【なろう日間1位】雪女、異世界で国外追放される〜私が消えたら滅びますけど大丈夫です?〜

マルジン

雪女、異世界で国外追放される〜私が消えたら滅びますけど大丈夫です?〜

「陛下、給金を上げてはいただけませんか」


私は謁見の間で、恥を忍んで土下座をしている。


なぜ国王に土下座をしているかといえば、単純に生活が苦しいからだ。

先々代国王の時代から給金が変わらず、こうして土下座での嘆願を敢行したわけ。


ちなみに110年間ずーっと、年給5,000ゴールド。

先々代に仕えた時代の国民平均年給は、3,000ゴールドで、先代時代は4,500ゴールドだった。

今の平均年給は9,000ゴールド。


昔は良かったと思ってしまうのは、私がだからじゃないだと信じたい。


土下座から5秒後、フッと鼻で笑われた。


「文句があるなら出ていけ」


マジですか……。

そう思い顔を上げると、国王は口の片端を吊り上げて、哀れとでも言いたげに私を見つめていた。


「扇で扇ぐだけの寒波師かんぱし風情が、お前の仕事は奴隷にでもできるぞ」


「……しかし陛下、私の風は冷たくこの国」


「忘れたか雪女ユキメよ、この世界には魔法がある。そなたが元いた世界は魔法すらない、文明的に遅れた世界だから知らぬのだろうが、魔法で冷風を送ることができるのだ。お前がいなくとも事足りる。それを忘れ、この国難の時に給金を上げろとは……身の程を知れ愚か者めがっ!」


王の言葉を聞き、あ、コイツ終わってるわと、すぐに思った。

私を愚かと罵るのは、まだいいだろう。


でも、私の故郷である日本を蔑んだのは許せない。

妖怪の魅力を強く描いた劇や絵草紙があり、妖怪をつぶさに調べ上げてまとめたニッチな書まで売られ、そして水木しげる大先生のように、妖怪を子供向けにアレンジしてくれた天才が生まれし我が故郷を、文明レベルの低い世界と罵るなど……許せん。


