悪聖女~終わりを望む悪魔と終わりを憎む聖女の話~
深月
第1話 聖女オフィーリア
……私が産まれた日から。いや、それよりもずっとずっと前……そう、前世から。全ての出会いに終わりが来ることは、わかっていた。何せそれは決して歪むことの無い運命なのだから。終わりのない始まりなんて、別れのない出会いなんて、架空の世界でしかありえない夢物語だ。……でも、でも。その終わりが、こんなにも苦しく寂しいものだとは思っていなかった。
「いいかい、リア。魔軍がここに向かってきている。だから、僕はもう君とは一緒にいれない。……君を一人残してしまうこと、本当に申し訳ない。どうか。どうか、幸せに、生きてくれ」
「パパ……?待って……いかないで」
「僕だって……行きたくないさ。でも、そうでもしないと君が殺されてしまう。これは、仕方の無いことなんだ」
焼け焦げた黒い跡が必然的に視界に入ってきてしまうようなボロ小屋から見える、見惚れてしまうくらいの綺麗な満月。初めて見た父の涙と、決意の表情。一日経ったあとの、血に塗れた虚ろな父の瞳。胸を抉られるような痛み、触れるもの全てを傷つけてしまうかのような怒りと嫌悪感。……全部。全部、全部、今も鮮明に覚えている。この時初めて私は誰かに、いや"何か"に対して憎しみを覚えた。私を置いていった父?父を殺した対魔軍?いや、違う。私が最も憎いもの。それは、"終わり"だ。
「また今日も、見たのね。はぁ……もうこれで何回目?数え切れないほど繰り返すと、さすがにこの不快感にも慣れてしまうわ。慣れたくないのだけれど」
ずっと前から、今から十年前にあったあの惨劇を夢に見る。あの、戦争を。
「オフィーリア……」
オフィーリア。フルネームでオフィーリア=クルス=ミラージェス。これは、亡くなった父が私にくれた名前。この夢を見た時は、自分の名前をつぶやくようにしている。私はこの名前が好きで、気分が落ち着くから。
「魔法を持つことの、何がいけないのかしら」
この夢を見ると深く考えてしまう。この世界には、魔法という奇妙な力が存在する。そして、それを操れる人間も存在する。だが、操れる人間というのは僅か少数で、多数は魔法を操れる人間……通称『魔人』を恐れ、蔑み、忌み嫌っている。つまるところ、生まれながらにして魔法が使えるイコール生まれながらにして大きな呪いを持って生まれた忌み子……といった理不尽な式が成り立つような世界だ。
「聖女オフィーリア。依頼が来ているわ」
「そう、わかった。すぐに終わらせるわね」
「ほんと、いつも助かるわ。魔法を私達のために使ってくれてありがとう」
母も、父も、魔法を使える人間だった。のでもちろん私にも魔法は使える。し、それをもう半数以上の人間に知られてしまっているが、私は蔑まれていない。それどころか、『聖女』とまで呼ばれるようになっていた。理由は一つ。私は、何度も沢山の人の前で魔法を使った人助けをしてきたから。
「今日の依頼は……薬草の採取ね、わかったわ。これくらいなら全然すぐ終わらせれるもの」
昔から、誰かを助けるのが好きだった。自分が頑張って作る笑顔が、幸せが。私は、何よりも好きだ。なので私は、こうやって人々の依頼を解決している。
父が亡くなった後。私は父の古き友人であるファリア=ゾール=フォデステンという男に拾われ、ゲンリュークという彼が住む街に住むことになった。ゲンリュークには、毎日いくつかの依頼が来る。ので今の私は、依頼解決を生業としている。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。お昼用意して待ってるわね」
悪聖女~終わりを望む悪魔と終わりを憎む聖女の話~ 深月 @sin_getu
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