盛夏
吉田理津
1.泣き食いのお雪
私たちの出会いは、とあるショッピングモールのアクセサリーショップであった。お雪こと
店内に意識がなかったものだから、急に、ぶ厚い柔らかい手で持ち上げられた時には、肝をつぶし、つぎに、心が踊った。ごつごつとしてはいるが、実に温かい手のひらだった。
私はてっきり、男性がカノジョにプレゼントするために、私を手に取ってくれたのだと思った。が、顔を上げると、目の前にあったのは、ふくよかな丸顔の女性であった。本来はキュートであろう小さなお目めは、強い光を帯びて、全身から異様なオーラが放たれていた。
「この桜の花びらのイヤリング、可愛いですね。色がいい。」
私は薄紅色で桜の花びらの形をしており、プラスチックでできている。本来、ほっそりとした女性が黒のカットソーやニットを着た時なぞに似合いそうな小ぶりの私である。ふくよかな女性には似合わないのではないか。
だが、彼女は私を購入することに決めたらしい。私の心の中の声が聞こえていたのか、ふんだくるように木製のボードから私を引き剥がし、鼻息荒く、レジまで直行しようとした。応対していた店員は目を白黒させながら、彼女に丁寧に声をかけ、私を受け取り、会計に案内したが、彼女はどすどすと足音を立てんばかりで、迫力があることに変わりはなかった。
クレジットカードには、力強くかつ美しい字体で『橘
ホテルのラウンジに到着すると、栗色の髪を短くカットした品のある女性が待っていて、こちらに笑いかけた。胸には、「篠田」と書かれたネームプレートをつけている。
「橘さん、今日は落ち着いて、頑張ってくださいね。もう、この前のことは忘れて。」
気遣う様子を見せながら、篠田さんは向かいではなく、
揺れが収まった私は、視界の許す限り、周囲をじっくりと観察した。土曜日の昼下がり、このラウンジでは、そこかしこでお見合いが繰り広げられている。皆似たような格好で、男性は一様にスーツを着用しており、女性はたいてい、ワンピースかツーピースであったが、華やかな色合いも多かった。ホテルのラウンジは、見合いする人々の適度な緊張感に包まれていて、他の用事の客を寄せつけない雰囲気さえあった。
外に目をやると、雨雲がビルや通りに覆い被かぶさり、陽の光を遮っている。篠田さんが時計を気にして、入り口に視線を投げ、数分経った頃である。背の高い若い男性と、中年で眉の濃い、でっぷりとした女性が一緒に現れ、席に近づいてきた。男性は、前髪を分けた
美男は、テーブルの脇に立ち、座っている
一呼吸おいて、美男が、落胆の混じる声で、
「
「バーチャル殺人です。あなた、私を見てがっくりしてるんちがいますか。」
窓の外で雷鳴が
「なんや、じろじろ見てきて、失礼と違いますか。いや、感じが良すぎるより、まだいいかも知れへん。知らんけど。私ね、この前、詐欺師とお見合いしたんです。いえね、別に、お金を取られたわけと違います。取られそうになっただけです。けどね、失礼だっていう事は、共通してると思うんです。あの詐欺師も、最初は私をじいっと見たんです。話し始めたら、感じは良かったけど、とにかく男は見た目から入る。この婚活市場、そんな面もあるんでしょう。でもね、嫌な男に出会うと、鉛筆で二の腕を刺したくなるんです。男のそういう所、ほんまに嫌いなんです。軽く殺意を抱くっていうことですね。」
向かいに座る男は、口をあんぐりと開けたまま、しばらく
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