読んでいて、ジーンと深い情緒に浸ることができる、とても素敵な作品です。
青春の痛み、季節の移り変わっていく寂寥感、そして心の成長。
ホラーという形を取ってはいますが、青春小説としても完成度がとても高く、多くの読者の心に強く響くものとなっています。
主な登場人物は二人。
一人は男子中学生の通称『眼鏡くん』、もう一人は幽霊となってしまった高校生の夏翔(かける)。
眼鏡くんには霊能力があり、ある時に公園の中に留まっている幽霊の夏翔と出会います。
そこで、彼がどのようにして命を落とし、どうして今に至るまでそこに留まっているのか、事情を聞きつつ心を通わせていくこととなります。
そして、プロローグでとても気になる一文が出てきます。
眼鏡くんがこれから起こることを反芻し、「これはぼくが、ひとりのおにいさんと出会って、そして人を殺すまでの物語」と。
一体、彼らの身に何が起こるのか。ここが気になって、ぐいぐいと読み進めさせられることになりました。(そしてその答えもまた、本作ならではのテーマ性が感じられて秀逸)
その上で、本作は様々な魅力が有機的に混ざり合い、読み進める内に様々な感情を刺激されていくのです。
まず、眼鏡くんの持っている「少年がひと夏に数奇な体験をする」という、圧倒的な「スタンド・バイ・ミー」感。
そして、夏翔の抱いている事情から来る、青春の葛藤と、それを喪失する痛み。
更に、ホラーとしての魅力もしっかり描き出され、霊能者である眼鏡くんの視点を通し、霊の世界の法則などが紐解かれ、不穏な空気を垣間見ることになる場面も。
出てくる人々は多くが互いを思いやり、自分よりも相手を大事にできる優しい人たち。でも、彼らを取り巻く状況は決して優しいものではなく、誰もが仲間想いであるからこそ、自然とそこにある痛みや切なさが強く伝わってくることとなるのです。
そして、彼らにやってくる「季節の終わり」の瞬間。
長い夏が終わり、秋がやってくる。その瞬間に、夏翔、そして眼鏡くんはある結末を迎えます。
この物語の中では、一人の青年の心の救いと、一人の少年の成長が描き出されています。
強く胸を締め付けられながらも、昂揚感もあり、前向きな気持ちになれる本作。是非とも多くの人に味わっていただきたいです。
ちなみに、同作者の「晩夏」では夏翔が生きていた頃の物語が描かれており、彼がどのように命を落としたか、彼を取り巻く仲間たちがどんな人だったかを知ることができます。
よりいっそう本作の魅力を感じられるようにもなるので、是非そちらも手に取ってみることをオススメします。