#333

 しばらく、呆然としていた。

 まだ現実味を感じられないまま、足元を見る。

 すると、そこに封筒が一つ、黒いリュックに隠れるように置かれているのが見えた。

 なぎさが「全部手紙に書いた」と言っていたのは、これのことだろうか。

 封筒は口が折られているだけで、封はされていない。

 中には、半分折りの紙が一枚。

 取り出して、広げてみる。

『また、Ifの世界で』

 そこには、たった一言、そう書かれていた。

「『全部書いた』って……。何も、書いてないじゃん」

 少し困惑したものの、なぎさらしいな、と思って笑ってしまう。不思議と、悲しいとか悔しいとかいった感情は消えていた。


 確かに、もう一度『Ifの世界』に行けばなぎさに会えるだろうし、なぎさがこんなことをした理由も、もしかしたらなぎさを止めることだってできたかもしれない。

 でも、今ならなぎさが「力があっても使いたくない」と言ったわけがわかる気がした。

「『Ifの世界』には、もう戻らないよ」

 誰もいない欄干の上に向かって、そう語りかける。

 ……あれほど大切なことを、こんな時に実感するなんて。


 パトカーと救急車のサイレンが、遠く響いていた。

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If 梣はろ @Halo248718

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