senji001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画