第3話 女性は哀れむ

 犯罪都市の上空で飛んでいたドローンはどこかの廃墟ビルに入る。金髪碧眼で、肌が白い女性はそのドローンに付いている、データを取り出す。鞄から小型PCを出し、撮ったデータを抽出し、目を通す。


「あーなるほどね」


 殺人鬼が暴れた映像も、彼女は把握する。いや。元から把握していた。潜入している教会で裏世界の人から聞いていたためだ。


「マーク・ベイカー君。裏世界の男と貧しくて綺麗な女から生まれた、哀れな捨て子。誰にも認められず、環境が原因で歪められてしまった哀れな子とは聞いていたけど……ここまで来ると同情なんて湧かないわぁ」


 ふうとため息を吐きながら、女性は片手で端末機器を操作し、誰かと通じる。


「はーい。こちらシスターのベラよ。例の殺人鬼のマーク・ベイカー君の情報をください。ありがとう」


 彼女は送られてきた情報を早速見る。彼女の表情に変化はない。


「よくあるパターンよね。ええ。教会に来る信者の親戚に被害があったから。それだけ。あくまでもこちらとしてはシスターとして支えるのみよ。あくまでも私は部外者であり、奥底で引っかき回すことはしない。私の主のところに提供するものは、利益と害になるものだけ。雰囲気は嫌いじゃないから、潰すつもりはないわよ。ただでさえ複雑なのに、ここで壊すのはどうかと。ええ。また会いましょう」


 女性は通信機器を操作し、通話を切って、報告書を直ちに作成し始める。


「マフィア同士の小競り合いばかりです。三大筆頭の彼らがにらみ合っているからでしょう。もしバランスがひとつでも崩れたら終わりだと思われます。我々への被害は少ないでしょうが、周辺諸国に及ぼすことで、貿易等で不利益を被る可能性があるでしょう。今のところは、彼らも理解しているのか、衝突すらない状況です。不安材料として殺人鬼が取り上げられますが、いつものパターンになるだろうと考えられます。あまりにも人との関与が少なすぎる。獣のように徘徊をして、ヒトを狩って、寝て食うだけのものです。本国に行く能すらないでしょう。それすら考えられないと認識した方がいいです。行動パターンや経歴から踏まえ、数か月の命でしょう」


 AIに任せて書いた文章を綺麗に編集させ、保存したものをUSBに入れた。背伸びをして、片付けをさっさと終わらせ、穏やかな小道を眺める。


「本来は殺人鬼という存在は脅威なんでしょうけど……時代が悪かったわね」


 女性は哀れんだ。裏世界はよくあることなのでスルーされる。そして国家すらも、驚異的ではないという認識を持ちつつある。科学技術が発達し、不穏分子をすぐに排除することが出来るからだ。


 かつての殺人鬼は新聞に載り、話題になった。しかしその先の未来は彼らの名が載ることはないだろう。たくさん誕生し、少ししたら消える。泡沫のような存在になってしまった。悲鳴そのものだろう。被害者と言ってもいいだろう。教育学を学んだからこそ、女性は哀れんでしまった。

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犯罪都市で生まれたもの いちのさつき @satuki1

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