「……身の程は知っております」


「ほう?それならば出ていくが良い」


「いいんですね?今なら、年給1万5千ゴールドで手を打ちますが」


「この期に及んで、まだ金を無心するか。惨めなり雪女ユキメよ、先々代からこの国に仕えている老婆を抱え続けた国に、感謝こそすれ金をせびるなど。はあ、悲しきかな」


「……分かりました。さよなら」


なんだい、悲しいかなって。カッコつけやがってクソジジイめ。


誰が老婆だよ、私はまだ千年も生きてませんし。

鬼や河童や天狗さんほどの妖力も威厳もありません、まだ若造です。

……いうて、中堅ですー。


私は王を睨みつけて、出口へと向かった。

すると背中に飛んでくる罵詈雑言。


「扇を扇ぐだけで偉そうにしおって、せいせいするわ」

「無駄飯食らいが消えてくれたか」

「国庫に5,000ゴールドの余裕ができましたな」

「自分の世界に帰ればよいのだ」


面と向かって言えないへなちょこ共が、ごちゃごちゃと。

自分の世界に帰れたら、とっくに帰ってるわ。


こう見えても、日本で雪女ゆきおんなと呼ばれて、わりかし有名な妖怪だったんだからね。戻ったら、そりゃあ持て囃されるに決まってる。


あの時、井戸にさえ近づかなければ、こんな不愉快な思いもしなくて済んだろうに。


平成の御上がおわす時代を、私なりに謳歌していたら、ふと見つけた時代錯誤の井戸に、妙に魅入られて。

ちょっと覗いたら、つまずいて落っこちて、この世界に来てしまった。


あーあ、どうしようかね、明日から。


私は、自室に戻り荷物をまとめた。

私の一張羅である、白い着物と雪駄に予備はないので、本当に荷物は軽い。

全財産と軽食と、それから櫛ぐらいか。


化粧品なんて、買う余裕がなかったんだよ。


すっぴんで過ごさせやがって、この国はホントくそだね。


まあ肌は白いから、白粉はなくたって十分美人だとは思うけどねえ。


はあ、次はどこに行こうかしら。


そう思いながら、この国の大通りを歩いてると、やはり飛んできた。

言葉やら、物が。


「出てきな穀潰し!」

「あばずれ!」

「お前がいると風引いちまうわ!」

「死ね、くそ娼婦!」

「貧乏の苦しみを知れ!」


ヒュン――。


とっさに出した氷の壁が、飛んできた卵を防いでくれた。


するとせきを切ったように、四方八方から卵やら魔物の臓物やらが飛んでくる。


べチャリ、ベチャ――。


私にも我慢の限界はある。

元々、人を驚かせるのは好きだったし、人を怒らせるのも好きだったけれど、限度ってものがあるだろう?


私は人を殺さないし、殺しを好きとも思ってない。

でもこうまでされて、黙ってられるかい。


本当なら、氷の壁に留まらず、全部凍らせたって構いやしないんだ。


人間ごと凍らせて、この国ごと氷漬けにしたって構いやしない。


でも止めておこうね。


どうせこの国は、滅んでしまうのだから。



私は寒波師かんぱしとして、先々代の王に仕えた妖怪だけどねえ、それだけじゃないんだ。

王を涼しくさせるために、私はこの国に仕えているわけじゃない。


「あー、なんか急に暑くなってきたな」

「だなあ」


私は、国境門の前に来ていた。

警備の騎士たちは、暑そうな鎧を着てダラダラと汗を垂らしつつも、私を見るやギロリと睨みを効かせた。


「もう入れないぞ。荷物はそれだけか」


また素っ頓狂なことを。くそ安い給金で、なにを買いだめろってんだい。


「これだけよ」


「そうか、ならばさっさと出ていけ」


私は門をくぐり、振り返った。


財政難に陥いるこの国は、荒れに荒れている。先々代から現国王に至るまで、みるみる貧富の差が広がっていったのは、官僚や貴族が大商会とくっつき汚職しているからだ。


その分割りを食うのは一般市民。

一部の金持ちが超大金持ちになって、市民がどんどん貧乏になって、その平均を取ると9,000ゴールドという年給が出てくる。


貧乏な市民は可愛そうではあるけれど、義理と人情を忘れちまった責任は、あるだろう?


そもそも私は、この国を涼めるために先々代に仕えたんだ。

先々代から、懇願されてこの国に仕えたんだ。


気候変動であまりにも暑くなったこの国は、このままだと国として成り立たないからと。

暑すぎて労働意欲が上がらないし、暑すぎて農作物を育てるのも一苦労だし、暑すぎて水も干からびるし、暑すぎて大豪雨が起きることもあるし。


そしてなによりも、暑さで年に一万人近く死ぬ国だった。


研究者の予測では、温暖化はますます進んでいくだろうと、当時は言われていた。

もうその研究者は、実利を生まないからという理由でクビになったけどね。


当時私は、研究者の客観的資料と王の懇願にほだされて、この国を助けてあげようと思った。


私が、国全体を冷やしてあげていたのだ。


王を扇ぐのは、ただの付随業務みたいなもので、メインはこの国を生きやすい国にすることだったのに。


110年も経てば忘れちまうかね。


暑さを忘れ、汗もかかず働くことのできる国。

なんでこんな国になったのか、考えたら分からんものかねえ。


「あばよ」


私はくるりと振り返り、新たなどこかの国へと歩き出す。


先々代、そして先代には良くしてもらったから、我慢したけれど、悪いねえ。


故郷と私をバカにされて、あばずれやら無駄飯食らいだと罵られてまで、残りたいのは思わないから。


「……はあ、暑いな」


「……急に、はあ、はあ、くそ暑くなってねえか?」


次はどんな国に行こうかね。

できれば今度は、日本みたいな、義理と人情に国がいいねえ。






――――作者より――――

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