記憶の在処

@yukke0226

第1話

一花「帰って、きちゃった……」


潤花「……」


ーー


茹だるような夏の日。

夏休みに突入していた俺は家でアイスを片手に課題を解いていた。

学生らしい……といえば聞こえは良いが、こんな片田舎で青春ドラマのような事が起きるわけもなく

ただただ、日々を惰性で過ごしていた。


その日も変わらず、課題を解いているとインターホンが鳴ったので来客を出迎えに。

どうせ、隣……というか田んぼを3つほど挟んだ、もはや隣と言ってもいいのかどうか、分からないくらいの農家のお隣さんが、スイカでも持ってきたのだろうと玄関へと向かったところ、今に至る。


一花「帰って、きちゃった……」


潤花「……」


一花「あの……うーちゃん?」


潤花「……」


おかしい。


一花「あの」


どう考えたっておかしい。


一花「お、お〜い……」


目の前でひらひらと手を振り、必死に語りかけてきているが

別に無視をしているわけじゃない。

人間、驚くと冷静になるんだろうか。

それともちゃんと認識が出来ていないのだろうか。


今、俺の目の前には

"10年前に死んだはずの姉が、そのままの姿で帰ってきている"

幽霊の類を信じていないわけじゃないが、どこからどう見ても俺の姉『筒森 一花』だ。


一花「ねぇー! うーちゃんってば!」


潤花「……あの」


一花「あっ! やっぱり聞こえてる! どうして無視するの……!」


潤花「いや……」


一花「あ、あのね、戸惑う気持ちは分かるんだけど……」


あぁ、多分、これはあれだ。

白昼夢。そう白昼夢だ。

そうじゃなければ、おかしい。

お盆の季節だし、こんな風に見えてもおかしくない。


一花「でも、ほら、ね?」


控えめに触られたその手の感触は、冷たかった。

そして気付いた。

姉さんらしきその人物が、ほんの少し浮いていることに。


一花「お姉ちゃん、だよ〜……あはは」


潤花「……はは」


笑うしかなかった。

死んだはずの姉が突然幽霊になって、そして、今俺に触れている。


多分これはーー俺の悪夢なんだと。

そう思うようにした。

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